↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女は、業に抗った  作者: 一石千月
第二章 二度目の偶然
PR
14/107

第二章 第五節【医師の奔走】

 ユージンが執務室に戻ると、クララが今日の仕事の準備に取りかかっていた。

 マイヤー家では、午前中に夫婦で執務するのが伝統となっている。午後は主に、来客応対、会議、式典などに充てられるため、午前中は貴重な時間だ。

 しばらくすると、白衣姿のバイロンが部屋に入ってきた。執務の合間に、国王と王妃の体調をチェックするのは、宮廷医の日課である。

 聴診器を当てられているユージンに、クララが話しかけた。ダークブラウンのワンピースがシックな印象を醸し出す。

「そういえば、黒十字解放戦線の襲撃の後、モーリス様は具体的に何か対応されたのですか?」

「うむ、それなんだが……」とユージンは首を傾げた。「確かに翌々日に、帝国としての非難声明は発出されたが、その後、特にアクションがない。晩餐を中断してまで帰国したというのに……。側近に諌められたのか、自重したのか。そもそも、我々に何の連絡も寄越さないのは、いささか不自然だ」

 ユージンは、モーリスのちぐはぐな言動に疑問を持つ。その一方で、モーリスが黒十字をいたずらに挑発しなかったことに安堵していた。黒十字問題については独自に対応しており、あまり敵対的にならないよう、注意を払っている。


「何か、違和感や痛みはございますか?」

 バイロンが尋ねる。

「今朝は快調だな」とユージンはワイシャツの前ボタンを留める。「この数日は、頭痛も治まっている。このまま、調子を取り戻せればいいのだが」

「知り合いの医師からも、情報収集を続けております。近年の医学の進歩は目覚ましいので、いずれ陛下の頭痛の原因も、明らかになるのではないかと」

「まあ、頭痛と肩凝りは、古今東西そう簡単には治らない。私の父も、ずっと悩んでいたからな」

 ユージンは表情を緩める。

「でも、原因がわかるとありがたい。頼むよ」

「承知いたしました」

 バイロンは深く頭を下げ、引き続き、クララの検診を始めようとした。

「今日もいいお天気ね」と窓の外を眺めていた彼女が呟く。「ターナったら、どこに行くのかしらね」

 その言葉を聞いて、バイロンの顔が引きつった。

「お、お妃様……まさか……」

「ええ。プランタに乗って、飛んで行くのが見えましたよ」

「どこですかっ!」

 バイロンは聴診器を放り出し、慌てて窓に駆け寄った。

 空には、小さな機影が浮かんでいる。

「ああっ! 油断も隙もない!」と地団駄を踏んだ。

「またかい。あの子も懲りないね」とユージンはネクタイを締めながら、苦笑する。

「ごめんなさいね。大丈夫だとは思うけど、一応ね……」とクララは笑顔を絶やさない。

「後を追います! 失礼しますっ!」

 バイロンは、バタバタと音を立てて、執務室を飛び出した。ターナのアレンジした花の香りが、彼の動きとともに揺れる。


 二週間前、ターナがシャイナの丘で起こした自損事故が脳裏をよぎる。もし王女の身に何かあれば、宮廷だけでなく、国全体を揺るがす大騒ぎになりかねない。

 バイロンは、自らのプランタが静置してある格納庫へ向かって全力で走った。悪態が止まらない。

「あの、じゃじゃ馬娘が!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。