小室様1
木下を捕獲した俺たちはセクション46の街に行くことになった。
列車から飛び降りてしまったので砦の車両で送ってもらう。
美海達も同乗していた。
「おそらく木下には重罪が下るだろう」
美海はそう言っていた。
ある程度は予想していた。
おそらく木下は人の命も奪ったのだろう。
俺は法には介入する気はない。
俺との遺恨と法の裁きは別物だからだ。
これ以上痛めつける気はないが助けてやる義理もない。
すべて木下自身が選択した結果なのだろう。
「タカムラ。殺した方が良かったとか考えているんじゃないだろうな?」
吉田が言った。
そこまでは考えてはいないが、もしかするとそうかもしれない。
「少なくとも木下は罪を償うチャンスを手に入れた。結果は同じ死であってもそこには大きな違いがある」
「そうなのか?」
俺にはわからなかった。
二つにどれだけの違いがあるというのだろう?
まだ人生の経験ってヤツが足らないのだろうか……
俺が悩んでいると美海は話を続けた。
美海からしたら木下はただの犯罪者だ。
俺ほど興味はないだろう。
「セクション46に着いたら……驚かないでくれ」
「なにがあるんだ?」
「セクション46は女奴隷しかいないんだ……」
嫌な予感がする。
そんなクズには思い当たりがたくさんある。
サッカー部の連中とか。
野球部の連中とか。
「領主の小室は……サイコ野郎だ。気をつけろ」
俺と吉田は思わず目を合わせた。
二人とも口を開けて間抜けな顔をしていたに違いない。
小室真次。
科学部の……幽霊部員。
学内カーストは俺と同じ最底辺。
俺は女にモテるんだよ!
と虚しい作り話をして男女関係なく嫌われている。
空気は読まないではなく、読めない。
それが原因で嫌われているだけなら仕方がない。
みんな仲良く。
誰とでも仲良く。
はっきり言ってパワハラだ。
この思想を考えたヤツは頭おかしい。
正気の沙汰ではない。
だが問題なのは暴力だ。
小室は毎日のように泣かされていた。
日本国の教育行政の歪みを体現したかのような激しいイジメ。
山岸に殴られ、小平に殴られ、菊池に財布を取られていた。
アスファルトの上でバックドロップをされて頭が割れたりなど、大人だったらすぐに警察に捕まる立派な犯罪だ。
吉田曰く、吉田以外の教員の全員一致で「イジメを報告すると天降り先がなくなる」との理由で全てを隠蔽することにしたそうだ。
吉田パンチで全員黙らせればいいじゃんって言ったら、「マスコミの餌食にされるわ!」だと。
教師って暴君だと思ってたけど、そうでもないのな。
それにしても納得がいかない。
口うるさい加害者より、大人しい被害者を黙らせる。
加害者がまるで被害者のように主張する。
教師どもは空気を読めないからとそれに制裁を科すことを肯定しているのだ。
空気が読めないより暴力振るう方がよほど大問題なのにそちらからは全力で逃げる。
結局、教師どもも小室の人生を摩耗させることを選んだのだ。
感動のあまり涙が出るね。
と、まあ小室は流される側だ。
俺のように性格が曲がっているわけではない。
アホどもに抵抗することはないだろう。
まあ小室は連中に脅されただけに違いない。
報復はしなくてもいいか……
今ごろハートフルぼっこだろうし。
だがどうしても気にかかることがある。
なんでアイツ領主なんてやってるんだ?
しかも女しかいないなんて……
それにサイコ野郎って……
◇
俺たちはセクション46の街についた。
本当に女しかいない。
まず最初に領主に謁見だと。
めんどくせえな。
まあいいや小室だし。
さっさと仲間見つけてズラかろう。
俺は吉田、それに美海と木下を連れて謁見の間に行く。
そこには……
「やあ。タカムラ君」
玉座にふんぞり返って座る菊池。
その横に顔に入れ墨を入れた小室がいた。
いやこれは俺の煉獄と同じ、勇者の証だ。
小室はなんだかヤバい形相になっていた。
すっかりやせこけ、目は虚ろ、それなのに異常な迫力があった。
眉毛はない。
ヤンキーみたいにそり上げてるわけではない。
つるんとしている。
おそらく抜いたのだろう。
髪の毛も同じくなくなっていた。
その顔だけで軽くホラーだ……
「木下くんを捕まえたんだって? 彼はボクらの薬を横取りしてたんだってね」
そう言うと小室はニコリと笑った。
笑っているのに……その目だけは笑っていない。
小室はどこを見てるかわからない虚ろな瞳で木下に近づいていく。
「木下くぅん」
「な、なんだよ……」
木下は速くも涙目だった。
おれもできれば逃げたい気分だ。
「なぜボクらの彼女たちの薬を奪ったの? それになんで勇者の証を持ち逃げしたの?」
「お、お前らにはついて行けん! 俺は俺の好きなように生きてやる!」
「ふーん……」
菊池はそのやりとりを黙って見ていた。
違う!
口を挟めないのだ。
今だったらわかる。
菊池は王様ぶっているが小室に立場を逆転されている。
小室は菊池の方へ微笑むと腰に差していた短剣を抜き、いきなり木下の顔へ斬りつけた。
木下は悲鳴を上げながら床を転がる。
「どうして? ボクはただみんなを守りたいだけなのに! ねえなんで邪魔するの!!!」
「おい! 小室やめろ!」
吉田が怒鳴ると小室は不思議そうにこちらを眺めていた。
俺はあまりのことに固まっていた。
小室に何があったんだ……
「先生。木下くんは悪いことをしたんだよ。お仕置きしないと……」
その目には深く暗い闇が存在していた。
こ、怖い……
そんな小室はにっこりと笑う。
木下が存在しないかのように。
「美海ちゃん。よくやったね。ご褒美は何がいいかな?」
「は! セクション47の領主であらせられるタカムラ様がミズキとの面会を欲しておられます。面会の許可をお願い致します」
「うん。いいよ」
「は!」
……なんだろう。
どうしてこのやりとりだけでホラー映画みたいなんだろう。
完全に菊池は置いてけぼりである。
場の緊張が伝わり俺の肝が冷えた。
「タカムラくん。ミズキさんも喜ぶと思うよ。ゆっくりして行ってくれ」
その時、俺は気づいた。
小室なのに……
小室なのに会話がかみ合わない。
細川を連れてこなくて良かった。
「ああそうそうタカムラくん」
「な、なんだ?」
「ミズキさんはボクの彼女だから。髪の毛一本でも渡さない」
小室は笑っていた。
目だけは笑っていない。
「あ、あのさ。小室くん?」
「なんだい?」
「美海は? 彼女なのかな?」
嫌な予感がしたので試しに聞いてみた。
「彼女だよ? セクション46の女の子は全部ボクのものなんだ」
……何を言っているのかわからない。
誰がここまで小室を壊した。
「男は……どうした?」
「皆殺し」
小室はふふふと笑う。
皆殺し……
こいつマジで大丈夫か?
「あ、そうそう。木下くんには刑罰を与えないと。彼のおかげで彼女が三人も死んじゃったんだ」
何を言っている。
三人死んじゃった?
俺がそう思った瞬間、吉田が口を開いた。
「偽善!」
「やめろ! 小室!」
小室の顔の入れ墨が光る。
それは水だった。
突如現れた水がするどい槍のように木下へ向かった。
水の槍が木下の首へ突き刺ささる。
血を吐きながら木下は水の威力で吹き飛ばされた。
「どう? ウォータージェットって言うんだよ。超高圧で加圧された音速の水。ふふふ。さようなら」
まるで人ごとのように小室は言った。
「木下!」
吉田は必死に木下の首を押さえる。
だがもう遅かった。
俺はよくわかっていた。
小室の水はアゼルを停止させる急所。
頸椎、それに脳髄を水の槍は性格に打ち抜いていた。
俺がアゼルを戦闘不能にさせるのに使った場所だ。
人間も同じところが急所だ。
木下はもう助からない。
その証拠にピクピクと動いていた木下はすぐに動かなくなった。
永遠に。
「ばいばい」
小室はニコリと笑う。
そこには感情はなかった。
どこか昆虫を思わせる笑顔だった。
俺は木下の能力を手に入れた。
だが嬉しくはない。
小室は敵だった。
俺の前にかつてない敵が現れたのだ。
山岸なんて小物だったのだ。
小室は怒りも欲望もなにも感じずにに人を殺せるのだ。
正直言って俺は恐怖を感じていた。
いくらなんでもこれはヤバいだろが!
俺の心を読んだかのように「ふふふ」と小室は笑った。




