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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第45話 もう一人の鍵

 マリの手が、白い光の向こうから伸びていた。


 俺は少女を抱えたまま、その手を掴もうとした。


「マリ!」


「スズキ!」


 指先が触れる。


 その瞬間。


 世界が、引っくり返った。


 白い光が足元から吹き上がる。


 北の森。

 コンビニ前。

 岩と倒木の拠点。


 三つの景色が、一瞬だけ重なった。


 警察車両の赤い光。

 北の森の黒い木々。

 焚き火の残り火。


 そして、俺の手の中の少女が、強く息を吸った。


「……あ」


 身体を縛っていた白い光が、ぱきん、と砕ける。


「大丈夫か!」


 少女は答えない。


 ただ、俺の服を握りしめた。


 次の瞬間、背中から強い衝撃を受けた。


 俺と少女は、草の上へ転がった。


「痛っ……」


 息が詰まる。


 だが、ここは北の森ではない。


 倒木。

 川の音。

 見慣れた焚き火跡。


 岩と倒木の拠点だった。


「スズキ!」


 マリが走ってくる。


 その後ろから、ナギも来た。


「ほんとに帰ってきた!」


「子どもがいる!」


 サヨが駆け寄り、俺の腕の中の少女を受け取る。


「大丈夫かい。もう大丈夫だよ」


 少女は、怯えた目で周囲を見る。


 白い服。

 細い腕。

 首元には、砕けた石の跡。


「ここは安全だ」


 俺は言った。


 言ったあとで、すぐに後悔する。


 安全なんて、軽々しく言える状況じゃない。


 北の森では、ハルキが残っている。


 日本側では、ミナがいる。


 そして、門はまだ繋がっているかもしれない。


「……いや」


 俺は言い直した。


「少なくとも、さっきよりは安全だ」


 少女は小さく頷いた。


「ハルキは?」


 俺は振り返った。


 光の輪は、もう消えかけている。


 向こうには、北の森の影がぼんやり映っていた。


 ハルキの姿は見えない。


「AI」


「接続が不安定です」


「それは聞いた」


「北の森側の対象、ハルキ氏の生命反応を確認しています」


「生きてる?」


「はい。ただし、複数の敵性反応に囲まれている可能性があります」


 胸の奥が沈む。


「俺だけ戻ったのか」


「あなたと保護対象一名は、拠点側へ移動しました」


「ほかの子どもは」


「拠点側への移送を複数確認しています。正確な人数は、現在照合中です」


 ヒナ。

 レン。

 それから、北の森にいた子どもたち。


 数字で聞けば、生き残った感じがする。


 でも。


「残ってる子は」


「北の森側に少なくとも二名。日本側には対象識別:ミナの反応を確認しています」


「日本側の門は」


「接続を維持しています」


「白い服の影は」


「詳細を確認できません」


 また、見えない。


 また、手が届かない。


 マリが、俺の服の裾を引いた。


「スズキ」


「どうした」


「これ」


 小さな手の中に、さっき投げた石があった。


 ただの石ではない。


 灰色の表面に、細い白い線が浮かんでいる。


 北の森の門にあった記号と同じ形。


「マリ、これをどこで」


「そこにあった」


 マリが、川辺を指す。


「ひかってた」


「触ったのか」


「うん」


「怖くなかった?」


「ちょっと」


 マリは石を見る。


「でも、スズキ、つかまってたから」


 俺は言葉を失う。


 俺が捕まっていた。


 だから助けようとした。


 ただそれだけで、マリは石を投げた。


「AI」


「はい」


「マリの適合反応って、何だ」


「対象識別:マリは、門の接続情報へ干渉した可能性があります」


「ミナと同じか」


「完全には一致しません」


「どう違う」


「ミナ氏は、門の対象として強く反応していました。マリ氏は、接続経路そのものに反応した可能性があります」


「意味が分からない」


「簡潔に説明します」


 AIの声が、少しだけ間を置いた。


「ミナ氏は、門に選ばれやすい存在です」


「……それで」


「マリ氏は、門の行き先や向きに影響を与えた可能性があります」


 周囲が静かになった。


 サヨも。

 ゴウダも。

 ナギも。


 マリだけが、俺の顔を見る。


「行き先を変える?」


 俺は聞く。


「日本側にも行けるのか」


「可能性があります」


「北の森にも」


「可能性があります」


「白い服の連中がいる場所にも?」


「理論上は。ただし、極めて危険です」


「だめだ」


 俺はすぐに言った。


 マリの肩がびくっと揺れる。


「違う。マリが悪いんじゃない」


 俺はしゃがみ、目線を合わせた。


「危ないことをさせたくないだけだ」


「でも」


「マリは子どもだ」


「ミナも」


 その一言が刺さる。


 ミナも子どもだ。


 でも、今、日本側にいる。


 俺はここにいる。


「……そうだな」


 俺は石を見る。


 門に干渉できる子どもが、また一人増えた。


 白い側が知れば、絶対に狙う。


 助かる手段が増えた。


 同時に、守るべきものも増えた。


 そのとき、拠点の外から笛の音がした。


 ピィィィッ。


 村の見張りの合図。


 ゴウダが、すぐに立ち上がる。


「森の入口だ」


「敵か」


「分からん」


 見張り役の男が、息を切らして走ってきた。


「ゴウダさん!」


「どうした!」


「東の山の方から、白い光が見えます!」


 俺の背中に冷たいものが走る。


「門か」


「山の祠の近くです!」


 東の山。


 俺たちが最初に見つけた祠。


 白い服の者たちが使っていた施設へ繋がっていた場所。


 北の森。

 日本側のコンビニ。

 拠点。

 そして東の山。


 門が、増えている。


「AI」


「はい」


「今度は何が起きてる」


「東の山において、高出力の接続反応を確認しました」


「何が通る」


「不明です」


「誰が開けた」


「外部からの操作反応を検出しています」


「白い側か」


「断定できません」


「もういい」


 俺はスマホを握る。


「見せろ」


 画面に、東の山の映像が映った。


 祠の前。


 地面から伸びる白い光。

 周囲には、白い服の者たちがいる。


 そして。


 その中心に立っていたのは、仮面の男でも案内人でもなかった。


 小さな少女。


 白い服。

 砕けていない首元の白い石。


 少女は、祠の前で両手を広げている。


『門を、閉じないで』


 スマホの画面に文字が浮かんだ。


 声は聞こえない。


 なのに、言葉だけは届く。


『鈴木に、会いたい』


 マリが、俺の隣で石を握りしめた。


「スズキ」


 小さな声で言う。


「あの子も、鍵なの?」


 画面の向こうで。


 白い服の少女が、ゆっくり顔を上げた。


 そして、俺のスマホを見た。


『わたしの名前は、ユラ』


 文字が一つずつ浮かぶ。


『わたしは、ミナを連れて帰るために来た』


 白い光が、祠の空を裂いた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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