第三章 第五節【届かぬ視線】
カルザスは、これ以上なく狼狽していた。心の乱れを周囲に悟られぬよう平静を装うだけで、精一杯だった。国王ユージンとの間で交わされる会話も、もはや耳に入ってこない。自分を庇うジョシュアの言葉でさえも、心ここにあらずのカルザスにとっては、遠い騒めきでしかなかった。
無理もない。
審議の途中で姿を見せた王女ターナ・マイヤーが、カルザスの知る「サラ・メンフィス」と同一人物であることは、一目瞭然だった。シャイナの丘で出会った、風のように爽やかな女性は、ナミの見立てどおり高貴なお方だった。よりによって、最高位の「王女」だったのだ。
ターナは、カルザスと目を合わせることもなかった。その冷静な表情は、微動だにしない。感情の揺れは見て取れず、彼女が気づいているのかどうかすら、判然としない。
自分と彼女との間に突きつけられた断絶に、カルザスは戸惑い、もやもやとした感情を募らせる。
自分は、人の道に反した覚えなどない。それでも、こうして捕縛され、尋問に晒されている。そんな「罪人」は、王女と目線を合わせる資格すらないのか。その理不尽さは、やがて悔しさにも似た感情を彼に呼び起こしていた。正しいことをしたという確信は、今にも崩れ落ちそうだった。
縄を解かれた後も、ターナは眉一つ動かさない。国を司るべき者の強靭さを、否応なく見せつけられ、カルザスは身を縮めてうなだれた。自分がどれほどちっぽけな存在かを、ただただ思い知らされる。
——俺は、こんなところで、一体何をしているんだ?
ターナは、最後の最後まで落ち着き払い、わずかな感情すら、垣間見せることはなかった。




