第46話 ユラをひとりにするな
東の山の祠が、白い光を吐き出していた。
俺のスマホに映る映像の中で、ユラは光の前に立っている。
白い服。
首元の、砕けていない白い石。
その周囲を囲む、何人もの白い服。
守られているようにも見える。
逃げられないように、見張られているようにも見える。
『鈴木に、会いたい』
文字は、まだ画面に残っていた。
「AI」
「はい」
「ユラの周りにいる白い服の連中。武器は」
「杖状の装備を複数確認。首元の石と同期している反応があります」
「ユラは自分で門を開いてるのか」
「断定できません。周辺の人物が補助、または制御している可能性があります」
「一人で来いって言ってるのか」
「追加通信を受信しています」
画面が一度、真っ白になった。
次の瞬間。
『ひとりで、きて』
短い文字が浮かんだ。
マリが、俺の横で息をのんだ。
「だめだよ」
すぐに言った。
「ひとりで行ったら、つかまる」
「俺もそう思う」
問題は、行かないことでもない。
ユラを置いておけば、白い側が門を広げる。
北の森にはハルキが残っている。
日本側にはミナがいる。
俺が動かなければ、誰かが持っていかれる。
そんな気がした。
「スズキ」
サヨが、救出した少女のそばにしゃがみ込む。
「この子、目を覚ましたよ」
白い服の少女は、毛布に包まれていた。
さっきまで怯えて、ほとんど話せなかった子だ。
今は目を開けている。
俺を見るなり、かすれた声で言った。
「……ユラを、ひとりで行かせちゃだめ」
「どうして」
「ユラは……門を閉じる子って、言われてた」
空気が止まった。
「門を閉じる?」
俺は聞き返す。
少女は、震える手で首元を押さえる。
「門が、いっぱい開くと……世界が、まざる」
「混ざる?」
「森も。村も。知らない場所も」
日本のコンビニ前。
北の森。
岩と倒木の拠点。
三つの場所が一瞬重なった、あの光景を思い出す。
「ユラは、閉じる役目なのか」
「たぶん」
「じゃあ、白い服の連中はユラを使って、門を閉じようとしてる?」
少女は、首を横に振った。
「ちがう」
「じゃあ何だ」
「ユラが門を閉じたら……ユラは、帰れない」
俺の指が止まる。
「帰れないって」
「消えるかもって、言われてた」
マリが石を握る手に力を入れた。
「そんなの、いやだ」
「俺もだ」
門を閉じれば助かる。
そのために子どもを一人、消す。
そんな話を、受け入れられるわけがない。
「その子の名前は」
俺は少女に聞いた。
「……セナ」
「セナ。ユラは俺に何をしてほしいんだ」
「分からない」
「ひとりで来いって言ってる」
「たぶん、白い人たちに見つからないように」
「じゃあ、ユラは味方なのか」
「分からない」
セナは、目を伏せた。
「でも、ユラは、ミナを連れて帰りたいって言ってた」
また、その言葉だ。
連れて帰る。
誰のところへ。
どの世界へ。
そして、ミナはそれを望んでいるのか。
ぴ、とスマホが鳴った。
画面が切り替わる。
東の山ではない。
北の森。
映像は暗く、激しく揺れていた。
木々の影。
息を切らす音。
枝を踏む音。
『鈴木』
画面に文字が出る。
ハルキだ。
「ハルキ!」
『生きてる』
「そりゃ見れば分かる」
『見えるのか』
「少しだけな。今どこだ」
『石の門から、東へ逃げた』
「敵は」
『追ってる』
画面が大きく揺れた。
ハルキが走っている。
『あいつら、子どもを探してるんじゃない』
「何を探してる」
返事まで、少し間があった。
枝が折れる音。
誰かの叫び。
『マリの石だ』
俺はマリを見る。
マリが、両手で石を抱えた。
「何で分かる」
『聞いた。白い服の連中が、布の男たちに言ってた』
ハルキの息が荒い。
『道を変える石。鍵の男じゃなくても、門の先を変えられる石だって』
「マリの石を狙ってる」
『たぶん、あの子も』
「ユラも?」
『分からん。でも、東の山にいるなら気をつけろ』
その直後。
画面の奥に、白い光が走った。
ハルキの映像がぶれ、地面が迫る。
「ハルキ!」
『……っ』
通信が途切れた。
画面は黒くなった。
「AI!」
「生命反応は継続しています」
「場所は」
「北の森、東側斜面。複数の追跡反応が接近中です」
「助けに行く」
「東の山の祠とは逆方向です」
「分かってる」
「日本側の門は依然として不安定です」
「分かってる」
「拠点の防衛戦力も不足しています」
「分かってる!」
声が大きくなった。
マリが肩をすくめる。
俺は息を吐いた。
「……悪い」
「ううん」
マリは石を見つめたまま言う。
「スズキ、いっぱい、たすけるから」
その一言が、苦しい。
助けたい。
でも、一人では足りない。
「ゴウダ」
俺は立ち上がった。
「村の人間を、ここへ集められるか」
「戦える者なら」
「戦うだけじゃない。子どもを守る人間と、逃げ道を作る人間がいる」
「何をする気だ」
「門を増やさない」
「できるのか」
「できるか分からない」
「またそれか」
ハルキと同じ言い方だった。
「でも、何もしないよりはいい」
俺はマリを見る。
「マリ」
「うん」
「石は使わない」
「……うん」
「でも、もし俺が言ったら。石を握って、行きたい場所を思い出せるか」
「行きたい場所?」
「ここ。拠点。サヨ。ナギ。みんながいる場所」
マリは、ゆっくり頷いた。
「できるかも」
「無理はするな」
「うん」
「怖くなったら、石を離せ」
「うん」
俺はスマホを取り出す。
「AI。東の山と北の森、日本側の門。三つの接続を重ねて見せろ」
「処理負荷が高くなります」
「やれ」
「便宜上、反応を色分けして表示します」
画面に三つの光点が現れる。
赤。
北の森。
白。
東の山。
青。
日本側のコンビニ。
その三つを、細い線が繋いでいる。
「……違う」
俺は画面を見つめた。
「東の山の線が、日本側に繋がってる」
「確認します」
AIの表示が速く流れる。
「接続先の再解析中」
「ユラが開いてる門は、ミナのところへ繋がってるのか」
「可能性があります」
「つまり、ユラはミナを連れて帰るんじゃない」
嫌な予感がした。
「白い側が、日本側へ行くための門を作ってる」
「高い可能性があります」
そのとき、スマホの画面に、ユラの顔が映った。
荒い映像。
でも、今度は泣いているのが分かる。
ユラの背後で、白い服の大人が杖を向けている。
『ごめんなさい』
文字が浮かぶ。
『わたし、うそをついた』
「ユラ」
『ミナを、連れて帰るんじゃない』
ユラの首元の石が、白く光る。
『ミナのいるところへ、門を開けろって言われた』
俺は奥歯を噛んだ。
「やっぱり」
『でも、ほんとは』
文字が途切れる。
ユラが何かを言おうとした、その瞬間。
背後の白い服が、ユラの肩を掴んだ。
画面が大きく揺れる。
『逃げて』
最後の文字が、表示された。
直後。
東の山の白い光が、空へ向かって一本の柱になった。
拠点の地面まで震える。
マリの石が、手の中で熱を持った。
「AI」
俺は叫ぶ。
「もう開いたのか!」
「警告」
AIの声が、いつもより低く響いた。
「日本側の接続点に、複数の通過反応を確認」
コンビニ前の映像が映る。
赤い警光灯。
逃げる人影。
白い光。
その中から。
白い服の者たちが、一人、二人、三人と。
日本の道路へ、歩き出していた。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
ChatGPT




