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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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51/55

第51話 声のない地下道

 地下道の奥から、マリの声が聞こえた。


「スズキ、わたし、ここにいるよ」


 俺は足を止めた。


 冷たい石壁。

 足元を照らす白い光。

 背後には、もう拠点の明かりは見えない。


 前に進めば東の山。


 戻ればマリ。


 ……いや。


 マリは、拠点にいる。


「鈴木」


 ゴウダが槍を少し上げた。


「行くな」


「分かってる」


「本当にか」


「分かってるって」


 壁の奥から、また声がする。


「スズキ」


 今度は、少し泣いていた。


「こわいよ」


 胸が締めつけられる。


 マリが泣く声を聞いたら、放っておけるわけがない。


 でも。


「セナ」


 俺は聞いた。


「この道は、声を出すのか」


 セナは、黙っていた。


「知ってるなら言え」


「……出す」


 小さな声だった。


「聞きたい人の声」


「誰が聞きたいんだ」


「歩いてる人」


 セナは石壁を見た。


「門の下は、いろんな人の声を残してる」


「残してる?」


「泣いた声。助けてって言った声。帰りたいって言った声」


 背中が寒くなる。


「それを、俺たちに聞かせてるのか」


「うん」


「何のために」


「進ませないため」


 ゴウダが眉をひそめる。


「罠か」


「道が、だれを通すか決めるから」


「道が?」


「怖くなって戻る人は、戻れない」


 意味が分からない。


「戻ったらどうなる」


 セナは答えなかった。


 代わりに、壁の奥から声がした。


「鈴木!」


 ハルキの声だった。


「助けろ!」


 俺の身体が勝手に動きかける。


 ゴウダが腕を掴んだ。


「待て!」


「今度はハルキだ!」


「聞こえただけだ」


「本物かもしれない」


「かもしれないで突っ込むな!」


 正しい。


 正しいけど。


 ハルキは北の森で敵に追われていた。

 東へ向かっていた。

 地下道にいてもおかしくない。


「AI」


「はい」


「声の位置を特定できるか」


「音源が壁面全体に分散しています。位置の特定は困難です」


「本物か偽物か」


「音声情報のみでは判定できません」


「何ならできる」


「通路の構造変化を検出しています」


 俺はスマホを見る。


 画面には、細い白い線がいくつも浮かんでいる。


「何だ、これ」


「分岐です」


「地下道が分かれてる?」


「はい。現在地から、三方向へ通路が分岐しています」


 俺たちの前に、石の壁がゆっくり割れた。


 ごごごご、と低い音。


 左。

 真ん中。

 右。


 三つの道。


 左の奥から、マリの声。


「スズキ、こっちだよ」


 真ん中から、ハルキの声。


「早くしろ!」


 右から。


 小さな女の子の声がした。


「……閉じて」


 ユラだった。


 セナが顔を上げる。


「ユラ」


「本物か?」


 ゴウダが聞く。


 セナは首を横に振る。


「分からない」


「またか」


 でも、セナは右の道を見つめている。


「でも、ユラは、そう言う」


「門を閉じてって?」


「うん」


「白い服の連中もユラに言わせてるかもしれない」


「違う」


 セナが、初めて強い声を出した。


「白い人は、ユラに“開けて”って言う」


 俺たちは黙る。


 ユラは、門を閉じるための子。


 白い側は、その力を使って日本側へ道を開いた。


 なら、ユラが「閉じて」と言うのは、自分の意思かもしれない。


「右へ行く」


 俺は言った。


「ユラを助ける」


「ハルキは」


 ゴウダが聞く。


 真ん中から、また声がする。


「鈴木!」


 苦しそうな声。


 心が揺れる。


「……ユラを先にする」


「理由は」


「ユラがまだ生きてて、門を止める方法を知ってるかもしれない」


「ハルキを見捨てるのか」


「違う」


「なら、どうする」


 俺はスマホを握る。


「AI。真ん中の道に、今いるハルキの生命反応はあるか」


「解析します」


 数秒。


 長い。


「生命反応を一件確認」


「やっぱり本物だ」


「ただし」


「ただし?」


「反応の位置は、真ん中の道の奥ではありません」


 俺の呼吸が止まる。


「どこだ」


「右の道の先です」


 セナが息をのんだ。


「ユラのところ?」


「同一方向に、二つの生命反応があります」


「ハルキとユラが一緒にいる」


「距離は不明です」


 ゴウダが槍を握り直す。


「なら、迷う必要はない」


「ああ」


 右の道へ進む。


 壁から、マリの声が追ってくる。


「行かないで」


 聞こえないふりをする。


「スズキ」


 マリの声が泣く。


「わたし、ひとりだよ」


 俺は一度だけ、目を閉じた。


 拠点にはサヨがいる。

 ナギがいる。

 子どもたちがいる。


 マリは一人じゃない。


 だから。


「悪い」


 俺は壁に向かって、小さく言った。


「でも、俺は行く」


 その瞬間。


 マリの声が、ぴたりと止まった。


 代わりに、壁の白い光が赤く変わる。


「鈴木!」


 ゴウダの声。


 石壁から、白い腕が何本も突き出した。


「伏せろ!」


 腕が地面を叩く。


 石片が飛び散る。


 俺はセナを引き寄せ、転がるように右の道へ飛び込んだ。


 ゴウダが槍で腕を払う。


 がきんっ。


 石の腕が、槍を掴んだ。


「離せ!」


 ゴウダが槍を引く。


 だが、腕は動かない。


 別の腕が、ゴウダの肩へ伸びる。


「ゴウダ!」


 俺はスマホを掲げた。


「AI! 光を強くしろ!」


「照射出力を上げます」


 スマホの画面が白く光る。


 石の腕が、一瞬だけ止まった。


 その隙に、ゴウダが槍を引き抜こうとする。


 ばきんっ。


 槍の柄が途中で折れた。


「走れ!」


 ゴウダは短くなった槍を握り直し、こちらへ飛び込んだ。


 俺たちは右の道を走った。


 背後で、石の腕が壁を叩く。


 ごんっ。

 ごんっ。

 ごんっ。


 地下道が揺れる。


 セナの手が冷たい。


「大丈夫か!」


「うん」


「嘘だろ」


「……こわい」


「俺もだ」


 走る。


 白い光が点々と続く。


 やがて、道の先に大きな空間が見えた。


 石の柱。

 床に刻まれた白い記号。

 天井から垂れ下がる、細い光の糸。


 その中央に。


 ハルキが倒れていた。


「ハルキ!」


 俺は駆け寄る。


 ハルキの服は破れ、腕から血が流れている。


 でも、息はある。


「生きてるか!」


「……遅い」


 目を開けたハルキが、かすかに笑った。


「お前、来ると思った」


「来るなって言っても来ただろ」


「たぶん」


 その隣に、ユラがいた。


 白い服。

 首元の白い石。


 両手を石の床に押しつけ、動けないでいる。


「ユラ」


 ユラが顔を上げる。


 泣いていた。


「来ちゃだめ」


「遅い」


「ここ、開いたら」


 ユラの足元の記号が白く光る。


「日本が、いっぱいになる」


「何でだ」


「門の下に、道があるから」


 そのとき。


 空間の奥で、何かが動いた。


 白い石の柱の陰。


 ゆっくりと、誰かが歩いてくる。


 白い服。

 白い仮面。

 杖を持った男。


「よく来ました」


 初めて聞く、落ち着いた声だった。


「鍵の男」


 男の仮面には。


 日本語の駅名らしい黒い文字が、刻まれていた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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