第九章 第七節【無力な銃器】
ターナとサイカが斬り合いを続ける中、本殿を出たレオは広場の一角で落ち着きなく立っていた。少し離れて、衛兵長ルキノが彼の動きを監視するとともに、広場全体の混乱状況を睨んでいる。
至るところで、メスカ王国の衛兵と黒十字解放戦線の隊員が揉み合いを起こしていた。既に何人かが怪我をして地面に倒れ込んでいる。
ファビオの表情は険しい。サイカが暴走するのは予測の範囲だったが、他の隊員の粗暴な振る舞いが事態を一層悪化させている。今後の交渉への悪影響は避けられそうにない。
さらに、彼には拭えぬ違和感があった。第二隊隊長ラルフ・リンク、第三隊隊長ジョアン・スタイナーの姿が見えない。この二人はレオと近い関係にあるため、何か企んでいるのではないかと訝しむ。
そのとき、前触れもなく二発の銃声が、相次いで広場に轟いた。
瞬時に、ファビオやルキノを含む多くの者が身を低くする。広場が緊張に包まれる。
宮廷の壁に反響したものの、その発生源は広場の両端に分かれていた。ファビオは姿勢を低く保ったまま、あたりを見回す。
東の離れた位置に、ラルフがメスカの衛兵の頭部に小銃を向けて立っていた。衛兵は武器を捨て、両手を上げている。
「メスカの者ども、大人しくしろ!」とラルフが怒鳴る。「今のは威嚇だが、次はこの男の頭を吹き飛ばす!」
広場の南西側からも声が響く。
「人質はここにもいるぞ。おかしな動きは控えよ」
ジョアンも同様に、衛兵に小銃を突きつけていた。こちらも、銃口から硝煙が立ち上っている。
「メスカの者は、レオ・サヴォイ将軍のお言葉に従え!」
ファビオは視線を移す。レオは両足を広げて胸を張り、意気揚々とした表情だ。
「茶番は終わりだ! 死者を出したくなければ抵抗をやめろ。直ちに、我らを国家として承認せよ!」
ファビオは思わず顔をしかめた。こんな稚拙な脅しが通じるわけがない。そして再び、ラルフに視線を戻す。
「あっ……」
別のメスカの衛兵が、ラルフの背後から小銃を突きつけていた。隠れて待機していた者が即座に反応したのだろう。
第二隊隊長の顔がたちまち青ざめる。彼は小銃をそっと地面に置き、両手を上げてあっさりと降参の姿勢をとった。
「何をしている!」とレオが慌てふためく。そして、もう一人の隊長に視線を向ける。
ジョアンは未だ衛兵に小銃を突きつけたままだが、脚は竦み、膝が震えていた。
なぜなら、怒りを露わにしたサイカが、彼に向かっていたからだ。
「貴様! 余計なマネはするなと、あれほど言っただろうが!」
サイカは剣を投げ捨てると、ジョアンの構える小銃を左手で掴む。そして、ありったけの力を込め、その右腹部に左足を蹴り入れた。
第三隊隊長は吹き飛ばされ、地面を二転三転して意識を失った。
レオは焦り、近くにいた黒十字の隊員に目配せする。隊員は左手の袋から小銃を取り出し、彼に手渡そうとした。
だがその瞬間、ルキノが両者の間に剣を真っ直ぐかざし、これを制する。二人は驚いて動きを止めた。
「サヴォイ将軍、聖なる宮廷でこの所業。さすがにやりすぎですぞ」とルキノは低い声で威圧する。「宮廷で脅迫のために銃器を扱うこと自体、重罪です。よくよく熟慮の上、振る舞うのがよろしいかと」
ルキノは黒十字の隊員から小銃を素早く奪い取る。
ファビオは呆れて開いた口が塞がらない。高価な玩具を買ってもらった子供のような将軍と二人の隊長。その浅はかさに、失望の念を禁じ得なかった。
サイカは剣を左手に取り直し、静かにターナのもとへ戻っていった。
「もう、邪魔は入らん」と短く告げ、再び構えを取る。
「面白い奴だな」とターナは唇の端を吊り上げる。「こういう出会いじゃなけりゃ、案外気が合ったかもしれんな」
「残念だな。それを試す前に、どちらかが死ぬんだ。興味も湧かん」
「そうだな。いい加減、決着をつけるか」
二人は何事もなかったかのように正対し、同時に剣を構えた。
その瞬間、上空に三つの閃光が走った。遅れて、乾いた爆発音。オレンジ色の信号弾が弧を描いて空を切り裂く。その光景は、あたかも終末の前触れのような不気味さを帯びていた。
宮廷の誰もが空を仰ぎ、言葉を失う。
ターナとサイカも一瞬たじろいだ。だが、目の前の敵が命を奪いかねない脅威であることに変わりはない。二人はすぐに意識を切り替え、再び剣を交わす。
この異常な戦い。果たしていつまで続くのか——。




