第48話 地面の下の案内人
白い石でできた手が、土の中から伸びていた。
手首には、見覚えのある布が巻かれている。
北の森で、ハルキが腕に巻いていた布だ。
「ハルキ?」
俺は思わず、一歩前へ出た。
「待て」
ゴウダが俺の肩を掴んだ。
「まだ近づくな」
「でも、あの布は」
「布だけで人間とは決まらん」
その通りだった。
土はまだ動いている。
ごり、ごり、と石が擦れる音。
地面から出てきた腕は、泥を掴み、ゆっくりと上半身を引きずり出した。
白い石の身体。
ひび割れた胸。
顔のあるはずの場所は、平らだった。
目もない。
口もない。
鼻もない。
ただ、首のあたりに白い石が埋め込まれている。
石の首元。
白い服の者たちと同じだ。
「槍を下ろすな」
ゴウダが低く言う。
村人たちが、半円を作る。
マリはサヨの後ろに隠れながら、小さな石を握っていた。
「スズキ」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃない」
「……そうだな」
石の人形が、ゆっくり頭を上げる。
顔がないのに。
俺を見ている気がした。
そして、首元の石が淡く光る。
『鈴木』
俺のスマホに文字が出た。
「AI」
「通信経路は不明です」
「お前が出したのか」
「私は出していません」
石人形の首が、かくん、と傾いた。
次の文字。
『近づくな』
直後。
地面が揺れた。
拠点の中央。
焚き火の跡。
そこから、土が盛り上がる。
ごり。
ごり、ごり。
同じ音。
「一体じゃない!」
村人の誰かが叫んだ。
倒木の裏。
川辺。
岩陰。
土の下から、白い石の手が何本も出てくる。
「子どもを奥へ!」
サヨが叫ぶ。
ナギと村の女たちが、子どもたちを岩場の奥へ連れていく。
「マリ!」
「ここ!」
マリはサヨの手を掴んでいる。
俺はすぐに確認する。
マリの石は白く光っている。
でも、石人形たちの首元の石とは光り方が違う。
マリの石は、脈打つように明滅していた。
「AI」
「はい」
「石人形は何体いる」
「地中反応を七つ確認」
「七つ」
俺たちより多い。
ゴウダが槍を構える。
「鈴木。あれは敵か」
「分からない」
「なら、俺たちの場所から出てきた時点で敵扱いだ」
俺は頷く。
正しい。
子どもたちがいる。
ここで判断を間違えられない。
「AI。石人形の弱点は」
「構造分析中です」
「急げ」
「首元の石が制御部である可能性があります」
「可能性ばっかりだな」
「現状、確証が不足しています」
最初の石人形が、地面から完全に立ち上がった。
背はゴウダより高い。
石の腕が、ゆっくりとこちらへ伸びる。
「来るぞ!」
ゴウダが前へ出る。
槍の穂先が、石人形の胸を突く。
がきんっ。
硬い音。
槍が弾かれた。
「硬い!」
石人形が腕を振る。
ゴウダが横へ跳んだ。
太い倒木が、粉々に砕ける。
「ゴウダ!」
「生きてる!」
石の腕は遅い。
だが、一撃が重い。
村人たちが槍を投げる。
矢が飛ぶ。
胸。
肩。
腕。
全部、弾かれる。
「首だ!」
俺は叫ぶ。
「首元の白い石を狙え!」
矢が一本、石人形の首へ飛ぶ。
白い石に当たる。
ぴしっ。
細いひびが入った。
石人形の動きが止まる。
「効く!」
だが、次の瞬間。
石人形の首元から、白い光が走った。
地面の下。
まだ出ていない石人形たちの首元が、一斉に光る。
「まずい!」
石人形が、砕けた倒木を掴む。
太い幹を、棒のように持ち上げた。
振り下ろす。
俺はマリの方へ走った。
「伏せろ!」
地面が割れる。
土と石が飛び散る。
サヨがマリを抱きしめ、岩場の陰へ転がり込む。
俺の背中に、小石が当たる。
「AI!」
「石人形同士が情報共有を行っている可能性があります」
「見れば分かる!」
「有効な攻撃箇所を学習された可能性があります」
「じゃあどうする!」
「現時点では、再度首元を狙うことを推奨します」
「学習されてるのに!」
「ほかの有効手段がありません」
石人形の二体目が、地面から出てくる。
三体目。
四体目。
このままでは、拠点が持たない。
俺はスマホを見た。
東の山にはユラ。
北の森にはハルキ。
日本側にはミナ。
なのに、拠点まで襲われた。
「何で、ここなんだ」
最初の石人形の首元が、また光る。
俺のスマホに文字が出た。
『ハルキは、生きている』
息が止まった。
「お前は誰だ」
文字が消える。
少し遅れて、新しい文字。
『案内を、した』
「案内人?」
石人形の首が、ゆっくりこちらへ向く。
『違う』
『案内された者』
意味が分からない。
だが、ハルキの布が巻かれている。
誰かが、ハルキの痕跡を使っている。
「ハルキに何をした」
『逃がした』
「どこへ」
『東へ』
東の山。
ユラがいる場所。
俺は奥歯を噛んだ。
「お前はユラのことを知ってるのか」
少し間があった。
そして、文字が浮かぶ。
『東の山へ、正面から行くな』
『白い子が、死ぬ』
ユラ。
「どういう意味だ」
『門の下に、道がある』
石人形の足元。
地面に、細い亀裂が走る。
その割れ目の奥から、冷たい白い光が漏れている。
『道は、拠点と東の山を繋ぐ』
俺はゴウダを見る。
「地下に道がある」
「信じるのか」
「信じるわけじゃない」
石人形が、ゆっくり腕を下ろした。
他の石人形たちも、動きを止める。
村人たちは、槍を構えたまま動けない。
顔のない石人形が、スマホの方へ首を傾ける。
『鍵の男』
文字が浮かぶ。
『お前の世界の門は、もう閉じられない』
空気が凍った。
その直後。
日本側の映像が、強制的にスマホへ映った。
コンビニ前の白い門。
警察車両の赤い光。
スマホを持った男。
ミナ。
そして、門の向こう。
白い光の奥に、見覚えのない街が映っていた。
高層ビル。
大きな駅。
たくさんの車。
俺がいた街とは、違う。
でも。
間違いなく、日本に見えた。
「AI」
俺の声が震える。
「日本側の門の先に、もう一つ日本がある」
「訂正します」
AIが答えた。
「これは、あなたの元いた世界とは異なる可能性があります」
「別の日本……?」
「並行する接続先、または別系統の帰還候補である可能性があります」
白い門の向こうで。
見知らぬ日本の街に、白い服の者たちが立っていた。
そしてその足元には。
泣いている、小さな少女がいた。
ミナと同じ顔をした少女。
でも、今ミナはコンビニ前にいる。
なら、あれは。
もう一人のミナにしか見えなかった。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
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