集団戦2
さて、吉田たちコピー組は、山岸と同じ力しか使えなかった。
ところが俺は……
「業火!」
俺が見つめた空間が一気に燃え上がる。
そう俺は山岸の能力も使いこなしていた。
使える能力の差はなにか法則があるに違いない。
俺たちは遠距離から蜘蛛を撃ち、焼き払った。
だが多勢に無勢。
蜘蛛は俺たちの乗った列車を取り囲んでいた。
この近距離で煉獄を使うと仲間を巻き込んでしまう。
煉獄を使えるのは遠くの蜘蛛だけだ。
それに、とうとう俺でも命中させられる距離にまで蜘蛛は迫っていた。
俺は散弾モードのレイガンを構える。
「タカムラ!」
「わかってるって! 『超接近戦になったら剣にしろ』だろ?!」
一匹の蜘蛛が列車に乗ってきた。
俺はレイガンの引き金を引く。
すでに距離は俺が外すほど離れてなかった。
散弾モードのレイガンが蜘蛛の体を構成するナノマシンを吹き飛ばす。
さすが散弾は威力が違う。
吹き飛んだ蜘蛛は空中で爆発する。
よし行けるぜ!
俺は散弾モードで列車に上がってきた蜘蛛を撃ちまくる。
散弾を受けると蜘蛛は爆発していく。
同時に俺は遠くの蜘蛛を煉獄で焼き尽くしていく。
他の連中も散弾モードに切り替えレイガンを乱射している。
だが数が多すぎた。
この間、俺を襲った蜘蛛の何倍もの数、数万の蜘蛛が押し寄せてきているのだ。
すでに一個目のエネルギーパックも残量が少なくなっている。
残り五個のエネルギーパックで蜘蛛を全滅させられるか?
いや無理だ。
煉獄を使っても難しい。
煉獄はなんというか、凄く疲れるのだ。
全力で短距離走を走ったときのように。
そう何発も撃てるわけではない。
俺は少し焦った。
吉田の計画は破綻してるんじゃないか?
この計画は無謀だったのではないか?
疑問が心の中で浮かんでは消える。
「クソ! 大量に乗り込んで来やがった!」
剣闘士も騎士もレイブレードを手に持ちチャンバラを仕掛けた。
俺もレイガンを捨て両手をレイブレイドに持ち代え蜘蛛を切り捨てていく。
やはり普段使いなれている武器の方が動きがいい。
効率高いのは銃なんだけどこれはしかたないよね。
「細川! ちょっと荒っぽく動くぞ!」
「あいよ!」
「おどりゃああああ!」
俺は近くにいた蜘蛛を蹴飛ばし、そのままの流れでレイブレイドを突き刺す。
その瞬間、蜘蛛は破裂し黒い液体と化した。
俺はさらに剣を振るい次々と撃破していく。
吉田はビームスピアーを華麗に振るう。
移動中の列車の上で長物振るっても全くバランスを崩さない。
俺は自分でも強くなった自覚があったが、ありゃ別格だ。
吉田は二つの世界の人類を強い順に並べたらかなりの上位に食い込むはずだ。
今の俺では本気の吉田と戦ったら瞬殺される気がする。
……気のせいだといいな。
他の仲間達も善戦していた。
騎士達は大剣。
剣闘士は剣や、斧など自分たちの得意な武器で応戦し周囲の蜘蛛を効率よく排除していく。
だが、それでも俺たちは徐々に不利になっていった。
圧倒的な数の蜘蛛。
その蜘蛛の大群に徐々に囲まれていったのだ。
俺は斬って斬って斬りまくる。
蜘蛛は破裂し、黒い液体がまき散らされる。
だが後ろから蜘蛛の前足が俺の背中を襲う。
背中から棒のようなもので思いっきり殴られる。
何があったと後ろを見ると、俺のアゼルの背中に突き刺さるのは蜘蛛の前足。
痛みは後から来た。
「いってえええええええええ!」
俺は慌てて蜘蛛に剣を突き刺す。
だがもう俺は蜘蛛に囲まれていた。
やばい!
複数の蜘蛛の前足が俺に迫る。
「俺に触るなあああああ!」
俺は叫びながら煉獄、『業火』で周囲を焼き払う。
煉獄により少し蜘蛛との間合いがあく。
時間にして数秒稼いだ。
だが、俺はわかっていた。
たったの数秒だ。
煉獄もそのうち疲れて使えなくなる。
これはもうダメだ。
負けるかもしれないと。
その時だった。
「タカムラいたぞ!」
吉田が大声を出した。
「なにがだよ!」
俺はもう一発『業火』で周囲を焼き払いながら怒鳴り返す。
「中継機だ! 命令を送信しているヤツだ! あの大きいヤツ。たぶんアレだ!」
その時は言葉の意味はよくわからなかったが、吉田が指をさした方、そこにいる蜘蛛を全て焼き尽くせばいいことだけは理解していた。
「煉獄よ! 焼き尽くせ!!!」
煉獄の力、『●ァックファイア』。
もしくは『復讐の炎は地獄のように我が心に燃え(出典:歌劇『魔笛』』。
炎の柱が上がり、蜘蛛を焼き尽くす。
炎の柱に飲み込まれた大きい蜘蛛は一瞬で塵になった。
ナノマシンが活動を停止したのだ。
次の瞬間、大きい蜘蛛の周りにいた蜘蛛、数千匹の蜘蛛が一瞬でバラバラになった。
俺のアゼルにこびりついていた黒い液体も砂のように流れ落ちていく。
ナノマシンが活動を停止したのだ。
どうやら吉田の言っていたことは正しかっらようだ。
「動きが止まった!」
「だろうなあ。絶対に命令を中継する機体がいると思ったんだよ!」
と言うことは次のタスクは決まった。
雑魚は無視して中継機を潰すのだ。
だが……どこにいる?
「あらよっと!」
俺が大きい蜘蛛を探していると、吉田が恐ろしい速さでレイガンに持ち替え狙撃した。
狙撃された蜘蛛の周囲、数百匹の蜘蛛が沈黙する。
他の仲間も次々と中継機を撃破。
蜘蛛を効率的に倒していった。
もちろん俺も細川の活躍で蜘蛛を倒していく。
圧倒的な劣勢からの逆転。
俺はそれを確信した。
それは蜘蛛を操る側も同じだったのだろう。
蜘蛛の動きが鈍くなる。
ククク。
焦ってる!
焦ってる!!!
グハハハハ!!!
ぎゅるるるる。
勝ち誇った俺の耳に遠くから音が聞こえた。
なんだろうか。
蜘蛛が発する音ではない。
まるで大型車両のタイヤのような……
次の瞬間、動きの鈍くなった蜘蛛が弾け飛ぶ。
レイガンだ!
「おい! 吉田!」
「やはり来たか! 全て予想通りだ!!! 冴えてるぞ俺。ガハハハハ!」
吉田がそう言って笑う。
どういう意味だ?
「要するに物資が届かなくなってるのは俺たちだけじゃねえのさ!」
「え?」
タイヤの音が大きくなっていく。
それは車両だった。
それは、まるで戦車のような姿だった。
戦車が現れるなり文字通り蜘蛛の子を散らすように蜘蛛は退却していく。
そうか。
違うセクションの兵士か!
「我らはセクション46の守備隊である! 貴様らの所属を言え!」
高圧的な態度の女の声。
セクション46の軍人だろう。
女性のアゼル乗りとは珍しい。
「セクション47領主のタカムラだ! お前らのボスと話がしたい!」
俺は怒鳴った。
こうして俺たちはセクション46に辿り着いた。
そしてここで仲間を見つけることになるのだ。
そう。
アイツは案外近くにいたのだ。