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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第73話 まだ分けられていない声

 男の首元の端末が、一斉に青く光った。


 一つじゃない。


 四十七件の索引表示が、同時に明滅している。


「AI、何が起きてる!」


『既存の四十七件すべてから、同一の接続要求が発生しています』


「同一?」


『はい。接続先は、現在「まだ、分けられていないアオイ」と名乗っている対象です』


 未選択領域の霧が、ざわりと揺れた。


 今のアオイが、自分の胸元を押さえる。


「……聞こえる」


「何が」


「呼ばれてる」


 幼いアオイも。


 三人目のアオイも。


 黙っている。


 けれど。


 霧の奥に浮かんでいた青い光が、一つ、また一つと明るくなっていく。


「待て!」


 俺は青い道の奥へ叫んだ。


「勝手につながるな!」


『勝手じゃない』


 声が重なった。


 今のアオイ。


 幼いアオイ。


 三人目のアオイ。


 それ以外の。


 まだ姿すら持たない、いくつもの声。


『聞いてるだけ』


「聞くだけでも、危険かもしれない」


「分かってる」


 今のアオイが答えた。


「でも、あの声は……わたしたちの中から呼んでる」


 画面の向こう。


 別都市のミナも、地下の扉を見つめている。


 通路の壁に並んでいた青い点は、残りわずかだった。


「隔離は」


 俺が聞くと、少女が端末を見る。


「止まってない。あと十秒もない」


「男。時間を伸ばせるか」


「制御者端末の管理権限は、すでに失われています」


「でも、索引は動いてる」


「……試します」


 男が、自分の首元へ手を当てた。


 端末の青い光が、指の隙間から漏れる。


「旧制御者識別。緊急保全を要求」


 端末が一度、赤くなる。


『権限不足』


「だろうな!」


 俺が叫んだ、その瞬間。


 表示が書き換わった。


『共同要求を検出』


『要求者:アオイ 四十七件』


 仮面の男が息を止めた。


 青い光が、男の端末から俺のスマホへ伸びる。


 さらに。


 未選択領域の霧の中。


 四十七の光が、同じリズムで明滅した。


『緊急保全を承認します』


「承認?」


 画面の向こうで、少女が叫ぶ。


「鈴木! 青い点が止まった!」


 最後の一つ。


 消える寸前だった青い光が、再び明るくなる。


 男の端末に表示が出た。


『隔離処理:保留』


「止まったのか」


『完全停止ではありません』


 AIが答える。


『退出要求者との通信維持が、暫定的に優先されています』


「誰が優先した」


『特定できません』


 だが。


 画面の向こう。


 扉の内側から。


 今度はノックではなく、声がした。


「聞こえる?」


 幼いアオイが、青い道の前へ出る。


『聞こえる』


 返ってきた声は。


 幼いアオイと、よく似ていた。


 幼いアオイの顔が固まる。


『……わたし?』


「似てるね」


 扉の向こうの声が言った。


「でも、あなたはもう、たくさんの場所を知ってる」


「お前は、何を知ってる」


 俺が聞く。


 少しの沈黙。


 それから。


「白い部屋」


 仮面の男の肩が、ぴくりと動いた。


「白い部屋?」


「目を開けたら、そこにあった」


 声は静かに続ける。


「誰かが、わたしに名前をつけようとしてた」


「何て名前だ」


「覚えてない」


 今のアオイが唇を噛む。


「分けられる前なら、どうして四十七件のことを知ってるの」


「知ってるんじゃない」


 扉の向こうの声が、少し困ったように答える。


「痛い」


「痛い?」


「あなたたちが遠くにいると、胸の奥が引っ張られる」


 未選択領域の青い光が揺れた。


 どこかで。


 アオイの一人が泣き始める。


「戻りたいのか」


 俺は聞いた。


「戻るって、何?」


 返事はすぐに来た。


「わたしは、まだ、どこにも行ってない」


 俺は言葉を失った。


 扉を見る。


 この中にいる存在が何なのか。


 まだ分からない。


 四十七件へ分かれる以前のアオイなのか。


 記録なのか。


 別の時間に残された反応なのか。


 それすら分からない。


 でも。


 もし、四十七件を元へ戻すためだけの存在だと決めつければ。


 俺たちはまた。


 アオイたちの意思を無視することになる。


「お前は、外に出たいのか」


「会いに行きたい」


「誰に」


「わたしに」


 今のアオイが目を閉じた。


 三人目のアオイが、震える声で聞く。


『それ……わたしたちのこと?』


「たぶん」


 扉の向こうの声は答えた。


「でも」


 少しだけ声が小さくなる。


「会ったら何が起きるか、分からない」


 俺は少し驚いた。


「お前にも分からないのか」


「分からない」


「なら、なおさら今は開けられない」


「うん」


 返事は。


 あっさりしていた。


「開けなくていい」


 霧の鈴木が俺を見る。


『意外と話が早いな』


「お前もそう思ったか」


「でも」


 扉の向こうの声が続ける。


「ここにいると、また眠らされる」


 その瞬間。


 少女のいる通路で。


 青い点が一つ、赤く変わった。


 続いて。


 二つ。


 三つ。


「隔離が再開した?」


「違う!」


 少女の顔色が変わる。


「白い側が、別の処理を始めた!」


 男の端末に、警告が出た。


『記録領域:再初期化準備』


「再初期化?」


「存在しない記録へ戻すための処理です」


 男の声が低くなる。


「中にいる対象ごと、消去される可能性があります」


「時間は!」


『推定二分』


「二分しかない!」


 俺は画面を見る。


 扉は開けない。


 未選択領域へ出すことも、まだ許可できない。


 だが。


 何もしなければ。


 中にいる相手そのものが消されるかもしれない。


「少女! 街の中に安全な場所は」


「さっきから探してる。でも、まだ見つからない!」


「男。端末から別の出口を作れるか」


「分岐以前の記録には、私の知らない構造があります」


「できるか、できないか」


「……分かりません」


「またそれか!」


 俺が叫ぶと。


 霧の鈴木が腕を組んだ。


『俺たちの側に出す以外の方法を探せばいい』


「それを今探してる!」


『違う』


 霧の鈴木は。


 青い道の先を指した。


『出すんじゃない』


「何?」


『こっちが会いに行く』


「扉を開けずに?」


『お前がさっき確認してただろ』


 霧の鈴木が画面を指す。


『閲覧と退出は別の処理だ』


 俺は表示を見る。


『閲覧条件:当事者の同意』


 アオイ:未確認。


 ミナ:確認済。


 制御者:未確認。


「閲覧を許可しても、相手を退出させることにはならない」


 男が言った。


「ただし、内部の記録領域へ接続できるのは、当事者として認識された者だけです」


「アオイを一人、代表にするのか」


「違う」


 今のアオイが、俺の前へ出た。


「聞く」


「何を」


「四十七人に」


 アオイは霧の奥を見る。


「中にいる子に会いに行くか」


 青い光が揺れる。


「危ないかもしれない」


 一つ。


 また一つ。


 青い光が灯る。


「それでも会うか」


「一人ずつ聞くのか」


「うん」


「二分しかない」


「だから、急ぐ」


「急いで決めさせることになるぞ」


 今のアオイが。


 俺を見る。


「決めるのは、わたしたち」


「……」


「鈴木は、聞いて」


 その言葉に。


 俺は何も言えなくなった。


 少し前の俺なら。


 たぶん、もう決めていた。


 危険だから行くな。


 時間がないから俺が決める。


 そう言っていた。


 でも。


 これはアオイたちの話だ。


「分かった」


 俺は頷いた。


「聞く」


 白い部屋の声が。


 扉の向こうで、小さく言った。


「待ってる」


 男の端末に、赤い数字が浮かぶ。


『再初期化開始まで:119』


 118。


 117。


 未選択領域の青い光が。


 一斉に明滅した。


 最初に聞こえたのは。


 幼いアオイの声だった。


『わたし、会いたい』


 続いて。


 三人目のアオイ。


『わたしは、聞きたいことがある』


 今のアオイが。


 青い道へ一歩踏み出す。


「四十七人分、聞く」


 俺は赤い数字を見る。


 109。


 108。


 時間はない。


 だからこそ。


 勝手には決めない。


 そのときだった。


「鈴木!」


 画面の向こうで。


 別都市のミナが息をのんだ。


「何だ!」


「後ろ!」


 少女が振り返る。


 地下通路の暗闇。


 さっきまで誰もいなかった場所から。


 誰かが。


 ゆっくり歩いてくる。


 白い服ではない。


 仮面もない。


 胸元に。


 青い文字だけが浮かんでいる。


『当事者:ミナ』


 俺は、画面の少女を見る。


 これまで話していた。


 ミナと同じ顔をした、別都市の少女。


 そして。


 その背後から現れた。


 もう一人のミナ。


 二人が。


 同じ顔で、向かい合う。


 少女の唇が震えた。


「……わたしも」


 胸元の青い文字が、同時に光る。


「二人いる」

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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