第四章 第八節【約束と迷い】
土産を手にして、カルザスとターナは、停泊ポートへ向かった。ターナのテンションが上がりっぱなしだ。
「光るホタルイカかあ。キラキラしてるのかな? 来年だって言ってたよね?」
「うん。漁の期間は、意外と短いみたいだから」
「ねえ、カルザス。そのときは、連れてってくれる?」
「もちろん。ぜひ」
「約束だよ! ああ、もう待ち遠しいなあ」
はしゃぐターナの横で、カルザスはふと考え込んでいた。来年どころか、次に彼女と会える保証すらない。自分から王女を誘うなど、現実味がなさすぎる。ローラと違って、王室と直接の繋がりがあるわけでもない。
ターナは、とても魅力的な女性だ。明るく、快活で、気遣いに溢れている。容姿だけでなく、仕草や言葉遣いにも、可愛らしさと品がある。カルザスは、自分の中に芽生えつつある感情に気づいていた。
だが一方で、ターナが自分に対してどんな気持ちを抱いているのかは、見当もつかない。彼女は誰に対しても朗らかな笑顔を向ける。そして、なにより王女だ。身分の差もあれば、生きる世界も違う。そんな高貴な女性が自分に興味を抱く理由など、欠片も思い浮かばない。
思考に絡め取られ、自分の感情をどう扱えばいいのか、わからなくなっていた。
「カルザス、ねえ、カルザス!」
「あっ。ご、ごめん。ぼーっとしてた」
ターナの声で、我に返る。
「大丈夫? 私、何か変なこと言った?」
不安げな表情で見上げる。
「違う、違う。ちょっと考えごとをしてただけ。ターナのせいじゃないよ」
「ほんとに?」
「うん。ごめんね」
ターナは安心したように、眩しいほどの微笑みを浮かべた。
胸がきゅっと締めつけられる。カルザスは、手前勝手な感情の揺れで、彼女を不安がらせてしまった自分を咎めた。
そっと深呼吸をする。そして、答えの出ない自問自答を、意識的に断ち切る。
——彼女がくれる言葉や仕草を、そのまま心で受け止めたい。自分もまた、飾らない心で応えたい。この柔らかく尊い笑顔に、影を落とすような真似は決してしない。
カルザスは、静かにそう心に決めた。すると、騒がしかった胸の奥が、すっと透き通る。
いつの間にか意識の外に追いやられていた潮の香りが、鮮やかに蘇った。




