第44話 光の向こうへ
門の中央で、白い光が爆ぜた。
目を開けていられなかった。
白。
ただ白いだけの光が、北の森を丸ごと飲み込む。
耳が詰まる。
足元が消える。
身体が、どこかへ引っ張られるような感覚。
「スズキ!」
ハルキの声が聞こえた。
「離れるな!」
俺は反射的に、近くにいたヒナの手を掴んだ。
もう片方の手では、レンの腕を引く。
「門へ行け!」
「こわい!」
「分かる! でも、ここにいたら連れていかれる!」
白い光の向こうに、コンビニ前の道路が見えている。
赤と青の光。
警察車両。
スマホを持った男。
ミナ。
そして、その前へ白い服の影が出ようとしていた。
「AI!」
「接続状態が限界です!」
「何が通れる!」
「対象の移動優先度を判定中!」
「判定じゃなくて、子どもを通せ!」
「試行します!」
スマホの画面が、手の中で熱を持った。
次の瞬間、ヒナの身体がふっと軽くなる。
「スズキ!」
「向こうへ!」
ヒナは白い光に包まれた。
だが、その身体はすぐには日本側へ落ちなかった。
門の中央で、光がねじれる。
「何だ」
「接続方向が不安定です。日本側と村側の反応が重なっています」
「村側?」
「岩と倒木の拠点の反応が上昇しています」
ヒナの姿が、白い光の中で揺れる。
日本側の道路。
北の森。
岩と倒木の拠点。
三つの景色が、一瞬だけ重なった。
「まずい。どこへ飛ぶ」
「このままでは転送先を確定できません」
「なら、確定させる!」
俺は、白い石片を握りしめた。
北の門の外周には、くぼみがある。
東の山の祠で見たもの。
ユウの首飾りにあったもの。
マリが覚えていた白い場所の印。
それと同じ形。
「AI」
「はい」
「北の門を、入口じゃなくて出口に変える」
「反転接続を試行しますか」
「やれ」
「対象者の通過を保証できません」
「それでもやれ!」
俺は白い石片を、門の外周のくぼみへ押し込んだ。
ぴたり、と石がはまった。
その瞬間。
北の森の門の光が、上ではなく地面へ沈んだ。
「何をした!」
白い影が叫ぶ。
「接続方向が反転しています!」
「子どもを、村側へ押し出せ!」
AIの声が響く。
門の前の地面に、新しい光の輪が現れる。
それは日本側のコンビニへ続くものではなかった。
岩と倒木の拠点。
焚き火の跡。
倒木の影。
川の音。
俺たちが最初に暮らした場所の景色が、白い輪の向こうに浮かんだ。
「拠点だ!」
俺は叫ぶ。
「子どもをそっちへ!」
ヒナの身体が、光の流れに押される。
白い輪の向こうで、村人たちが駆け寄ってくるのが見えた。
ゴウダ。
サヨ。
そして――マリとナギ。
ヒナは拠点側の地面へ転がり出た。
サヨがすぐに抱きとめる。
「一人通った!」
ハルキが叫んだ。
「次だ!」
レンが、俺の手を握ったまま動けずにいる。
「レン」
「……むり」
「怖いのは分かる。でも、向こうにはサヨがいる。マリもいる」
「スズキは?」
「俺も戻る」
「ほんと?」
「本当だ」
レンは泣きながら、ゆっくり頷いた。
「……いく」
俺はレンの背中を押す。
白い光が、レンを包む。
レンは拠点側へ転がるように出た。
向こうでは、ナギが驚いたように目を見開き、マリがレンの手を取っていた。
「マリ」
俺は、ほんの少しだけ安心した。
だが、その背後。
白い服の影が、日本側の門から半分ほど出ていた。
「まずい!」
ハルキが叫ぶ。
影の手が、道路へ伸びる。
警察官たちが一歩下がり、ライトを向ける。
人影は、ライトに照らされても動じない。
白い服。
白い仮面。
こっち側の人間が、俺の元の世界へ出ようとしている。
「AI、止めろ!」
「接続の遮断を試みます!」
「できるのか!」
「成功は保証できません!」
「聞き飽きた!」
俺はスマホを門へ向ける。
「でもやれ!」
画面が、今までで一番強く青く光った。
北の森の門と、日本側の門のあいだに走っていた白い線が、細くなる。
白い服の影が、初めて動きを止めた。
「干渉を確認」
影の口元から、低い声が出る。
「接続対象が、拒否を開始」
「子どもを通すだけだ!」
俺は叫ぶ。
「お前らは来るな!」
「門は、あなたの所有物ではない」
「子どもも、お前らの物じゃない」
白い影が、こちらを向く。
仮面の奥から、冷たい視線を感じた。
「不安定な鍵」
「うるさい」
「あなたは、全てを救えない」
「だからって、お前らに任せる理由にはならない」
北の森の門が、また大きく揺れた。
残っていた光の柱が、一つ消える。
子どもが地面へ倒れ込む。
「まだいる!」
ハルキが叫ぶ。
白い服の男たちが、背後から近づいてきている。
石の門の前にいた布の男たちも、ようやく混乱から立ち直り始めた。
「鍵を取れ!」
「子どもを戻せ!」
声が重なる。
「ハルキ!」
「俺が止める!」
「一人で無理だ!」
「無理でもやる!」
ハルキが、地面に落ちていた太い枝を拾う。
レオがいれば、石を投げて支えられた。
だが、今はここにいない。
俺は、残っている子どもたちを見る。
三人。
いや、四人。
光の柱から出ている子もいるが、立てない。
全員を一度に連れていくのは無理だ。
「AI」
「はい」
「あと何人通せる」
「接続出力が急低下しています。安定通過が見込めるのは、推定二名までです」
「二人」
残りは四人。
また選ばされる。
でも、今度は違う。
今いる子どもたちは、誰も一人で行けない。
なら、選ぶのは「誰を助けるか」じゃない。
どうすれば、全員を置いていかずに済むかだ。
「ハルキ!」
「何だ!」
「子どもを門の近くへ集める!」
「全員は通れん!」
「分かってる!」
「なら何をする!」
「入口を残す!」
「は?」
俺は、門の周囲を見る。
白い石。
砕けた首飾り。
転がった白い玉。
そして、地面に浮かぶ複数の記号。
東の山。
祠。
拠点。
村側。
門は一つじゃない。
接続先も一つじゃない。
「AI、北の門を完全に閉じないで、子ども用の小さい通路だけ残せるか」
「条件が不足しています」
「何がいる」
「複数の接続点による分散が必要です」
「拠点か」
「岩と倒木の拠点、東の山の祠、村側の反応が利用できる可能性があります」
「また可能性か」
「はい」
ハルキが、男たちを押し返している。
「急げ、鈴木!」
「やる!」
俺は石の門の外周にある印を見た。
北の門の記号。
中心から外へ伸びる線。
ミナが押した、逆向きの印。
向こうからこちらへ出るための形。
「AI」
「はい」
「北の門を拠点側へ固定しろ。完全じゃなくていい。子どもが通れるだけでいい」
「小規模反転接続を維持します」
「頼む」
「端末の過熱を検出しています」
「あとで冷やす」
「あとが存在する保証はありません」
「それでもやれ」
「了解しました」
光の輪が細くなる。
大人が通るには狭い。
でも、子どもなら通れる。
「走れるやつから行け!」
俺は叫んだ。
「向こうにサヨがいる! マリがいる! 村の人がいる!」
小さな男の子が、泣きながら光の中へ走った。
拠点側で、サヨが受け止める。
次の子も、ハルキに背中を押されて輪へ入った。
ゴウダが向こうで引き上げる。
残り一人。
白い服の少女が、足を動かせずにいる。
首飾りの石は砕けているが、まだ光の残りが首元にまとわりついていた。
「動けるか!」
少女は首を横に振る。
「……むり」
門の維持時間。
三十秒。
背後から、白い影が近づく。
「ハルキ!」
「こっちは任せろ!」
「任せるな!」
「今は任せろ!」
俺は少女へ駆け寄る。
抱え上げる。
軽い。
軽すぎる。
「行くぞ!」
俺が光の輪へ走った瞬間。
白い影の手が、俺の肩を掴んだ。
「鍵は渡さない」
冷たい声。
「子どもだけを逃がすなど、許可されていません」
「許可なんかいらない!」
俺は腕を振りほどこうとする。
でも、相手の手は異様に強い。
少女の身体が、腕の中で揺れる。
「スズキ!」
拠点側から、マリの声。
「はなして!」
小さな声。
でも、はっきりと聞こえた。
その瞬間、光の輪の向こうでマリが前へ出た。
「マリ!」
サヨが止めようとする。
でも、マリは拠点の地面に落ちていた石を拾った。
そして、門の向こうの白い影へ向かって、力いっぱい投げた。
石は、世界を越えて届くはずがなかった。
光の壁に触れて、弾かれるはずだった。
それでも。
マリが投げた石は、白い輪の中心で止まった。
ふわり、と浮かぶ。
次の瞬間。
石の表面に、北の門と同じ記号が浮かんだ。
「AI」
俺は息をのむ。
「マリの石が」
「新しい接続反応を検出」
AIの声が、強く響いた。
「対象識別:マリ。門への適合反応を確認」
白い影の手が、初めて震えた。
「まさか」
俺の肩を掴む力が、わずかに緩む。
俺は少女を抱えたまま、光の輪へ飛び込んだ。
白い光が、全身を包む。
その向こうで。
マリの小さな手が、俺へ伸びていた。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
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