第三章 第七節【歪んだ密約】
「今すぐ、何挺用意できる? 現金ならあるぞ。急ぎで調達してくれ」
レオ将軍は、苛立ちを隠すことなくイーストンに迫った。
「まあ、待て。そう簡単な話じゃない。何度も言っているだろう。正規ルートとは勝手が違うんだ。いろいろと細工が必要になる」
いつもは余裕を崩さないイーストンだが、この日は珍しく、焦りが滲んでいた。
黒十字がタンデス自治区を制圧してから四日後、ターナがカルザスらの前に舞い降りた日の翌日のこと。レオは行政局の一室に、イーストンを呼びつけていた。長らく焦らされていた銃器の納入を、今こそ実行しろと詰め寄るためだった。
バクスター・レンジ商会は、これまでも黒十字解放戦線にさまざまな武器を供給してきた。とはいえ、東大陸では、銃器の取引が厳しく規制されている。黒十字解放戦線による買い付けは、正式な手続を踏んでおらず、明白に違法な密輸に当たる。
だからこそ商会は、取引の間隔を空け、目立たない量を黒十字に納入してきたのだ。大量調達が可能となるのは、黒十字が国家として承認され、国境を維持する必要が生じてから——それが、社長であるバクスターの意向だ。
しかし、タンデスを実効支配したことで、その前提は崩れた。黒十字が「国家」になろうとする今、レオとしては条件は整ったと解釈し、銃器の調達を急いでいた。
「つまり、値を吊り上げたいということか? 多めに払うのは構わん。いくら払えば、直ちに揃えられるんだ? 今すぐ提示しろ」
イーストンは、心の中で舌打ちした。
——まったく、こいつはいつだって短絡的だ。子どもの駄々と同じではないか。
「だから、待てと言っている! まずは、入荷計画を立てる必要がある。そもそも、タンデス制圧の件だって、俺たちは事前に聞かされていなかった。突然そんな話を持ち出されても、対応できるわけがない」
「なぜ国家機密を、商人風情にいちいち知らせねばならん。貴様ら、何様のつもりだ」
——その言葉を、そっくりそのまま返してやろうか、盗賊風情が!
イーストンは、目の前の男を半殺しにしてやりたい衝動に駆られた。だが、怒りをぐっと堪える。
「弾丸の数が足りない。弾がなければ、銃などただの金屑だ。仕入れの目処が立ったら、改めて話を進めよう」
我ながら言い訳がましいと、イーストンは内心で苛立ちを深めた。
「弾丸だと? 今まで、そんな話は一言もなかったじゃないか」
レオは疑うような目で睨みつける。
「二週間後に連絡する。それまで待ってもらおう」
何か言い返そうとするレオを無視し、イーストンは足早に部屋を出ていった。扉を乱暴に閉め、廊下の突き当たりまで進むと、思いきり右の壁を、拳で叩きつける。
滲む血糊を見やることなく吐き捨てた。
「このままで済むと思うな。くされ蛮族が!」




