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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第53話 黒い画面の向こう側

 スマホの画面は、真っ黒だった。


 音もない。

 文字もない。

 AIの声もない。


 なのに。


 手の中にだけ、微かな熱が残っている。


「AI」


 返事はない。


「おい」


 もう一度、呼ぶ。


 やっぱり返事はない。


 目の前では、床の記号が黒く沈み、白い光が逆流していた。


 ユラの身体が、石の床の上を引きずられていく。


 ハルキも、片腕で床を掴もうとしている。


「鈴木!」


 ゴウダが叫ぶ。


「二人が持っていかれる!」


「分かってる!」


 俺は走った。


 ユラの腕を掴む。


 冷たい。


 細い。


「離すな!」


「……だめ」


 ユラが震える声で言った。


「スズキ、手、はなして」


「嫌だ」


「ここ、こわれる」


「だから何だ!」


「みんな、まざる」


 床の記号がさらに暗くなる。


 空間の壁が消えたまま、別の景色が重なっていた。


 コンビニ前の道路。

 警察車両の赤い光。

 逃げる人たち。


 北の森。

 黒い木々。

 白い石の門。


 拠点。

 サヨとマリ。

 泣いている子どもたち。


 東の山。

 白い祠。

 空へ伸びる光。


 そして。


 高層ビルの並ぶ、見知らぬ日本の街。


 五つの景色が、同じ場所に浮かんでいる。


「スズキ!」


 マリの声がした。


 顔を上げる。


 拠点の景色の中で、マリがこちらへ手を伸ばしていた。


「マリ!」


 でも、遠い。


 届かない。


 マリの石は、拠点の地面に置かれたまま、強く光っている。


 ひびが広がっていた。


「サヨ!」


 俺は叫ぶ。


 聞こえているのか分からない。


 でも、サヨがマリを抱きしめ、石から離そうとしている。


 マリは首を横に振った。


「だめ!」


 声は聞こえない。


 でも、口の動きで分かる。


「石を、離したらだめ!」


 その瞬間。


 俺の黒いスマホが震えた。


 画面の中央に、白い点が一つ浮かぶ。


 ぴ。


 小さな音。


 次の瞬間、文字が出た。


『接続継続中』


「AI!」


『一部機能が制限されています』


「今、何が起きてる」


『複数経路の同時接続を確認』


「分かってる!」


『正確には、四経路ではありません』


「何だよ」


『五経路です』


 俺の背中に冷たい汗が流れる。


「五つ目はどこだ」


 スマホの画面に、見たことのない景色が映った。


 暗い。


 何もない。


 ただ、白い霧だけが広がっている。


 地面も見えない。

 空も見えない。


「ここは」


『未登録接続先です』


「誰がいる」


『生命反応を一件確認』


 白い霧の中に、小さな影がいた。


 少女。


 白い服ではない。


 普通の、薄い青の服。


 その子が、こちらを向く。


 ミナに似ている。


 でも、コンビニ前にいるミナとも、別の日本で泣いている少女とも違う。


 少しだけ年上に見えた。


『……助けて』


 文字が浮かぶ。


 俺は息をのんだ。


「また、ミナに似た子か」


『外見情報の一致率は高いです』


「答えになってない」


『その点については同意します』


「今は冗談を言うな」


『冗談ではありません』


 ユラの足元の光が、急に強くなる。


 俺の腕が引っ張られる。


「鈴木!」


 ゴウダが俺の腰を掴んだ。


「離れるな!」


「離してない!」


「なら、足を踏ん張れ!」


 俺はユラの腕を掴んだまま、床へ膝をつく。


 ハルキも、反対側で石の床を掴んでいる。


「ゴウダ!」


「ハルキを!」


「分かった!」


 ゴウダが短槍を床に突き立て、ハルキの服を掴む。


 四人が、黒い光に引かれる。


 そのとき。


 仮面の男が、ゆっくり杖を下ろした。


「無意味です」


「お前がやってるのか!」


「あなたが接続を増やした」


「俺が?」


「あなたは、選ばないと言った」


 仮面の額に焼き付いた黒い文字が、ゆっくり変わる。


 新宿。


 その文字が滲む。


 池袋。

 渋谷。

 上野。


 知らない駅名まで、次々に浮かんでは消える。


「門は、選ばない者を嫌います」


 男の声が響く。


「一つを救うために、他を捨てる者だけが、門を安定させられる」


「そんなわけあるか」


「今、見えているでしょう」


 コンビニ前の白い門が大きく揺れる。


 警察車両の赤い光が、波のように歪む。


 別の日本の街では、白い服の者たちが少女を引きずっている。


 北の森では、石の門の周りに白い光が集まっている。


 拠点では、マリの石のひびが増えている。


 東の山では、祠の光が空へ伸び続けている。


 そして白い霧の世界で。


 青い服の少女が、こちらへ歩き出していた。


『ここ、だれも、こない』


 スマホに文字が出る。


『ずっと、ひとり』


 胸の奥が痛くなる。


「AI」


『はい』


「五つ目の世界、何なんだ」


『門の残留情報から推定します』


 表示が一度途切れる。


『未選択領域です』


「未選択?」


『複数の接続候補から切り離され、どの世界にも固定されなかった領域の可能性があります』


「そんな場所に、子どもがいるのか」


『はい』


「どうして」


『不明です』


 また、助けを待つ子ども。


 また、選べと言われる。


 ユラ。

 ハルキ。

 ミナ。

 マリ。

 別の日本の少女。

 霧の中の少女。


「鈴木」


 ユラが、かすかに言った。


「もう、いい」


「よくない」


「わたしを、はなして」


「嫌だ」


「わたしが、いれば……ほかの子、たすかる」


「その言い方をするな」


「でも」


「子どもがそんなことを言わなきゃいけない場所がおかしいんだ」


 俺は黒いスマホを握る。


「AI」


『はい』


「この五つの経路を、全部繋いだまま止める方法は」


 少しだけ、間があった。


『……あります』


「あるのか」


『ただし』


「またか」


『接続点となる対象が、すべての経路を一度通過する必要があります』


「誰が」


 画面の白い点が、強く光る。


『対象識別:鈴木』


 空間が静かになった。


 仮面の男が、初めて笑みを消す。


「あなたは理解していない」


「何を」


「その道を通れば、あなたは一つの世界へ戻れません」


「最初から、そうだろ」


「違います」


 仮面の男が、杖を掲げる。


「戻れないのではない」


 黒い光が、俺の足元へ集まる。


「あなたが、五つに分かれるのです」


 次の瞬間。


 ユラの手を掴んでいた俺の指先が、白い光に透け始めた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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