皇帝1
俺たちは列車の上に乗った。
もう一度ヤツらが来る。
蜘蛛のヤツらだ。
俺は銃を構える。
前回の戦いで俺たちは思い知った。
確かに俺たちは剣や槍みたいな近接戦闘の方が得意だ。
一対一や対人戦ならそちらの方が有利だろう
だが……
逆立ちしても銃器の効率性にはかなわないのだ。
特に集団を相手にするときは。
俺は銃を構える。
格好だけだ。
なんで俺……的に当てるのヘタクソなんだろう……
あれだけ練習して一向に当りゃしない。
もしかして才能がないのか……
結局今回も細川と復座式で出撃だ。
俺がブツブツと文句を言っていると、セクション46の軍用機がこちらに歩いてきた。
俺の乗っている機体よりもゴテゴテとした装甲で、ずんぐりむっくりとしている。
フレートアーマーを来た騎士のようでもある。
中身はおそらく美海ぽん(笑)だ。
「ふん。お前銃も扱えないらしいな」
美海が言った。
偉そうに。
「まあな。どうも銃は向いていないらしい」
俺は素直に認める。
だって的に当らないもん。
「タカムラは器用貧乏だもんね」
復座から細川が酷いことを俺に言う。
まあ間違ってないんですけどね。
「そんな……素直に言われたら私がバカみたいじゃないか……」
「うん?」
なんか今かわいかったぞ。
「な、なんでもない! あのな、ある種の超能力は空間把握能力に影響を及ぼすらしい。なんでも普通の人間では知覚出来ない領域の計算をするそうだ。一度セクション46の医者に診てもらえ!」
美海は早口でまくし立てる。
なんだか様子がおかしい。
もしかして……
「心配してくれてるのか?」
「ば、バッカじゃないの!!!」
そうっすか。
どうやら俺はバカらしい。
自覚はしております。
でも一応。
「ありがとな」
礼は言っておくわけだ。
俺って紳士。
キャーステキ!!!
「……バカじゃないの!!!」
俺が調子に乗っていると美海は怒ってどこかに行ってしまった。
まあ、思考がダダ漏れになる。
思いっきり顔に出ていた。
あると思います。
うーん失敗。
まだまだ俺も修行が足りない。
「調子乗ってるとマッチ棒切り落とすよ」
ぞくり!
ほ、細川さん!
嫉妬深いっす!!!
たーすーけーてー!(命乞い)
それにしても風邪引いたかな?
コックピットにも変な音も聞こえてるんだよなあ。
「……憎い」
変なノイズが聞こえる。
このノイズを聞くと背中がぞくりとするんだよね。
なんだろうね?
不思議だなあ。
「……憎い。イケメンが憎い」
なんだろうね。
なんかスピーカーから怨霊の声みたいなのが聞こえてくるや。
ははは。
緊張のあまり耳がおかしくなったのかな?
えへへ。
「憎い……タカムラが憎い……同級生が彼女とか、フラグ立てまくるとかテメエはエロゲの主人公か! 俺は幼なじみとすら一切のフラグが立たなかったんだぞ!!!」
まあなんだ。
誰もがわかってるだろうがこれは吉田の声だ。
死ねば良いのに。
俺が本気で呆れていると、遠くから大群が移動する音が聞こえてくる。
「来た!」
俺は銃を構えた。
蜘蛛と戦うのはこれで三度目。
もう弱点はわかっている。
吉田がレイガンを構え引き金を引いた。
少し大きい蜘蛛に命中。
周囲の蜘蛛も停止する。
「さすがだな。我々は中継機があるところまではわかっていたがこの距離でレイガンを命中させられるものがいなかった……」
美海がチャットで呼びかけてきた。
蜘蛛がファッ●ファイアの射程距離外にいる俺は暇だったので吉田の代わりに答えてやる。
「ふふん。どうだすげえだろ!」
「お前には言ってない」
まあそうなんだけどね。
俺たちのバカなやりとりの最中も吉田は次々と中継機を破壊していった。
うわーすっごい。
ところが拗ねている暇はなかった。
「タカムラ用意しろ! 突破されるぞ!」
吉田が俺に指示を出した。
俺は精神を集中し煉獄の用意をする。
「煉獄よ焼き払え!」
なんだか今日は調子がいい。
まるで細川と再会したときのようだ。
細川と共同作業をしているせいだろうか?
俺の視界に炎が走る。
炎は蜘蛛を次々と焼き払っていく。
それと共に高まる妙な高揚感。
楽しい。
全てを焼き払うのだ!
一瞬で蜘蛛の第一陣から地平線まで蜘蛛を焼き尽くしながら炎が広がる。
それはまるで地獄の炎。
煉獄の新必殺技だった。
「っちょ! タカムラ」
吉田の声がしたがよく聞こえなかった。
「タカムラ! 脳波がおかしい!!! 落ち着いて!」
細川も怒鳴るが俺の耳には聞こえない。
俺の視界が赤く染まる。
俺は笑いが止まらなかった。
「あははははは!!! 燃えろ! 燃えてしまえ!!!」
次々と俺の炎に蜘蛛が飲み込まれていった。
地平線の先までも。
俺には見えていた。
炎が広がるのが見えていたんだ。
そして俺の炎の視界に妙な物が映る。
アゼルだ。
ハルバードを持ったセクション46の軍用機。
見つけた!
次の瞬間、俺の視界が正常に戻る。
「お、おい! タカムラ大丈夫か! 生きてるか!!!」
吉田が焦った声を出した。
ああ、大丈夫だよ。
「吉田。見つけた」
「何を?」
「蜘蛛を操ってるヤツだ!」
「……おい。なんの話だ」
「うまく説明出来ないが、炎の先にアゼルがいた。セクション46の軍用機だ」
「……どういうことだ?」
美海が口を挟む。
だが俺はその答えを持っていない。
「捕まえりゃあわかるさ」
「悪い。細川、吉田の方へ移ってくれ!」
細川が吉田の機体に移ると俺は列車から飛び降りた。
決着をつけるときが来たのだ。
ローラーダッシュでしばらく走ると蜘蛛の大群が襲いかかってきた。
邪魔だ。
その時、俺は頭の回路がいかれていたのかもしれない。
怖いなんて感情はなかった。
俺は迷わずに新必殺技で焼き払っていく。
死角から襲いかかってくるものも、振り返りもせずいつもの『業火』で焼き払う。
新しい俺の能力は視界を広げていた。
まるで達人になった気分だぜ。
もはや蜘蛛は俺の敵ではなかった。
そしてさらに進むとヤツがいた。
セクション46の軍用機。
蜘蛛を操る軍用機。
もう俺は相手の正体を見抜いていた。
「お前誰だ?」
俺は外部スピーカーで呼びかける。
「菊池くんってことはねえわな」
「……お前こそ誰だ。山岸の部下か?」
やはりだ。
野郎は俺の関係者だった。
「山岸は死んだよ。俺が殺した」
簡潔に事実だけを伝える。
「お、お前……もしかして!!!」
「タカムラさんだよ。売り払った相手に会えたのがうれしいか?」
「クッソ! テメエ死んだはずだろが! 菊池の野郎だけでも厄介だってのに! テメエまで来やがったか!」
やはり同級生だ。
中の人は誰だろう。
「タカムラぁ。俺だ。木下だよ!」
木下皇帝
武士の情けで名前にはツッコミは入れないでやろう。
レスリング部永遠の補欠。
菊池の子分にして俺への制裁担当者。
トリケラトプス並みの知性とニホンザルの顔を持つ男。
うん。
個人的な遺恨があるせいか悪口しか出てこない。
やめよう。
「そうか……お前はいいヤツだ。俺が困っているときに殴らせてくれる」
その後の俺の報復は思い出せもしないらしい。
ずいぶん都合の良い脳みそだぜ。
俺はため息をついてから言った。
「俺を殺さなかったのが運の尽きだったな」
そう言うと俺は親指でノドをかききる仕草をした。
「あひゃひゃひゃひゃ! マジウケル! タカムラにエラそうにされたぜ!!!」
「いいから構えろよサル。このタカムラさんがテメエのタマ潰してやっからよ」
「う、うひゃひゃひゃ! マジか! タカムラが生意気とか! もういいよ。殺してやるよ!」
木下の軍用機が笑いながらハルバードを構えた。
俺は反省していた。
山岸との戦い。
俺はそこに意味を見いだせず手加減してしまった。
結果、山岸は己の力量を見誤り、勢いよく死に向かった。
俺は生きるチャンスをやったが、それは意味がなかった。
だから壊すことに決めていた。
木下のプライドを、成功体験を、常識を、勝利の味を。
そこまで追い込まなければ山岸の二の舞だ。
殺すことに意味はない。
だが中途半端な情けは誰のためにもならない。
それは山岸で学んだ。
つまりだ……生まれてきたことを後悔させるほど追い込む必要があるのだ。
俺は仄暗い笑みを浮かべていた。
これは細川には見せられんな……




