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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第62話 六本目の帰る道

 五本の青い道が、白い霧を切り裂いた。


 一本は、岩と倒木の拠点へ。


 一本は、北の森へ。


 一本は、東の山の地下へ。


 一本は、日本側のコンビニ前へ。


 そして、最後の一本は――


 見知らぬ街の光へ続いていた。


「五本……」


 俺は、霧の中を走る青い線を見つめた。


 ユラ。


 セナ。


 青い服の少女。


 霧の鈴木。


 ミナ。


 そして、俺。


 ここにいるのは六人。


 道は五本。


「AI」


『はい』


「行き先を確認してくれ」


『解析中です』


 そのとき。


 白い仮面たちが、一斉に杖を上げた。


「異常接続を停止します」


「止めるな!」


 白い杖から光が走る。


 刃のような光が、青い道へぶつかった。


 ばちんっ!


 霧全体が大きく揺れる。


 一本目の道が、急に細くなった。


「鈴木!」


 ミナが、三台目の黒いスマホを抱えたまま叫ぶ。


「道、消える!」


「AI、守れ!」


『防御経路を展開します』


 俺の黒いスマホ。


 霧の鈴木が持つ白いスマホ。


 そして、ミナの黒いスマホ。


 三つの画面が同時に光った。


 白ではない。


 青い光。


 三本の青い線が絡み合い、白い杖から放たれた光を押し返す。


「あり得ない」


 白い仮面の一人が呟いた。


「未選択対象が、経路を増殖させている」


「違う」


 青い服の少女が言った。


 小さな声だった。


 それでも、白い霧の中にはっきり届いた。


「帰る道を、なくさないだけ」


 白い仮面たちが杖を構え直す。


「回収対象を優先します」


 その瞬間。


 霧の地面から、白い手が伸びた。


 ユラの足首を掴む。


「ユラ!」


 俺は走ろうとした。


 だが、足元へ黒い線が絡みつく。


「くそっ!」


 二重固定点にした影響なのか。


 身体が重い。


「鈴木!」


 ユラの身体が引かれる。


 首元の割れた石が、白く光った。


「離せ!」


 霧の鈴木が、俺より先に動いた。


 白い手を蹴る。


 ぱきんっ!


 石のような指が砕ける。


 だが。


 今度は別の手が、霧の鈴木の足首を掴んだ。


『くそっ!』


 次々に白い手が伸びてくる。


 ユラ。


 霧の鈴木。


 青い服の少女。


 狙われている。


「セナ!」


「うん!」


 セナがユラの手を掴む。


「離さない!」


 小さな手と手が、強くつながった。


 俺はスマホを霧の地面へ向ける。


「AI! 白い手はどこから来てる!」


『未選択領域の管理層です』


「管理層?」


『白い側が、この領域を固定・回収するために設置した制御構造と推定されます』


「壊せるか」


『可能性があります』


「今はそれでいい! どこだ!」


『五経路の交点付近』


 五本の青い道が交わる中心。


 そこに。


 黒い穴のようなものが開いていた。


 白い手は、そこから伸びている。


「ミナ!」


「うん!」


 ミナは俺の意図を察したように、三台目のスマホを掲げた。


 青い光が走る。


 黒い穴へ突き刺さる。


 白い手が、一斉に止まった。


「今だ!」


 霧の鈴木がユラを引き寄せる。


 俺とセナは、青い服の少女を引っ張った。


 白い手が、次々に霧へ沈んでいく。


 最後の一本が消えた直後。


 黒い穴も、青い光に押し潰されるように閉じた。


 白い仮面たちが、初めて後ろへ下がった。


「管理層への干渉を確認」


「接続異常が拡大しています」


「異常じゃない」


 俺は言った。


「帰る道だ」


『五経路の接続先を解析しました』


 AIの文字が、空中に浮かぶ。


『第一経路:岩と倒木の拠点』


『第二経路:北の森』


『第三経路:東の山地下』


『第四経路:日本側コンビニ前』


『第五経路:別接続先・都市領域』


「やっぱり、五本目は別の日本か」


 俺は、その先に見える街を見た。


 高層ビル。


 大きな駅。


 道路を流れる車。


 以前、門の向こうに見えた場所。


 ミナと同じ顔の少女がいた街だ。


「この五本を使えば、みんな戻れるのか」


『条件付きで可能です』


「条件は」


『各経路には、同時通過可能数の上限が存在します』


「また定員か」


『ただし、上限は固定されていません』


「どういう意味だ」


『複数の経路を同時に維持すれば、全員が一つの出口へ集中する必要はありません』


「……分かれて通るのか」


『はい』


 俺は五本の道を見る。


 今までは、ずっと一つだった。


 一人だけ。


 一つの道。


 一つの世界。


 門は、いつも俺たちにそれを選ばせようとしていた。


 でも。


 今は五本ある。


 一人を選び、一つの道へ押し込む必要はない。


「わかれるの?」


 ユラが俺の服を掴んだ。


「一時的にだ」


「また、ひとり?」


「違う」


 俺はしゃがんで、ユラと目を合わせる。


「誰も一人にはしない」


「ほんと?」


「ああ」


 セナが、すぐ隣へ来た。


「私はユラと一緒」


 青い服の少女も、小さく手を上げる。


「わたしも」


「三人だな」


 俺が言うと、ユラは少しだけ安心したようだった。


 だが、すぐに俺を見る。


「スズキは?」


「俺は……」


 言葉を切った。


 まだ決める必要はない。


 どの道が安全なのか。


 誰がどこへ行くべきなのか。


 それすら分かっていない。


 今ここで決めれば、また門に選ばされるのと同じだ。


「まだ決めない」


 俺は言った。


「安全な道を確認してから決める」


 霧の鈴木が、少し笑う。


『珍しく慎重だな』


「お前に言われたくない」


『俺はお前だぞ』


「だから言われたくない」


 その横で、ミナが五本目の道を見ていた。


 見知らぬ都市へ続く道。


「ミナ?」


「……あそこ」


「知ってるのか」


 ミナはゆっくり頷いた。


「でも、わからない」


「どっちだよ」


「見たこと、ある気がする」


 ミナの目が揺れる。


「こわい」


「行ったことがあるのか?」


「わからない」


 そして。


 五本目の都市領域の向こうで。


 小さな影が動いた。


「誰かいる」


 セナが言う。


 高層ビルの下。


 駅前の歩道。


 小さな少女が立っている。


 ミナと同じ顔。


 以前、門の向こうで助けを求めていた少女だ。


 こちらへ向かって、手を振っている。


「……またミナ」


 俺が呟く。


 隣にいるミナが、俺を見る。


「わたし、ここ」


「分かってる」


 分かっている。


 だからこそ、分からない。


 同じ顔。


 同じ反応。


 違う場所。


「AI」


『同一対象に類似する反応を、複数地点で確認しています』


「理由は」


『現時点では不明です』


「だろうな」


 俺は、もう驚かなかった。


「鈴木」


 ユラが言った。


「みんな、いっしょは、むり?」


 俺は五本の道を見る。


 白い仮面たちは、まだいる。


 東の山には、仮面の男。


 北の森にも、何が残っているか分からない。


 岩と倒木の拠点には、マリたちがいる。


 日本側には、警察とスマホを持った男。


 そして、別の都市にも誰かがいる。


 今、全員が同じ道を進む方が危険かもしれない。


「今は」


 俺は言った。


「一緒にいるために、分かれることも考える」


『それ、だいぶ分かりにくいぞ』


 霧の鈴木が言う。


「俺もそう思う」


「でも」


 ユラは、セナと青い服の少女の手を握った。


「三人」


「ああ」


「ひとりじゃない」


「ああ」


「なら……ちょっと、だいじょうぶ」


 そのときだった。


 五本の青い道の中央。


 さっき閉じたはずの黒い穴が、また揺れた。


「またか!」


 俺はスマホを構える。


 だが。


 白い手は出てこない。


 代わりに。


 黒い穴の中から、一本の線が伸びてきた。


 青でもない。


 白でもない。


 薄い灰色。


「AI」


 俺は息をのむ。


「六本目だ」


『新規接続を確認』


「どこにつながってる」


 AIの表示が乱れる。


『接続先――東の山地下』


「待て」


 俺は三本目の道を見る。


「東の山なら、もうある」


『訂正します』


 灰色の線が広がる。


 その向こうに、地下空間が映った。


 俺たちが落ちる前にいた場所。


 倒れた石柱。


 割れた床の記号。


 散らばった白い石。


 そして。


「……あいつ」


 仮面の男が、床に倒れていた。


 杖はない。


 白い仮面は半分ほど割れている。


 片方の頬が、少しだけ見えていた。


 人間の顔だった。


 額に浮かんでいた黒い文字。


 「鈴木」。


 その文字が。


 ゆっくり消えていく。


 代わりに。


 別の文字が浮かび始めた。


 黒ではない。


 青い文字。


「何だ、あれ」


 俺には読めなかった。


 だが。


 隣で。


 青い服の少女が、息をのんだ。


「それ……」


 少女の身体が震える。


「読めるのか」


 少女は、震える手を自分の胸へ当てた。


 目から涙が落ちる。


「わたしの……」


 灰色の線の向こう。


 仮面の男が、かすかに動いた。


 割れた仮面の奥から。


 こちらを見ている。


 少女は、一歩前へ出た。


「思い出したのか」


 俺が聞く。


 少女は、ゆっくり頷いた。


「うん」


 ずっと忘れていたもの。


 白い霧の中で。


 誰にも呼ばれず。


 自分でも思い出せなくなっていたもの。


 少女は、涙を拭わなかった。


 ただ。


 自分の胸へ手を当てて。


 初めて、自分の名前を口にした。


「わたし――」


 小さく息を吸う。


「アオイ」


 その瞬間。


 六本目の灰色の道が。


 鮮やかな青へ変わった。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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