第四章 第十一節【甘い運試し】
「バート! あれ持ってきて。ケーキ。そろそろ食べないと、酒で味がわかんなくなっちまう」
ミーシャの指示に、バートはいそいそと、厨房の奥へと向かう。
「すごい! デザートまで用意してるの?」とターナが破顔する。
「いえいえ、さすがに自作じゃないですよ」とミーシャは手を振って笑った。「近所で調達したんです。ほんのちょっとですが、サービスってことで」
やがて、小さなケーキの並ぶトレイを、バートはテーブルに並べた。女子の目がキラキラと輝く。
「え? 七つしかないよ。足りなくない?」とカルザスが尋ねる。
「閉店間際だったからねえ」とミーシャは申し訳なさそうに笑った。「私はいいので、みなさんでどうぞ」
「それはだめよ! みんなで楽しまなきゃ!」とターナは反論する。
すると、バートが掌サイズの葦の籠に残っていたキャンディを、黙って差し出した。
「それだ! 面白え。くじか何かで、デザート選ぶ順番、決めようぜ」とたちまちジョシュアがやる気を見せる。
「俺、トランプ持ってる」とギルが即応し、ハートのエースから8のカードを選び始めた。
「何でそんなもん持ってんのよ。手際がよすぎるわ」とローラが呆れる。
「一気に罰ゲーム臭がしてきたわね。ま、面白いからいいか!」とナミもけたけた笑う。「最初に引くのはターナね。王女だし」
「いいの? 私、こういうの得意なんだけど。エース引いちゃうわよ!」とターナが意気込む。
「言ったわね! 実力、見せてもらおうかな」とナミも立ち上がった。「ターナの次は……そうね、歳の順とかでどう?」
ギルが八枚のカードを裏向きに並べる。ターナが目を細めて睨み、右手前の一枚をするっと引く。続いてミーシャ、バート、ローラ、ジョシュア、ナミ、ギル、カルザスが、順にカードを取った。
全員の視線が、ターナに集まる。余裕たっぷりの表情で、カードを捲る。何と、ハートのエース!
「ひえーっ」と一同が驚愕する。
「当然! 勝利!」
ターナはしたり顔で、右腕に力こぶを作る仕草を見せる。女子たちは拍手を送り、我がことのように喜んだ。
「これがマイヤー家の底力か……。やっぱ、逆らわんとこ」とジョシュアが天を仰ぐ。
「それじゃ、みんなもオープンしていこうか」とギルが促す。
「うがああああっ」とジョシュアがテーブルに突っ伏す。ハートの8のカードが無情にも開かれている。
「嫌な予感がしてたんだよ。このままじゃ、汚れキャラ確定じゃねえか……。7はローラか。6はミーシャか! おめえら、どうせ忖度とかねえんだろ? くっそ、飴玉確定かよ……」
「騒がないの。みっともないよ、いい大人が」とミーシャがにやにやたしなめる。「さあ、ターナ様。お好きなのをどうぞ」
「どうしよっかなー。やっぱりチョコかなー。モンブランも捨て難いなー」とターナは迷いながらも、幸せそうにチョコレートケーキを選んだ。
続いてナミ、バート、ギル、カルザス、ミーシャが、順にケーキを手にする。残されたのは、シュークリームとキャンディ。
ジョシュアは、懇願するような眼差しをローラに送ったが、彼女は迷わずシュークリームを確保する。肩を落とす彼の前には、紙に包まれたピンク色のキャンディが、ポツンと残されていた。
「けっ。上等だよ。飴玉に罪はねえわな。みんなに散々コケにされて、俺がしゃぶり尽くして、昇天させてやるよ」
「卑猥だねえ。ターナ様の前だよ」とミーシャが呆れる。
「いいんだよ、残りもんでよ。そもそも、お前ら知ってるか? 昔の偉い人は、こう言ってるんだ——」とジョシュアは一矢報いようと、顎の無精髭を撫でる。
そのとき、チョコレートケーキを見つめるターナが口を挟んだ。
「『残り物には福がある』ってな」
ジョシュアは怪訝そうな表情を向ける。
「——だったわよね、ジョシュア?」とターナは首を斜めに傾け、悪戯っぽい視線を送る。
「お、おう。そうそう。一番引いた王女様が言うんだから、間違いねえ」
「ふふふ。ジョシュアの掴む残り物に、外れなんてないものねー」
ターナは、しっとりとした目でカルザスを一瞥した。頬は、うっすらとピンク色に染まっている。




