11 ぱいくわねぇか
難敵を倒して気分良く、石畳を蹴って屋台街を歩き回る。
焼き鳥らしき物、絞りたてジュース、パン菓子らしき物、そしてパイの包み焼。
もりもり食べる俺は、そしてピコンと来た。
練金で料理って作れねえ?
料理スキルはもってなくてもパイくらいは作れるだろう、錬金術の基本だし。
そう思った俺は練金屋に駆け込むのだった。
「パァイィ?そんなもん料理屋で作りゃいいじゃないかね」
モルガさんの言うことはもっともだ。もっともすぎる。
だが男には引けない時があるのだ!
お金を払って練金台を借り、あらかじめしこたま用意した材料を眺める。
小麦粉、バター、そして冷水。これだけあれば基本パイは出来る。
あとはフィリングにするベリーと砂糖だ。
コレを練金すれば…きっとパイ生地になる!混ぜるのは一緒だからな!
そして俺は満を持して練金用ボウルに入れたパイ生地の材料を練金台に載せ、叫んだ。
「調合!」
結果は…なんだろうこれ。
なんかね…バターと水と小麦粉が分子レベルで融合でもしたのか?って感じの謎のもったりした薄透明な物体ができたんですよ。
少なくともパイ生地ではない。というか食物か怪しい。いや特殊な麺類?
なんでこんな透き通り気味なの?
とりあえず火を入れてみよう、と俺は再度練金台に魔力を注いだ。
「加熱!」
爆発した。
「なぁにヤッてんだよアンタは!」
もちろんモルガさんにも滔々と怒られた。
べちゃべちゃになったまま。
どうも話を聞いていると俺が全力で魔力を注いだからこうなったらしい。
いやぁ、蟹の一見で練金台とはこう使うもんだと思いこんじゃっていた。
身体を拭きながら今度はもう少し力を緩めてみよう。
「調合」
次は妙なことには成らなかった…がボロボロのそぼろができあがった。
なんかコレはコレで食える気がするが…焼いてみるか。
と、その前に。
せめてパイ風に固めてみよう。
練金ボウルの中で四角く練り固めて、何とか固まる生地を転がした後、俺は魔力を注いで口にした。
「加熱」
……なんか…生焼けの小麦の固まりができました。
食えたもんじゃないのでしまい込み、次の材料を入れる所で…気付いた。
工程を分ければいいのではないか?
「まずは普通粉篩いからだ…なら…粉砕!」
ボウルの中で細かな振動音がなって、小麦粉の小さな固まりがサラサラと崩れる。
付いてバターを入れて…拡販の前にやっぱりコレも細かくする。
「粉砕」
パターはまんべんなく粉の中に行き渡り、小さな粒になって残っている。
いいぞいいぞ!料理サイトで見た感じそのものだ!って言うか今までなんでそう言うの無視してたんだよ俺!
次にその粉に対して魔力に集中し過ぎないように力を掛ける。
「撹拌」
ぐちゃぐちゃにまざったパイ生地らしいパイ生地に、俺は次いで冷水を注ぐ。
そしてもう一度撹拌を軽く駆けると、俺は慎重に生地を纏め、次いで新しい技を試した。
「冷却」
……そしてパイ生地が完成した!
いやぁ作りすぎたね。
冷却でガンガン作れる上にインベントリに入れておけば劣化しないから、バリバリやってたら幾つあるかわかんなく成ってきたぜ!
おかげで中に詰めるジャムを忘れていた。
イエローベリーと呼ばれる木イチゴににた感じの味がする、このゲーム特有の果物だ。
安売りだったし丁度良い味だから山ほど買い込んだ。
さぁジャムを作るぞ!
で、ジャムの基本である。
まず果実を入れる。ついでうわぁてなるほど砂糖を入れる。
普通はこの後果実の水分が出るのを待って煮込むんだが、此処は練金台、そんな悠長な事してられるか!
「調合!」
加減した魔力により、二者は練金ボウルの中でぐちゃぐちゃに混ざる。
あとは煮込むだけなのだが…やっぱり悠長なことはしない。
「脱水!」
すると黄色いジャム?がねっちゃりしたゼリー状になる。
できた!と思って食べてみると…
「妙にサラサラしてじゃりじゃりする…」
何が悪かったのだろう。もういいや、モルガの婆さんに聞いてみた。
「そりゃぁジャムは煮込まなきゃ粘らんじゃろ。何をやっとるんじゃ。
…どうやら常識らしい。そういやペクチンがなんとかありましたよね…
さ、気を取り直した俺は練金台の前でジャムの用意をする。
たとえ婆さんに「この街で一番実入りの悪い練金台借り」と言われようと練金を止める気はない。
そして調合した砂糖とイエローベリーに次の練金技術をかけた。
「加熱!」
ゆるーく、ながーく、度時間を掛けて力を込める。いっそ釜で煮た方が良いんじゃ?とか思っては行けない。
そして頃合いに粘ってきた頃、俺は途中から別の練金をかけた。
「脱水」
すると粘りけが一気に強くなり、ジャムは一気にジャムらしくなる。
煮続けるのって水分を飛ばすためだもんな。途中で飛ばせるならコレでどうにかなるわけだ。
そして最後に一言、それなりの魔力を持ってジャムに仕上げをする。
「冷却!」
適温に冷えたジャムは瓶に詰められ、生地にふさわしいだけの量が量産されるのだった…
お世話になった人に出来たてのパイを配るため、珍しく初心者用練金道具の布を広げ、そこに広げたパイ生地とジャムをのっけて加熱をつづける。
まずはモルガ婆さん。
まぁよく作ったモンだ、とあきれるやら感心するやらしてくれたが、イエローベリーのパイを快く受け取ってくれた。
次にガデムのオッサン。
暑い中に甘い物は良いらしく、もりもりとパイを食べていた。
しかしそんなことよりあの鋼についてしつこく聞かれたのは参った。
作りたきゃつくればいいだろう。歴史調べりゃ出てくる話だぜ。PLの間で噂になってるとか言われてもなぁ。
そして次に訓練場のオッチャン。
角刈りのオッチャンと呼んでいたがついに名前を呼ぶこともなく此処まで来てしまった。
パイをプレゼントするとにこやかに、「こういう仕事をしていてお礼を貰うなんて珍しいんだ」と言っていた。
色々寂しい仕事っぽいもんねぇ。
で、最後がエリナだ。いつもの所で露天商をしてるかな?と思いいつものように歩いていくと…
囲まれていた。
といっても女子複数人だ、別に剣呑な気配はない。エリナのほうも笑顔で話をしている。
そこにはいるのも気が引けるが、女子会のお茶菓子のデリバリーに、というのも良いだろう。
そう思って声を掛けたのだが…
「ひえっソードさん!?」
「えっ?昼夜狩りの?」
「無限死にって聞いたけど…」
なんか凄い言われようである。そんなにビビるような事したか俺。
するとエリナが女の子達を庇うようにこちらに声を掛けた
「何の用?この子達は関係ないから、巻き込まないでね?」
俺が何をするというんだ。今日はパイをつくってプレゼントに来た、といったら一斉に場が不穏な空気に包まれた。
何を怖がることがあるんだ。俺は露店横に練金布を広げてパイ生地とジャムを乗せる。
するとエリナがあっ、という瞬間に現場は光に包まれた。
「その横の手袋、魔力増幅の効果がある品だから…」
エリナが言い終わる頃には黄色いジャムと生地でべとべとに成った俺の身体があった。
システムを見るとこんな事をが書いてある。
『辛いパイ:つらいパイ。なんでそんなに黄色いんだよぉ』
どういう事だおい。
べとべとのままでは話にならないので、もう一度会うことを約束して別れる。
と、次に来た時にはエリナしか残っていなかった。
「あの子達は初心者なの、あなたにはついて行けないわ…」
あの、なんか凄い重要な話をされてるみたいな空気で周りも見てるんですが。
えーっと俺は練金布を出してその上でパイを焼くくと一言声を掛ける。
「そんなことよりさぁ。おい、パイ食わねぇか」
気軽な口調で離したつもりなのにエリナは一言こう叫んだ。
「私が食べます!」
パイはこうして非常にピリピリした雰囲気の中消費されたのであった。




