皇帝2
木下皇帝がハルバードをブンブンと振り回した。
「かかってこいよ!」
俺は剣を構えた。
レイブレイド二刀流。
いつものスタイルだ。
「そんな小さな剣でいいのか!!!」
「まあな」
俺は素っ気なく答えた。
その態度に木下は何を勘違いしたのか勝ち誇る!
「ふははははは! このバカめが! 俺の勝ちだ!」
どうせ長い方が有利とか言い出すんだろ。
いいんだよ。
俺はいつも短剣使ってるんだからよ。
馴れてるもので戦った方が強いだろ?
ところが何を勘違いしたか勝ち誇った木下が斧を上段に構える。
「死ねえええええええええええっ!」
木下がハルバードを振り回しながら突っ込んでくる。
アホか!
俺はハルバードのめちゃくちゃな軌道をかいくぐって、がら空きの胴を薙ぐ。
素人が適当に振り回してる方がよけにくいな!
「ぎやああああああ! ほ、ホントに斬りやがった!!!」
木下が大げさな声を上げた。
レイブレイドが腹の装甲を切り裂いていた。
いやいやいやいや。
お前も襲ってきたやん。
なんかオラだんだんムカついてきたぞ!
「業火!」
なんだか理由もなくムカついたので俺は業火でハルバードを焼き払う。
高周波ブレードも炎にくべちまえば使えないだろう。
「……なんでお前山岸の能力を使えるんだよ」
「さあな?」
「お前バカだろ?」とは言わない。
イラついたけど我慢する。
こういうのは余裕のある態度の演出が大事だ。
「お、お、お、お前! 本当に山岸を殺したのか!?」
「さあな? 試してみようぜ」
木下も山岸と同じで頭が悪い。
今ごろ頭の中はカオスなことになっているだろう。
例えば……
「死ねええええええええええッ! アラクネ!」
実力差を感じながらそれでもかかって来たりとかな。
蜘蛛の大群が押し寄せてくる。
だが今日の俺は調子が良い。
俺はそれを業火で吹き飛ばす。
一撃で全てを炎が飲み込む。
「……お前……化け物か」
「そうかもな」
俺は闘技場という闇をのぞき込み。
試練に打ち勝った。
こそ泥程度が俺を倒せるはずがない。
「素手でかかって来いよ。レスリング部。俺の命を獲ることができるかもよ」
俺は挑発をした。
このバカには現実をわからせなければならない。
お仕置きタイムなのだ。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
サルが奇声を上げた。
他の格闘技ではありえないほどの低い姿勢。
皇帝は右利き。
だが左構え。右足が後ろ。
タックルの蹴り足重視。
要するに速さを重視している。
吉田……お前の教え子って無駄に器用になるのな。
それに対して俺は半身。
相手から正中線を外す構えだ。
ずんぐりむっくりしたアゼルがすっと頭を下げた。
その瞬間、タックルが俺を襲う。
だが機体の選定を間違えている。
重い装甲のせいで遅い。
俺はタックルをかわすと、サルの頭に膝蹴りを入れる。
「ぐうッ!」
これはただの牽制だ。
お仕置きタイム1。
俺はそのままサイドにまわりつつ、木下のケツにレイブレードを突き刺す。
「はうん!!!」
屈辱1。
だがまだだ。
そして次は木下の腕だ。
俺は無理矢理捕まえた木下の腕を脇でロックする。
そしてサイドから、思いっきり振り回して肘を折りにいった。
相撲の技、小手投げだ。
装甲が厚いのなら、関節を破壊すればいい。
簡単なことだ。
木下のアゼルの腕からブチブチという人工筋肉の裂ける音がする。
そしてボキリという音がした。
お、折れた。
「んぎゃあああああああああ!」
木下が悲鳴を上げる。
俺はへし折った腕をさらにねじり上げ、木下を地面に叩きつける。
木下のアゼルが顔から地面に叩きつけられた。
受け身も取れねえなんて相当鈍ってやがんな。
はい。屈辱2。
「ぐべ。マジか! ヤバい! お前ヤバいよ!」
木下のアゼルは腕を押さえのたうち回る。
「まあな。これからお前を殺すくらいはヤバいんだろうな」
俺はあえて感情をこめずに言った。
まだ助かると思ってるんじゃねえだろうな。
そう言って追い込むのだ。
「こ、殺してやる! ぶっ殺してやるよ!」
「そうか」
俺は木下のアゼルの顔を蹴り上げた。
顎ではない。
わざと目のあたりを狙った。
木下は目を押さえながらのたうち回る。
「ひいいい! た、助けて! 助けて!」
壊れた腕をプラプラさせながら木下のアゼルが逃げる。
まだだ。
まだ追い込みが足りない。
俺は折れていない方の手の指を踏みつける。
「ぎゃああああああ!」
悲鳴が上がるが、俺は別に楽しくてやっているわけではない。
まだ元気なのを確認したのだ。
そして冷酷な声で続けた。
「今から指を折る」
「え?」
俺は踏みつけてた指を掴むと一気に捻った。
「ぎゃああああああああ!」
「一本。次の指だ」
俺は自分でもびっくりするくらい冷酷な声でそう言った。
荒野にバカ命乞いが響くのにそう時間はかからなかった。
はい屈辱3。
◇
俺のアゼルが俺を見下ろしていた。
その横にはすっかりスクラップになった木下のアゼルが転がる。
そして中の人……木下は指を押さえて泣いている。
むりやりコックピットこじ開けて中から出しちゃった。
てへ♪
そのせいでフィードバックでたいへんな痛みを味わったのだ。
内臓に手を突っ込んだくらいの痛みかな。
本当にやられたわけでもないのに大げさなヤツだ。
砂塵が舞った。
そろそろ頃合いだな。
俺は木下の前へナイフを投げる。
木下は泣き止むとハトが豆鉄砲喰らったような顔をする。
口をぽかんと開けていた。
どうやら意味がわからないらしい。
しかたない。
教えてやるか。
「落とし前をつけろ」
俺は感情をこめずにそう言った。
もちろん俺が要求してるのはヤクザ映画のアレだ。
ここまでやる必要はない。
自分でもそう思わないでもない。
だがそれではいけないのだ。
俺は相手に勝ちを懇願した。
それがいけなかった。
相手を自分と同じレベルだと思っていたのだ。
そこが甘かった。
アイツらは何も成長していない。
増長した中学生のままなのだ。
バカという生き物は時に暴力でしか物事を解決出来ない。
だから恐怖というものを刻み込もうと思う。
俺の目が本気だったことを感じ取って井下は青くなっていた。
「お、おいタカムラ。冗談だよな?」
木下はカタカタと震えている。
「冗談? お前は俺たちを奴隷として売り、仕事を邪魔し、今度は殺そうとした。これでもかなり優しいと思うぜ」
木下が俺の裾を掴む。
俺はその手を蹴り払う。
「落とし前ってなんだよ……なあ!」
もう一度すり寄ってきたので俺は木下の顔を軽く蹴飛ばす。
ゴミみたいに木下は転げると泣き始めた。
「もうやめてくれよ……これじゃイジメだろ!」
「だから許してやるって言ってるんだ。落とし前をつけたらな。それとも落とし前のつけ方を忘れちまったか?」
「許してくれ! なんでもするから!」
木下が懇願する。
なんでもする?
なら切り落とせ。
まだだ。
まだ追い込みが足りない。
「だめだね。なんなら侍みたいに腹でもいいぜ」
俺は軽く木下の頬を叩く。
怒りのままに殴ってはいけない。
あくまで自主的に選ばせるのだ。
なにを選択するかは別として。
木下は俺のナイフを手に取るとその刃を見つめていた。
俺は木下の考えが手に取るようにわかる。
このナイフで襲いかかれば……あるいは……
迷っている目だ。
木下の額から油汗がぽたりと落ちた。
木下がひゅーひゅーと呼吸をする。
チラチラと俺の方を見ている。
「お前……本当にタカムラか?」
木下が俺を見つめた。
「お人好しのタカムラ君はお前らが殺した。もう戻らない」
木下が呆然とした顔をする。
木下は震えていた。
どうやら俺の言葉を聞いて決心をしたようだ。
「死ねえええ!」
ナイフで最後の抵抗を試みた。
俺はもう一本のナイフ、光学兵器であるレイブレードのナイフを抜く。
そして木下が持ったナイフをたたき切る。
そして返す刀で木下の手首を跳ね上げた。
「ぎゃああああああああああああッ!」
「お前が素直に指を落とす決断をしたなら直前で止めてやった。だがお前は俺をまた殺そうとした。だから手首をいただくことにした」
「ぎゃあああああ! 俺の手があああああ」
俺は転がる木下の顔を踏みつけた。
「またやるか? あいにく次の賭け金はお前の命だ」
木下は首を横に振る。
俺は木下の腕を見る。
出血は驚くほど少ない。
レイブレードが傷口を焼いたからだ。
そして俺の腕の入れ墨が大きくなる。
やはり……奪ったのか。
俺がレイブレードを鞘に収めると遠くからローラーダッシュの音がした。
ようやく来やがったな。
邪魔されなくてよかったぜ。




