↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第41話 戻れない場所

『対象識別:ミナ』

『接続状態:不明』

『新規地点を検出』


 スマホの画面に浮かぶ、見覚えのある街の形。


 道路。

 四角い建物。

 川沿いの橋。

 信号のある大きな交差点。


 俺が、元の世界で暮らしていた街。


「……日本だ」


 声が、勝手に漏れた。


 北の森の石の門。


 白い光の柱。

 子どもたちの泣き声。

 案内人の怒鳴り声。


 その全部があるのに、画面の中だけは、俺が失ったはずの日常を映している。


「日本?」


 ハルキが聞いた。


「俺がいた世界だ」


「ミナが、そこへ行ったのか」


「たぶん」


「帰れるのか」


 その一言に、胸の奥が痛んだ。


 帰れる。


 帰還経路候補は、一度だけ出た。


 俺は拒否した。


 誰か一人を選ぶことができなかったから。


「分からない」


 俺は答えた。


「でも、ミナの反応は、俺のいた世界側にある」


「じゃあ、あの子は助かったのか」


「それも分からない」


 元の世界なら、食べ物はある。

 建物もある。

 誰か大人もいる。


 でも、記憶の薄い子どもが、見知らぬ世界に一人で出たなら。


 助かったと言い切れるはずがない。


「スズキ」


 ヒナが、光の柱の中から小さく呼んだ。


「ミナ、いなくなった?」


「うん」


「……こわい」


「大丈夫だ」


 俺は、すぐに言った。


「ミナは、どこかにいる。探せる」


「ほんと?」


「反応が残ってる。だから、消えてはいない」


 それは事実だった。


 画面の白い点は、まだ消えていない。


 ただ、その点が今いる場所は、俺の手の届かない世界だった。


 そのとき、案内人が倒れた白い玉を拾おうとした。


「逃がすな!」


 ハルキが叫ぶ。


 案内人は白い玉へ手を伸ばす。


 だが、レオの石が先に飛んだ。


 かんっ。


 石が玉に当たり、白い玉が地面を転がる。


「くっ」


 案内人が初めて、はっきりと舌打ちした。


「管理経路が失われる」


「子どもたちを返せ」


 俺は言った。


「北の森へ送られた子も、ここにいる子も、全員だ」


「無理です」


「またそれか」


「北の門は不安定です。管理領域との経路も切断されつつある」


「じゃあ、切れ」


「切れれば、候補の位置を追えなくなります」


「追えるようにして、閉じ込めてたんだろ」


 案内人は答えない。


 白い光の柱の一本が、ぶつぶつと明滅し始めた。


 中にいるヒナが、膝を抱えてうずくまる。


「……いたい」


「AI」


「柱の維持出力が低下しています」


「危ないのか」


「対象者への影響を推定できません。ただし、首飾りの破損と接続不安定化により、意識低下または再移送が起こる可能性があります」


「再移送?」


「別の接続先へ、意図せず移動する可能性があります」


 ヒナまで、どこかへ飛ばされる。


 俺は、白い柱のそばへ走った。


「スズキ!」


 ハルキが呼ぶ。


「近づくな!」


「近づかないと、また消える!」


 柱の周囲には、門の模様と同じ線が浮かんでいる。


 さっきの鉄格子の留め具。

 ユウの首飾り。

 石台の下。


 全部と同じ。


「AI」


「はい」


「柱の反応を弱められるか」


「最小干渉は可能です。ただし、対象者が移送中の場合、反応を弱めることで接続が切断される恐れがあります」


「切れたらどうなる」


「現在地へ留まる可能性があります」


「可能性か」


「はい」


「やる」


「スズキ」


 ヒナが、柱の中で顔を上げた。


「……こわい」


「俺も怖い」


「でも、する?」


「ここに残すために」


 ヒナは泣きながら頷いた。


「……うん」


「最小干渉を開始します」


 スマホの画面が、淡い青色に変わった。


 白い光の柱が、一度だけ強く明滅する。


「うっ」


 ヒナが目を閉じた。


 柱の線が、少しずつ薄くなる。


「成功するか」


 ハルキが聞く。


「分からん」


「お前は分からんばかりだな」


「俺に言われても」


 白い柱が、ゆっくり縮んでいく。


 光が足元へ集まり、首飾りの石に吸い込まれるように消えた。


 ぱきんっ。


 ヒナの首飾りが砕ける。


 ヒナが、地面へ倒れた。


「ヒナ!」


 俺は駆け寄る。


 身体を抱き起こす。


 軽い。


 でも、ちゃんと温かい。


「ヒナ。聞こえるか」


 しばらくして、ヒナの瞼が動いた。


「……スズキ」


「ああ」


「ここ?」


「ここだ。北の森」


「……でた?」


「出た」


 ヒナは、震える手で首元に触れる。


 白い石は、もうない。


「いたくない」


「そうか」


 俺は、思わず息を吐いた。


「よかった」


 ハルキが、周囲を見回す。


「一人は出せた」


「でも、まだいる」


 門の周囲には、光の柱がまだ五本。


 その中には、別の子どもたちがいる。


 泣いている子。

 黙っている子。

 立てない子。


「一人ずつやるしかない」


 俺が言う。


「時間がかかる」


「案内人は」


 レオが、石の影を指した。


 案内人は、白い玉を抱えたまま後ろへ下がっていた。


 逃げるつもりだ。


「待て!」


 ハルキが走る。


 案内人も、森の奥へ走り出した。


「追うな!」


 俺は叫んだ。


 だが、ハルキは止まらない。


「子どもたちを残して、逃がすわけにはいかん!」


「ハルキ!」


 レオが後を追う。


 俺は一瞬、迷った。


 案内人を捕まえれば、白い場所のことが分かるかもしれない。


 ミナを追う方法も、子どもたちを救う方法も。


 でも、目の前にはヒナがいる。


 光の柱の中にも、まだ子どもたちがいる。


「AI」


「はい」


「残っている柱の状態は」


「不安定化が進行中。次の対象者が無作為に移送されるまで、推定二分以内」


「二分?」


「時間がありません」


 追えない。


 俺は、ヒナを近くの岩陰へ寝かせる。


「ここにいろ」


「……うん」


「すぐ戻る」


 次の柱へ走る。


 中には、男の子がいた。


 年はユウより少し上に見える。


「名前は」


 男の子は、震える唇で言った。


「……レン」


「レン。少し痛いかもしれない。でも、ここに残す」


「……しろいの、こわい」


「分かる」


「おれ、かえれる?」


「帰れる」


 俺は言った。


「村へ連れていく」


 スマホを柱へ向ける。


「AI、次も最小干渉」


「了解しました」


 青い光。


 白い柱の明滅。


 首飾りの破損。


 レンが地面へ倒れ込む。


 その瞬間、北の森の門が大きく震えた。


 ごおおおおんっ。


「何だ」


 俺が振り返る。


 門の中央に、さっきまでなかった映像が浮かんでいる。


 道路。

 高い建物。

 車の光。

 夜の街。


 俺のいた世界。


「また、日本が」


 画面の白い点が、激しく点滅していた。


『対象識別:ミナ』

『位置情報:更新』

『接続状態:不安定』


 ミナの点が、街の中を動いている。


「動いてる」


「自力移動、または第三者による移動の可能性があります」


「近くに誰かいるか」


「周辺に複数の移動反応を検出しています」


「白い人間か」


「不明です。映像上、白い服や仮面は確認できません」


 そのとき、映像の向こうで、ミナらしい小さな影が走った。


 夜の道路。


 車のライト。


 見知らぬ街。


 ミナが、何かから逃げている。


『スズキ』


 画面に、短い文字が浮かぶ。


『ひと、いる』


 次の瞬間、映像が大きく揺れた。


 ミナの前に、人影が立つ。


 白い服ではない。


 仮面もしていない。


 でも、その人影は。


 俺が元の世界で、何度も見たものを手にしていた。


 スマホだった。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。