↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/91

第65話 アオイからの着信

 ぴりりりり。


 ぴりりりり。


 地下空間に、着信音が響いていた。


 一つは、仮面の男の首元。


 皮膚に埋め込まれた、黒い端末。


 そして、もう一つ。


 アオイの胸元に淡い青い光が浮かび、その奥から同じ着信音が聞こえている。


『着信:アオイ』


 男の端末に、白い文字が表示されていた。


「……わたし?」


 アオイが自分の胸に手を当てる。


 声が震えていた。


「取るな」


 仮面の男が言った。


 白い光に身体を半分沈めながら。


 今までのような命令口調ではない。


 明らかに。


 怖がっていた。


「なんで」


 アオイが聞く。


「それ、わたしの声?」


「違う」


「じゃあ、なに」


「過去の接続記録です」


「過去?」


 男がアオイを見る。


「お前が……まだ、ここにいた頃の」


 アオイの顔から血の気が引いた。


 未選択領域。


 白い霧の中。


 一人で待ち続け。


 自分の名前まで忘れた場所。


「取ったら、どうなる」


 俺が聞いた。


 仮面の男は答えない。


 白い光が、また男の身体を引く。


「回収まで、残り十秒」


 平らな声が地下へ響いた。


「アオイ」


 俺は呼んだ。


「取るかどうかは、お前が決めていい」


 アオイが俺を見る。


「でも、一人で決めるな」


 霧の鈴木も、男の首元の端末を睨んだ。


『取るなら、俺たちも聞く』


 六本目の青い道の向こうでは。


 セナとユラが、不安そうにこちらを見ていた。


「アオイ!」


 セナが呼ぶ。


「怖かったら、やめていい!」


 ユラも頷く。


「うん。やめてもいい」


 アオイは二人を見る。


 俺を見る。


 霧の鈴木を見る。


 それから。


 白い光に沈みかけている男を見た。


「……出る」


 アオイが、胸元の青い光へ手を伸ばす。


 指先が触れた。


 ぴ。


 着信音が止まった。


 その瞬間。


 地下空間から、すべての音が消えた。


 白い光の唸りも。


 回収を告げる声も。


 仮面の男の荒い呼吸さえ。


 何も聞こえない。


 アオイだけが、目を閉じていた。


「……もしもし」


 小さな声。


 少しの沈黙。


 そして。


『……おじさん?』


 幼い女の子の声が聞こえた。


 アオイの声だった。


 でも。


 今より、ずっと幼い。


「え……」


 アオイが目を開ける。


『おじさん、まだそこにいる?』


 仮面の男が、息をのんだ。


 その声を聞いた瞬間。


 顔から、すべての力が抜けたように見えた。


「その声……」


 俺は男を見る。


「お前が残した記録なのか」


 男は、ゆっくり頷いた。


「私は……戻れなかった」


「どうして」


「アオイが未選択領域へ落ちたあと、私は救出経路を探しました」


 男の目が、アオイへ向く。


「何度も」


 首元の端末が白く点滅する。


「ようやく未選択領域へ続く経路を見つけたとき――白い側に捕まりました」


「それで」


「門の制御へ組み込まれた」


 霧の鈴木が言う。


『案内人にされたのか』


「……そう呼ばれるようになりました」


 男は苦しそうに笑った。


「私は、ただの……失敗した救助者です」


 その間にも。


 端末の向こうから、幼いアオイの声が続いている。


『おじさん』


『ここ、こわい』


 仮面の男の目から。


 黒い涙が、一筋落ちた。


「あなたが未選択領域へ送られたとき」


 男は言う。


「私は止められなかった」


 霧の鈴木が、低い声で返す。


『送ったのは、お前じゃない』


 男が見る。


『俺が門に切られた。アオイも残った』


「知っています」


「だったら」


 俺は言った。


「全部、自分のせいみたいに言うな」


 男は答えない。


「助けられなかったことと、捨てたことは違う」


 アオイが、男を見る。


 しばらく。


 何も言わなかった。


 その間にも、幼い声が続く。


『おじさん』


『ひとり?』


 男の唇が震えた。


 だが。


 答えたのは、今のアオイだった。


「ちがう」


 小さな声。


「いま、ひとりじゃない」


 端末の向こうの幼い声が止まる。


『ほんと?』


「うん」


 アオイが俺を見る。


「スズキがいる」


「いる」


 俺は頷いた。


「ここにいる」


「もう一人のスズキも」


『いる』


 霧の鈴木が答える。


「ユラとセナも」


 六本目の道の向こうで。


 セナが大きく手を振った。


「アオイ!」


 ユラも両手を上げる。


「いるよ!」


「みんな、いる!」


 幼いアオイの声が。


 ほんの少しだけ笑った。


『よかった』


 その声が。


 少しずつ遠ざかる。


「待って!」


 アオイが叫ぶ。


「どこにいるの!」


 返事はない。


 代わりに。


 端末の向こうから。


 ざああああ……。


 白い霧が流れる音がした。


 聞き覚えがある。


「未選択領域……」


 俺はスマホを見る。


「AI」


『はい』


「今の声の位置を調べろ」


『解析します』


 数秒後。


『未選択領域の深部から反応を検出』


「過去の記録じゃないのか」


『過去の音声記録と、現在の接続反応が重複しています』


「分かりやすく言え」


『過去のアオイ氏の記録が、現在も未選択領域内に残留し、反応を継続している可能性があります』


 アオイの顔が強張る。


「わたしの……むかし?」


「分からない」


 俺は正直に答えた。


「過去のお前そのものなのか」


 胸元の青い光を見る。


「記憶だけなのか」


 白い霧の音。


「それとも、別の何かなのか」


 アオイを見る。


「まだ分からない」


「でも」


 アオイが聞く。


「あの子、ひとり?」


 答えに詰まる。


「……たぶん」


 アオイが、ぎゅっと拳を握った。


「じゃあ、行く」


「待て」


 仮面の男が首を横に振る。


「そこへ行ってはいけない」


「なんで」


「未選択領域の深部は、通常の経路ではありません」


「でも、わたしがいる」


「違う」


 男の声が強くなる。


「あれは、お前であって、お前ではない」


「どういうこと」


「記憶が残り」


 男は苦しそうに息を吸う。


「声が残り」


 白い光が、また身体へ巻きつく。


「願いだけが残ったものです」


「それでも」


 アオイは男を見る。


「こわいって言ってる」


 男が黙る。


「ひとりって言ってる」


「……」


「だったら」


 アオイは胸元の青い光を握る。


「行く」


 その瞬間。


 男の首元の黒い端末が。


 白ではなく。


 青く光った。


「……何だ」


 俺は息をのむ。


 アオイと同じ。


 深い青。


 男の身体を縛っていた白い線が。


 わずかに緩んだ。


「接続制御……異常」


 平らだった回収の声が、初めて乱れる。


「対象:制御者」


「再判定」


 男が、苦しそうに顔を上げた。


「アオイ」


「なに」


「私は」


 男は自分の首元を押さえる。


「お前を置いていった者ではない」


「うん」


「だが」


 白い光が、再び身体を引く。


「お前を救えなかった者です」


 アオイは。


 少しだけ泣きそうな顔をした。


 それでも。


 一歩。


 男へ近づく。


「じゃあ」


 男を見る。


「いま、一緒に来て」


 男の目が見開かれた。


「私は……行けません」


「なんで」


「私は制御者です」


 男は首元の端末を握る。


「ここから外れれば、接続網が――」


「また、誰かがこわれる?」


 男は答えない。


 アオイが、もう一歩近づく。


「おじさん」


 男の肩が震えた。


「もう」


 アオイが手を伸ばす。


「ひとりで決めないで」


 その言葉に。


 男の首元の端末が、強く青く光った。


 ぴりりりり。


 いや。


 着信音ではない。


 低く、短い。


 何かが起動するような音。


 六本目の青い道の先。


 仮面の男の背後で。


 床の記号が。


 青く反転した。


「AI!」


『新規経路を検出』


「七本目か」


『はい』


 六本目は、未選択領域から東の山地下へつながった道。


 そして今。


 その東の山地下から。


 さらに奥へ。


 七本目の青い光が伸びていく。


「どこへつながってる」


『未選択領域』


「同じ場所?」


『いいえ』


 画面に、新しい反応が浮かぶ。


『より深部です』


 青い光の先。


 白い霧。


 今までより濃い霧の中から。


 幼い声が響いた。


『おじさん』


 仮面の男が、目を閉じる。


『まだ、そこにいる?』


 アオイが。


 男へ手を伸ばした。


「今度は」


 男が、ゆっくり目を開ける。


「一緒に帰ろう」


 男の目から。


 黒い涙が、もう一筋落ちた。


 そして。


 七本目の道の向こうで。


 小さなアオイの影が。


 こちらへ向かって、初めて一歩を踏み出した。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。