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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第52話 選ばない鍵

 仮面の男には、日本語の駅名らしい黒い文字が刻まれていた。


 読めてしまった。


 白い仮面の額。


 そこに焼き付くように浮かんでいたのは。


 新宿。


「……なんで、それを知ってる」


 俺は思わず聞いた。


 仮面の男は、杖を床へ軽く突いた。


 こつん。


 空間に響く。


「知っているのではありません」


 落ち着いた声だった。


「残っているのです」


「何が」


「通った者の記憶が」


 ユラの足元の白い記号が、ゆっくり明滅する。


 天井から垂れた光の糸が揺れた。


 まるで、この地下道全体が呼吸しているみたいだった。


「この道は、人を運ぶだけではない」


 仮面の男は言う。


「声を残し。姿を残し。記憶を残す」


「だから、別の日本が見えたのか」


「あなたがそう呼ぶなら」


「ミナと同じ顔の子も」


 男は少しだけ首を傾けた。


「似た者は、残ります」


「答えになってない」


「答えを急ぐ人間は、門に飲まれます」


「じゃあ急ぐ」


 俺はスマホを握る。


「ユラから離れろ」


 ユラは両手を石の床につけたまま、動けない。


 顔は青い。


 ハルキはそのすぐそばに倒れている。


 目は開いているが、身体を起こせないらしい。


「鈴木」


 ハルキがかすれた声で言う。


「こいつ、信用するな」


「分かってる」


「なら、早くしろ」


「お前は黙って寝てろ」


「ひどいな」


 ユラが小さく言った。


「わたし、手を離したら」


「どうなる」


「いっぱい、ひらく」


「何が」


「門が」


 仮面の男が、代わりに答えた。


「ユラは、門を閉じるための子ではありません」


 俺は男を見る。


「何だと」


「門を固定する、最後の鍵です」


 床の記号が一つ、白く光る。


 遠くで。


 ごおおおん、と低い音がした。


 日本側のコンビニ。

 北の森。

 拠点。

 東の山。


 いくつもの門が、同時に震えている気がした。


「ユラが手を離せば、接続は暴走する」


「それで日本側へ、白い服を通したのか」


「接続は、すでに不安定でした」


「答えになってない」


「あなたが現れたことで、より不安定になった」


 胸の奥が重くなる。


 俺が来たから。


 俺がスマホを使ったから。


 俺が門を繋いだから。


「鈴木」


 ユラが俺を見る。


「わたし、ここにいたら」


「どうなる」


「ずっと、門をおさえる」


「嫌か」


 ユラは少しだけ笑った。


「……こわい」


 その顔を見た瞬間、答えは決まった。


「ユラをここに置いていかない」


 仮面の男が、初めて声の温度を下げた。


「それなら、日本側の門が開きます」


「だからって」


「あなたの世界に、こちらの者が流れ込みます」


「それを止めるためにユラを使うのか」


「使う、という言葉は正確ではありません」


「子どもに選ばせず、逃げられないようにしてるなら同じだ」


 仮面の男の杖が、少し上がる。


「あなたは、選べる立場にありません」


 そのとき。


「嘘」


 セナが言った。


 小さな声だった。


 でも、空間の全員が聞いた。


「何だと」


 仮面の男が、初めてセナを見る。


 セナは震えている。


 それでも、ユラの方を見ていた。


「ユラは、手を離したら、門がいっぱい開く」


「そうだ」


「でも、白い人は……ユラがいなくなったら、困る」


 仮面の男は黙る。


「どういうことだ」


 俺が聞く。


 セナは、唇を噛む。


「白い人たちは、門を閉じたいんじゃない」


「じゃあ何をしたい」


「門を、ずっと開けておきたい」


 床の光が揺れた。


「ユラがいると、門がこわれない」


 セナの声が少しずつ強くなる。


「ユラが、ここにいるから。白い人たちは、好きな場所に行ける」


「固定する鍵」


 俺は呟く。


「門を閉じる鍵じゃなくて、白い側が門を使い続けるための鍵」


「その通りです」


 仮面の男が言った。


 隠すのをやめたような声だった。


「門は、人間には扱えません。扱えたとしても、すぐに壊れます」


「だからユラを縛ってる」


「彼女は特別です」


「子どもだ」


「門にとっては」


 男の仮面が、こちらを向く。


「重要な部品です」


 俺の頭の中で、何かが切れた。


「部品?」


 俺は一歩、前へ出た。


「お前、今なんて言った」


「鈴木」


 ゴウダが止めようとする。


 でも、止まれない。


「ユラは人間だ」


「あなたの感情は、接続の安定に不要です」


「じゃあ、お前に必要なものなんか知らない」


 俺はスマホをユラへ向ける。


「AI」


「はい」


「ユラの接続を切れるか」


「強制切断は、高い危険を伴います」


「聞いてない。できるか」


「可能性はあります」


「またか」


「成功率は推定二十三パーセントです」


「低すぎる」


「失敗時、接続の暴走が発生する可能性があります」


 仮面の男が、杖を掲げた。


「試せば、あなたの世界は失われます」


「試さなければ、ユラが失われる」


「一人と世界を比べるのですか」


「比べない」


 俺は言った。


「俺は、選ばない」


 その言葉と同時に。


 床の記号が、反転した。


 白い光が、黒く沈む。


 ハルキの身体が、床の上を引きずられた。


「うおっ!」


 ユラの手も、石の床に吸い込まれるように引かれる。


「鈴木!」


 セナが叫ぶ。


 仮面の男が笑った。


「ならば、門が選びます」


 空間の壁が消える。


 その向こうに。


 日本側のコンビニ前が見えた。


 警察車両の赤い光。

 白い門。

 ミナ。


 そして、門の向こうには。


 高層ビルのある、もう一つの日本。


「選びなさい、鍵の男」


 仮面の男の声が響く。


「子どもを救うか」


 ユラとハルキが、日本側の白い門へ引きずられていく。


「あなたの世界を救うか」


 俺はスマホを強く握った。


「AI」


「はい」


「三つとも繋げ」


「不可能です」


「じゃあ、四つ繋げろ」


 俺は、マリの石を握った。


 ひびの入った石が、熱を持つ。


「ミナも。ユラも。ハルキも」


 白い光が、俺の腕を這い上がる。


「誰も、置いていかない」


 次の瞬間。


 スマホの画面が、真っ黒になった。


 音が消える。


 光も消える。


 それでも、手の中には。


 まだ、微かな熱だけが残っていた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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