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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第63話 アオイの帰る場所

 六本目の道が、鮮やかな青へ変わった。


 白い霧の中。


 それだけが、まっすぐ東の山の地下へ伸びている。


 灰色だった線は、もうない。


 アオイが自分の名前を口にした瞬間。


 道は、帰る場所を思い出したみたいに青くなった。


「アオイ」


 俺は、その名前を呼んだ。


 アオイは少しだけ肩を震わせた。


「……うん」


 返事は小さい。


 でも、はっきり届いた。


「アオイ」


 もう一度呼ぶ。


 今度は。


 アオイが少しだけ笑った。


「呼ばれた」


「ああ」


「ずっと、呼ばれなかった」


 胸が詰まる。


 未選択領域で。


 何年いたのかも分からない。


 誰にも名前を呼ばれず。


 自分でも、その名前を忘れていた。


「これからは呼ぶ」


 俺は言った。


「勝手に置いていかない」


 アオイは、ゆっくり頷いた。


 その青い道の先。


 東の山の地下空間が映っている。


 倒れた石柱。


 割れた床の記号。


 散らばった白い石。


 その真ん中に。


 仮面の男が倒れていた。


 白い仮面は半分ほど割れている。


 片方の頬が見えていた。


 石ではない。


 人間の肌だ。


「アオイ」


 セナが小さく聞く。


「あの人、知ってる?」


 アオイは、しばらく答えなかった。


 ただ、仮面の男を見つめている。


「……わからない」


「お前を置いていった人か」


 俺が聞く。


 アオイは首を横に振った。


「ちがう」


「じゃあ、どうして名前が……」


「この人の中に、わたしの声がある」


 霧の鈴木が眉をひそめる。


『声?』


「うん」


 アオイは、自分の胸へ手を置いた。


「ずっと前。だれかに、名前を呼ばれた」


 ――アオイ。


 小さな声。


 白い霧の中で。


「その声と、似てる」


 仮面の男の素顔は、まだ半分しか見えない。


 でも。


 アオイの名前が、あの仮面に浮かんだ。


 偶然とは思えなかった。


「AI」


『はい』


「仮面の男に残ってる情報を見られるか」


『六本目の経路を通じ、限定的な解析を試みます』


 俺の黒いスマホに、文字が流れる。


『対象:仮面の男』


『白い側の制御反応:低下』


『人間由来の残留情報:複数』


『対象識別:アオイに関連する音声記録を検出』


「音声を出せ」


『再生します』


 ざあああ……。


 雑音。


 その奥から。


『大丈夫だ』


 男の声がした。


 今の仮面の男より、少し若い。


 疲れている。


 でも。


 今ほど冷たくない。


『名前を忘れるな』


 アオイが息をのむ。


『アオイ。聞こえるか』


 白い霧が揺れた。


 アオイの目から、涙が落ちる。


「……あの声」


『俺は、すぐに戻る』


 記録の男が言う。


『だから、ここで待ってろ』


 そこで。


 音声は途切れた。


 アオイは、しばらく動かなかった。


 俺も、何も言えない。


 ――待ってろ。


 ――すぐに戻る。


 その言葉が、どれだけ残酷な約束になることがあるのか。


 アオイは知っている。


「戻らなかった」


 アオイが言った。


「ずっと」


「……ああ」


「でも」


 アオイは、青い道の向こうにいる仮面の男を見る。


「あの人は、置いていった人じゃない」


「違うのか」


「わからない」


 アオイは涙を拭く。


「でも」


 小さく息を吸う。


「名前を呼んだ人」


 それだけは。


 アオイの中に残っている。


 そのとき。


 六本の道が、一斉に揺れた。


 拠点。


 北の森。


 東の山。


 日本側。


 別の都市。


 そして、仮面の男へ続く六本目。


 青い光が、一斉に細くなる。


「何だ」


『警告』


 AIの文字が赤く染まる。


『白い側の管理層が、複数経路の同時遮断を開始しました』


「六本まとめて閉じる気か」


『その可能性が高いです』


「そんなことまでできるのか」


『各経路への接続制御を確認しています』


 青い道の向こうに、それぞれの景色が浮かぶ。


 岩と倒木の拠点。


 マリが石を握っている。


 サヨが子どもたちを守っている。


 ひびだらけの石から、青い光が溢れていた。


「マリ……」


 別の道。


 北の森。


 白い石の門の前で、ひび割れた石人形が倒れている。


 その向こうから。


 白い服の者たちが、再び門へ近づいていた。


 日本側。


 コンビニ前の規制線。


 警察車両。


 ミナを乗せた車。


 白い門が、また大きく揺れている。


 別の都市。


 ミナと同じ顔の少女が。


 白い服の者たちに囲まれていた。


 そして六本目。


 東の山の地下。


 倒れた仮面の男の周囲へ、白い光が集まり始めている。


「全部、同時かよ」


 どこか一つじゃない。


 全部だ。


 どこかを選べば。


 別のどこかが閉じる。


 また。


 同じやり方だ。


「AI」


『はい』


「六本の道を全部維持できるか」


『単独では困難です』


「何が必要だ」


『各経路に、接続を維持する反応源が必要です』


「反応源?」


 スマホの画面に、六つの光点が浮かぶ。


 拠点。


 マリの石。


 日本側。


 ミナが持つ端末。


 未選択領域。


 アオイ。


 北の森。


 石人形。


 別の都市。


 ミナと同じ顔をした少女。


 そして。


 東の山の地下。


 仮面の男。


「……待て」


 俺は画面を見る。


「また、人を使うのか」


『接続を維持する反応を示している対象を表示しただけです』


「同じだ」


『スズキ』


「子どもに門を支えさせるな」


 俺は言った。


「マリにも」


 アオイを見る。


「アオイにも」


 ミナを見る。


「ミナにもだ」


 ユラが、俺の隣で首元を押さえている。


 割れた白い石の跡。


 ずっと。


 こうやって子どもたちを使ってきた。


 門を開く。


 門を閉じる。


 門を固定する。


 門をつなぐ。


 名前だけ変えて。


 やっていることは同じだ。


「もう、子どもにやらせない」


 俺は言った。


 霧の鈴木が俺を見る。


『じゃあ、どうする』


「大人がやる」


『大人って』


「俺たちだよ」


 霧の鈴木が、自分を指さす。


『俺も?』


「見た目はおっさんだろ」


『中身もお前だぞ』


「だったら余計に大人だ」


『そこは認めたくないな』


「今は認めろ」


 ほんの少しだけ。


 ユラが笑った。


 セナも。


 アオイも。


 それだけで。


 張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。


「役割を分ける」


 俺は言った。


「子どもに選ばせない」


 六本の道を見る。


「俺たちが先に動く」


『具体的には?』


「これから考える」


『そこは決めてないのか』


「時間がなかったんだよ」


『知ってる』


 でも。


 一つだけ決められることがある。


「仮面の男だ」


 俺は六本目を見る。


 東の山の地下。


 倒れている男。


 白い側の制御を知っている。


 門の仕組みも知っている。


 そして。


 あいつ自身も。


 白い側に使われていた可能性がある。


「アオイ」


「……うん」


「会いに行けるか」


 アオイの身体が、少し強張った。


 怖いはずだ。


 待ってろ。


 すぐ戻る。


 そう言った声。


 そのまま戻らなかった声。


 名前だけを残した人間。


「無理なら、行かなくていい」


 俺は言った。


「俺だけ行く」


「……行く」


「アオイ」


「行く」


 今度は。


 少し強い声だった。


「でも」


 アオイが俺を見る。


「ひとりじゃない」


「当たり前だ」


「スズキも」


「ああ」


 霧の鈴木が、横から言う。


『俺も行く』


「お前はここに残った方がいいんじゃないか」


『却下』


「早いな」


『お前が言うな』


「でも、固定点は」


『二重固定になってるんだろ』


「お前が抜けたら」


『だから一緒に考えるんだろ』


 言い返せなかった。


「……そうだったな」


 そのとき。


 六本目の青い道の先で。


 何かが動いた。


 倒れていた仮面の男。


 指が動く。


 ゆっくり。


 顔が上がる。


 割れた仮面の下。


 人間の目。


 その目が。


 まっすぐ、こちらを見た。


 いや。


 俺ではない。


 アオイを。


「……アオイ」


 掠れた声。


 アオイの身体が震える。


 男は苦しそうに息を吸った。


「お前は……」


 六本目の道が、大きく揺れる。


 男の周囲で。


 白い光が急速に膨らんでいく。


「まずい!」


 俺はアオイの前へ出る。


 だが。


 仮面の男は、こちらへ手を伸ばした。


 敵意のある動きではなかった。


 むしろ。


 確かめるように。


 失ったものを見つけたように。


 そして。


 掠れた声で言った。


「お前は……まだ」


 一度。


 息を詰まらせる。


「まだ、帰っていないのか」


 アオイの目から。


 また一粒。


 涙が落ちた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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