第43話 コンビニ前の白い門
コンビニの前で、白い光が地面から立ち上がった。
画面越しでも分かるほど、異様だった。
夜の道路。
赤と青の警光灯。
車のヘッドライト。
コンビニの明るい看板。
その真ん中で、白い光だけが音もなく揺れている。
「ミナ!」
俺は画面へ向かって叫んだ。
映像の中で、ミナが人影のそばにいる。
スマホを持った男が、ミナを背中側へかばうように立っていた。
『近づくな』
男のスマホに文字が出る。
『これ、何だ』
「門だ」
俺は答えた。
「触るな。近づくな。白い服の人間が出るかもしれない」
『意味が分からない』
「俺も全部は分からない」
『じゃあ、何をすればいい』
「ミナを連れて、その場から離れろ」
画面の向こうで、男がミナを見る。
ミナは白い光を見ながら、首を横に振った。
『……だめ』
「ミナ?」
『あれ、ひらく』
「開かせるな」
『でも、だれか、くる』
白い光の中心に、細い影が浮かび始めた。
北の森の石の門と同じだ。
門の奥から、誰かがこちらへ来ようとしている。
「AI」
「はい」
「日本側の門の反応は」
「急速に上昇しています。北の森の門、東の山の施設、管理領域との接続が重なっている可能性があります」
「向こうから出てくるのか」
「可能性があります」
「また可能性か」
「はい」
そのとき、北の森の方でも、枝を踏む音が近づいた。
ハルキがすぐに振り返る。
「こっちも来る」
「案内人か」
「分からん。だが、一人じゃない」
俺たちの目の前には、まだ白い光の柱が残っている。
子どもたちも残っている。
ヒナとレンは岩陰にいるが、まだ歩けるほどではない。
「ハルキ」
「何だ」
「日本側にも門が開いた」
「向こうの世界か」
「ああ。ミナのそばだ」
「なら、子どもを守る人間はいるのか」
「警察が来てる。あと、スマホを持った男がいる」
「信用できるか」
「分からない」
「またそれか」
「分からないものは分からない」
ハルキは短く息を吐き、石の門の方を見る。
「なら、こっちはこっちで守る」
その言葉に、少しだけ救われる。
北の森の門の前にいる子どもたち。
日本側のコンビニ前にいるミナ。
どちらにも、今すぐ完全には手が届かない。
だから、できることをするしかない。
日本側の映像では、警察官らしい人たちが白い光の周囲へ集まっていた。
反射するベスト。
ライト。
無線機。
光を見て、戸惑っている。
けれど、スマホを持った男の話を聞きながら、道路の車を止め、周囲の人を下がらせ始めていた。
『子どもをこちらへ』
男のスマホに文字が出る。
『警察が保護する』
「その人たちは、ミナを守る」
俺は言った。
「今は、そばにいろ」
ミナは少し迷ってから、警察官の方を見る。
それでも、スマホを持った男の服を握ったままだ。
『スズキ』
「ああ」
『ここ、ひらいたら、みんな、くる?』
その問いに、言葉が詰まる。
みんな。
白い服の者たち。
案内人。
北の森の男たち。
鉄格子の奥にいた子どもたち。
「分からない」
俺は正直に言った。
「でも、ミナを一人にはしない」
『スズキ、こない』
「今は行けない」
『……うん』
ミナは小さく頷いた。
そのとき、白い門の中心が大きく揺れた。
ごおおおおんっ。
コンビニのガラスが震える。
道路脇の看板が揺れる。
警察官たちが、反射的に後ろへ下がる。
『離れてください!』
画面越しに、誰かが叫ぶ。
でも、門の中の影は消えない。
むしろ、少しずつ形を持ち始める。
「白い服だ」
俺が呟く。
門の向こうに、白い影が二つ見えた。
「AI、止められないか」
「日本側の接続点は、現在の私の操作範囲外です」
「北の門から干渉できないのか」
「接続は不安定です。試行すれば、こちら側の子どもたちに影響が出る可能性があります」
俺は、北の森の子どもたちを見る。
光の柱に残る子。
首飾りがまだ砕けていない子。
今ここで無茶をすれば、この子たちまで危なくなる。
「……くそ」
何もできない。
それが一番きつい。
北の森では、白い服ではない足音が近づいていた。
木々の間から現れたのは、布で顔を隠した男たちだった。
案内人の仲間。
薬草を狙っていた連中とも違う。
人数は四人。
「鍵はいるか」
先頭の男が言った。
「いる」
別の男が、こちらを指す。
「じゃあ、回収だ」
「回収?」
ハルキが前へ出る。
「人間を荷物みたいに言うな」
「門の鍵なら、物と変わらん」
「俺には変わる」
俺が言う。
「お前らに持っていかれるつもりはない」
男たちは、ゆっくり広がった。
石の門を囲むように。
逃げ道を塞ぐように。
「ハルキ」
「分かってる」
「子どもを岩陰へ」
「できるだけ下がらせる。だが、俺たちだけじゃ限界がある」
レオはユウを連れて村へ戻った。
援軍を呼ぶために。
今ここにいるのは、俺とハルキ。
ヒナとレン。
そして、まだ光の柱に残されている子どもたち。
「AI」
「はい」
「相手の動きは」
「四名。短い刃物を所持している可能性が高いです」
「戦えないな」
「戦闘は推奨しません」
「珍しく意見が合う」
男たちが、一歩ずつ近づく。
そのとき。
北の森の石の門が、また白く光った。
コンビニ前の門と、同じ明滅。
「同期してる」
俺が言う。
「日本側の門と、こっちの門が」
「接続反応の同期を確認」
AIが答える。
「二地点間で、短時間の通路が形成される可能性があります」
「人が通れるのか」
「不明です」
「またそれか」
「はい」
男たちも、門の光を見て足を止めた。
「何だ」
「案内人の予定か」
「違う。聞いてない」
相手も知らない。
なら、今が唯一の機会かもしれない。
「ハルキ」
「何を考えてる」
「通路ができるなら」
「行く気か」
「違う」
俺は光の柱の中にいる子どもたちを見る。
「子どもを、日本側へ送れるかもしれない」
「向こうには人がいる」
「ああ。ミナを守ってる人も、警察も」
「でも、そこが安全とは限らん」
「こっちに残せば、こいつらに連れていかれる」
俺は、近づいてくる布の男たちを見た。
「向こうなら、少なくとも大人がいる。明かりがある。警察がいる」
ハルキは、子どもたちを見る。
「……賭けるしかないか」
その言葉を言った直後。
北の森の門の中央に、道路の映像が浮かんだ。
コンビニの前。
赤と青の光。
警察官。
スマホを持った男。
そして、ミナ。
「スズキ!」
ミナが、門の向こうからこちらを見た。
「ミナ!」
今度は、声が届いた。
文字ではない。
直接、聞こえた。
門が開いている。
「ヒナ!」
俺は叫ぶ。
「こっちへ来い!」
ヒナは、まだ弱い足で立ち上がる。
レンも、俺の服を掴んでいる。
「でも、ほかの子は」
ハルキが言う。
「柱にいる」
「俺が留め具を外す」
「時間がない」
「分かってる!」
俺はスマホを門へ向ける。
「AI、残ってる柱を見ろ。開けられるやつから順番に。出力は上げすぎるな」
「同時干渉は推奨しません」
「今は推奨を聞いてる時間がない」
「対象者への影響が予測不能です」
「だから、開けられるやつからだ。全員まとめてじゃない」
「……了解しました」
スマホの画面が青く光る。
光の柱のひとつが、大きく揺れ始めた。
その瞬間。
布の男たちが走り出した。
「鍵を取れ!」
「止めろ!」
ハルキが前に出る。
「子どもを先に!」
俺は一番近い柱へ走り、白い留め具へ手をかけた。
最初の留め具が外れる。
子どもが一人、倒れ込む。
「立てるか!」
小さな子が、泣きながら頷く。
「門へ行け!」
北の森の門の向こうには、日本のコンビニ前が見えている。
でも、その日本側でも。
白い服の影が、門の中から一歩、外へ出ようとしていた。
「ミナ、下がれ!」
俺が叫ぶ。
画面の向こうで、スマホを持った男がミナを抱えるようにして後ろへ下がる。
警察官たちが、白い影へライトを向ける。
そして。
白い影の手が、日本側の道路へ伸びた。
北の森と日本をつなぐ門が、子どもたちを逃がす道になるのか。
それとも。
白い側の人間を、俺の元の世界へ通す扉になるのか。
その答えが出る前に。
門の中央で、白い光が大きく爆ぜた。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
ChatGPT




