決戦
「タカムラ!」
外に出ると細川が俺に抱きついた。
外には美海や仲間たちが待っていた。
そしてもう一人。
菊池がいた。
細川は俺に必死で訴えかける。
「先生が! 先生が怪我しちゃって! 私、私、アンタのことが心配でおかしくなりそうだった!」
「大丈夫だ。俺は無事だ」
俺は強くそう言った。
俺は細川と生き残る。
生き残るんだ!
「さあてと、タカムラ君。戦おうかな。この小室と正当王家の末裔、菊池君と」
小室は芝居がかった言い方でそう言った。
俺は怒りがふつふつと湧いてきた。
先ほどは細川をもの扱いした怒りだった。
だが今は自分自信の中にある怒りだ。
俺はこの野郎の勝手な思い込みでで二年間も闘技場で戦い、山岸を殺した。
細川や女子の人生をめちゃくちゃにし、男子は皆殺しにした。
コイツのせいでみんな全てを失ったのだ。
……ようやくだった。
ようやく俺は復讐を果たす相手を見つけたのだ。
菊池、それに小室を俺は殺すのだ。
「くくく。タカムラぁッ! テメエは気にくわなかったんだよ! 殺してやるよ!」
菊池が怒鳴った。
俺はあきれ果てる。
今さら虚勢を張られても……
そこでニコニコ笑ってる小室の方が100倍怖いわ。
俺はわかったぞ!
ヤンキーよりも普段大人しいヤツが壊れたときの方がヤバい。
ヤンキーだったら殴ればいい。
だが、狂人は……無理だ。
「ふはははは! コイツビビってるぜ! あはは! なあ小室! 殺っちまおうぜ!」
バカが笑った。
うんビビってる。
小室に。
バカって悲しいねえ。
あははは。
俺が心の中で大笑いしている、小室の目がぴくりと動いた。
「うんそうだね、菊池くん。うふふ……偽善!」
それは一瞬の出来事だった。
小室の水の槍が菊池の頭を……一瞬で切断した。
小室はニコニコしたまま下にゴトリと落ちた菊池に話しかけた。。
「ごめんね菊池君。君の能力がないとタカムラ君に勝てないかも。だから頂戴」
小室は目を見開いていた。
声が弾んでいる。
「ボクはずっと君が嫌いだったんだ。 ねえ苦しい? ねえ苦しい? ……あれ……動かなくなっちゃった……」
小室の顔の紋章が広がっていく。
菊池はたった今、死んだ。
「つまらないの。えい」
小室は菊池の頭を蹴飛ばした。
菊池の頭が間抜け面を晒してゴロゴロと転がる。
お年玉で買ったクソゲー以下の扱いだ。
これで生け贄の残りは二人。
俺と小室だけだ。
「アゼルに乗りなよ。アゼルで決着をつけよう。ここで戦ったらみんなを巻き込んでしまうからね。うっかり女の子を撃っちゃうかも」
小室は俺を脅していた。
◇
俺はたちアゼルに乗り込み、外に出た。
俺は少しだけ冷静になっていた。
バカな判断ミスをすることはないだろう。
小室から通信が入る。
「タカムラ君。戦う前に言っておこうと思ってさ」
「なんだ?」
「ボクは君が嫌いだ。殺したいほど嫌いだ。どうして君はどんなやつにでも反抗出来るんだ? なんで君はいつも自由なんだ? なあ!」
「知るかよ。ヘソが曲がって生まれてきたんだろ?」
知らねえよバカ!
「うふふ。そうかい……じゃあ死ね!!! ゲヘナ!!!」
小室が叫ぶ。
それは光だった。
光線が俺に向かってきた。
俺は警戒していた。
絶対何か来るんじゃないかと思っていた。
だからすでによけていた。
「小室! これとレイガンになんの違いがある!!!」
俺は挑発した。
実際こんなもんに何の意味がある?
「ふふふ。まあだだよ。偽善!!!」
小室は水を周囲にばらまく。
いくつもの宙に水が浮いていった。
「さあてどこまで耐えられるかなあ。ふふふ。ゲヘナ!」
小室が叫ぶと光が発射される。
光は水に当ると乱反射しながらその数を増していく。
そしていくつもの光が俺を狙い飛んでくる。
「あははははは! やっぱりできた! ボクは天才だああああああああ!」
「煉獄!」
俺は光をよけながら煉獄を発動した。
炎の柱が水を焼き尽くしていく。
だが、小室の光は煉獄の炎では消えない。
ついに光の一つが俺のアゼルの肩を打ち抜いた。
「ぐあああああああッ!」
「あは! あはははははははは! 逃げろよ! 逃げて見せろよ!!!」
小室の笑い声が響く。
だが俺は笑った。
勝利は見えていた。
小室が気づいてないだけで……
「バカめ……」
俺は笑った。
「なんだその態度は?」
小室の態度が変わった。
「いいからやれよ!」
俺はあくまで挑発する。
もう勝利は確信しているのだ。
小室の顔が歪んだ。
その表情にははじめて怒りが垣間見えた。
「なんだと言ってるんだあああああああ!」
小室が絶叫する。
まるで中学のあの頃に戻ったかのように。
俺は静かに言った。
「煉獄」
次の瞬間、小室のアゼルの頭が吹き飛んだ。
小室は二つの能力を組み合わせて新しい技を作った。
俺も同じだった。
アラクネと煉獄。
それを組み合わせたのだ。
理屈は簡単だ。
俺はごく小さいアラクネを小室の頭に貼り付けた。
あとはどこのご家庭にでもある、小室から盗んだ爆弾の残り……ちゃんと起爆装置を解除しておいた爆弾を業火で起爆したのだ。
セコイ?
うるせえ!
だが俺はわかっていた。
あの爆弾では足りない。
これはチャンスを作るためのものだ。
俺はレイブレードを抜く。
そのまま小室のアゼルへ突っ込んだ。
「っく! ゲヘナ!!!」
小室の光が俺のアゼルの腹を貫いた。
だが俺は突進をやめない。
バカが!
こちとら痛みには馴れてるんだよ!!!
俺はガードをする小室の腕に切りつける。
小室の悲鳴。
痛みに弱いのかオーバーな悲鳴だった。
俺は何度も斬りつける。
何度も何度も何度も。
小室のアゼルの腕がちぎれる。
俺は小室のアゼルののどに容赦なくレイブレードを突き刺す。
戦闘不能にならないように手加減をして。
これでしばらくは厄介な能力を使えないはずだ。
力を失った小室のアゼルへ俺は容赦なく斬りつける。
安全装置が動く前に全ての苦しみを与えるのだ。
肺。
臓物。
肝臓。
肋骨と鎖骨も肘で壊す。
目、耳、顎。
全ての急所へ攻撃を入れる。
頭部にレイブレードを突き刺しさらには殴りつける。
近接戦闘。
それが小室の弱点だった。
結局、近づいてしまえば天才も戦闘経験の差で俺に好き放題される。
俺の泥臭い技術、それが一番凶悪だったのだ。
「なんでだよ! なんでボクは君に勝てないんだ?!」
小室は叫んだ。
当たり前だ。
お前らが俺を強くしたんだ。
「本当のママを殺してパパも殺して……どうして! どうしてボクだけ……」
「うるせえ!」
俺は小室のアゼルを殴りつける。
俺はそのまま小室のアゼルを引きずり倒し、馬乗りになって殴り続ける。
「どうして! ボクだけがあああああああああ!!!」
俺は絶叫した小室の顔に容赦なく拳をぶち込む。
ぐちゃり。
小室のアゼルの顔が潰れた音がした。
小室のアゼルは戦闘不能になっただろう。
だが、まだだ。
俺は動かなくなったアゼルのコックピットをこじ開ける。
小室の悲鳴。
内臓に手を突っ込まれたくらいの痛さだろう。
フィードバックで虫の息になった小室がこちらを見ていた。
「ふふふ。どうせ君は殺せないんだ!? なあ? そうだろ?」
「いいや。お前は殺す」
俺はきっぱりと言った。
「なんでだよ! ボクはこんなに不幸なのに!!! どうして!? どうして殺すんだよ!!! 全部悪いのは……」
小室の言葉が言い終わらぬうちに俺は小室に死刑判決を出した。
「アラクネ」
ナノサイズ、極小のロボットが小室のコックピットへ侵入していく。
「や、やめろ! ひいいいいいいいいいッ! そんな! 蜘蛛が! 痛い! 痛いよ! ひいいいいいい! ママァッ!!!」
小室の断末魔の悲鳴は俺のコックピットまで届いた。
そして俺の勇者の証が光る。
頭の中に声が響いた。
どこか機械的で人間味のない声だ。
「勇者よ。願いを言いなさい」
その瞬間、俺の頭の中に情報が氾濫する。
この能力が脳に説明書を書込んだのだ。
そうか!
勇者の証を全て集めると……
願いが叶う。
それも無制限の願いが。
俺の望んだこと全てが叶うのだ。
因果律をねじ曲げる。
それがこの能力。
至高天。
そうか。
小室はこれで因果律をねじ曲げ、俺たちの世界を抹消しようとしてたのか。
過去から逃げるために。
小室も菊池も親殺しという過去から逃げたかったのだ。
最初は俗な願望を抱いていたのだろう。
だが、それは罪悪感という現実の前に押しつぶされた。
そして全てを壊そうとした。
小室も菊池もガキのままだったのだ。
俺には願いがあった。
例え今の生活と引き替えであっても欲しいものがあった。
「俺の願いは……」




