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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第40話 門の向こうの少女

『助けて』


 スマホの画面に浮かんだ文字を、俺は見つめた。


 石の門の向こう。


 白い輪の奥。


 見覚えのない少女が、こちらへ手を伸ばしている。


 声は聞こえない。


 でも、確かに助けを求めていた。


「誰だ」


 俺が呟くと、案内人はすぐには答えなかった。


 白い光の柱の中で、ヒナが小さく泣いている。


 ユウはハルキのそばで、震える手を握っている。


 目の前にいる子どもたち。

 門の向こうにいる少女。

 そして村で待つマリとナギ。


 助けを求める声が、多すぎる。


「案内人」


 俺はもう一度呼んだ。


「門の向こうにいる子は誰だ」


「先行接続対象です」


「名前は」


「管理記録上、必要ありません」


「俺には必要だ」


 案内人の白い布が、わずかに揺れた。


「……ミナ」


「ミナ」


 俺は、その名前を繰り返した。


 門の向こうの少女が、少しだけ反応する。


 聞こえているのか。

 スマホを通して、名前が届いたのか。


 ミナは、もう一度唇を動かした。


『ここは、ちがう』


 画面に新しい文字が浮かぶ。


「違う?」


 ハルキが言う。


「何が違う」


「分からん」


 俺は答える。


 でも、ミナの向こうに見えている場所は、東の山の地下とは違っていた。


 白い壁。

 白い光。


 けれど、鉄格子もない。


 子どもたちを閉じ込めていた部屋より、ずっと広い。


 壁の向こうには、細い通路が続いている。

 そして遠くに、いくつもの白い扉が見えた。


「別の施設か」


 AIが答える。


「映像情報から推定して、東の山の地下施設とは構造が異なります」


「門の接続先か」


「可能性があります」


「また可能性か」


「はい」


 案内人が、静かに言った。


「そこは接続の外側です」


「外側?」


「あなたの世界でも、この世界でもない。門と門のあいだにある領域」


「そんなところに、子どもを置いてるのか」


「保護しています」


「同じことしか言えないのか」


 俺は石の門へ一歩近づいた。


 光の輪が、わずかに揺れる。


「スズキ」


 ハルキが呼ぶ。


「近づきすぎるな」


「分かってる」


「本当にか」


「今は本当に分かってる」


 ハルキは、呆れたように息を吐いた。


 そのとき、門の向こうでミナが急に振り返った。


 白い通路の奥から、誰かが来る。


 白い服。


 顔のない影。


 ミナが後ずさる。


『来る』


「ミナ!」


 俺が叫ぶ。


 門の向こうの少女は、白い壁に背をつけた。


 逃げ場を探している。


 影が、ゆっくり近づく。


「案内人!」


 俺は振り返った。


「門を開けろ!」


「現在の状態では不可能です」


「どうすれば開く」


「接続対象が、通過を選択すれば」


「俺が行けばいいのか」


「あなたが向こうへ渡れば、門は一時的に安定します」


 ハルキがすぐに前へ出る。


「だめだ」


「でも、ミナが」


「向こうに何があるか分からない」


「こっちにいても助けられない」


「だからって、一人で入るのか」


 正しい。


 でも、ミナの向こうには、白い影が迫っている。


『スズキ』


 画面の文字。


『こないで』


 その言葉に、俺の動きが止まった。


「何で」


『ここ、かえるところ、ない』


 ミナの目から涙が落ちる。


『スズキも、なくなる』


 胸の奥が冷たくなった。


 俺が向こうへ行けば、帰ってこられない。


 案内人は、それを知っている。


「お前」


 俺は案内人を睨む。


「最初から、俺を向こうへ送りたいのか」


「あなたは接続対象です」


「答えになってない」


「あなたが管理領域へ移れば、複数経路を安定させられます」


「子どもたちは」


「こちら側へ移送できる可能性が上がります」


「俺は」


「帰還保証はありません」


 またそれだ。


 子どもたちを助けるために、俺が残る。


 帰る道を捨てる。


 一人を選ぶ。


 相手は、どこまで行っても同じ選択を押しつけてくる。


「スズキ」


 ユウが俺の服をつかんだ。


「……いかないで」


 ヒナも、光の柱の中から小さく言った。


「……ここ、いて」


 俺は目を閉じた。


 俺が行けば、ミナを助けられるかもしれない。


 でも、目の前のユウやヒナを残す。


 ハルキたちとも離れる。


 そして、村のマリとナギにも戻れないかもしれない。


「一人で行かない」


 俺は言った。


 案内人が首を傾ける。


「不可能です」


「そう決めるな」


「管理領域への通過は、接続対象一名に限られます」


「なら、俺一人が行く方法じゃなくて、向こうの子をこっちへ出す方法を探す」


「存在しません」


「ある」


 俺はスマホを見る。


「AI。ミナの場所は、こっちと信号がつながってるんだな」


「映像と文字情報の通信は成立しています」


「門を人が通るより、小さい情報は通ってる」


「はい」


「なら、音も通せるか」


「可能です」


「ハルキ」


「何だ」


「ミナに、こっちの音を聞かせる」


「何のために」


「逃げ道を探してもらう」


 案内人が、初めて大きく声を出した。


「やめなさい」


「嫌だ」


「管理領域の構造を、外部へ知らせることは許可されていません」


「子どもを閉じ込めるための構造なら、なおさら知る」


 俺はスマホを門へ向けた。


「ミナ、聞こえるか」


 画面に、すぐ文字が出た。


『きこえる』


「白い影は、今どこだ」


『ちかい』


「後ろに扉はあるか」


 ミナが振り返る。


『ある』


「開くか」


『わからない』


「触るな。扉の周りを見るんだ。壁に印はあるか」


 ミナが、震える手で壁をなぞる。


 白い影が近づく。


『まる』


「丸?」


『せん、いっぱい』


 俺は息をのむ。


 北の門。

 東の山。

 村側の拠点。


 すべてにあった記号。


「AI、ミナの映像から印を拾えるか」


「解析中です」


 画面が震える。


「一致率が高い記号を確認。北の森の門、東の山の祠、岩と倒木の拠点の反応と共通します」


「やっぱりな」


「ただし、配置が異なります」


「どこが」


「記号の中心線が、現在の門とは逆方向を示しています」


「逆?」


「こちらから向こうへ通るためではなく、向こうからこちらへ接続するための配置である可能性があります」


 案内人が、後ずさった。


「それに触れるな」


「やっぱりできるじゃないか」


「それは封鎖扉です」


「子どもを閉じ込めるための扉か」


「管理領域を守るための扉です」


「同じだ」


 ミナの後ろで、白い影が手を伸ばした。


『こわい』


「ミナ、壁の印の中心を押せるか」


『……うん』


「怖かったら、やめていい」


『やる』


「無理するな」


『スズキ、いる』


 その言葉に、胸が詰まる。


「いる」


 俺は答えた。


「ここにいる」


 ミナが、壁の印へ手を伸ばす。


 白い影が、あと数歩まで近づいている。


「今だ」


 ミナの手が、印の中心に触れた。


 白い通路が、一瞬だけ大きく揺れた。


 ごおおおおんっ。


 北の森の石の門も、同時に震える。


「接続反転を検知!」


 AIの声が響く。


「管理領域側から、こちらへの経路が一時的に開きます!」


「ミナ!」


 門の向こうの壁に、白い輪が浮かんだ。


 さっきまで俺たちが見ていた門と、似ている。


 でも、向きが逆だ。


「こっちへ走れ!」


 俺が叫ぶ。


 ミナが白い輪へ向かう。


 白い影が、その腕を掴もうとする。


『いや!』


 ミナが叫ぶ。


 その瞬間、石の門の前に立つ案内人が、俺の方へ手を伸ばした。


「接続を切断します」


「させるか!」


 ハルキが、案内人へ体当たりした。


 白い布が揺れ、二人が地面へ倒れる。


「レオ!」


 ハルキが叫ぶ。


 祠のときと同じように、レオの石が飛ぶ。


 案内人の手元にあった白い玉へ当たる。


 かんっ。


 玉が転がる。


 門の光が、さらに強くなる。


 ミナは、白い輪の手前まで来ていた。


 でも、白い影が後ろから腕を掴む。


『スズキ!』


「ミナ!」


 俺は門へ走った。


「止まれ!」


 案内人の声。


「門に近づけば、あなたも引かれる!」


「だったら一緒に出す!」


 俺が手を伸ばす。


 門の向こうで、ミナも手を伸ばす。


 指先が、白い光を隔てて近づく。


 あと少し。


 ほんの少し。


 そのとき。


 白い影の手が、ミナの首元へ触れた。


 首飾りの石が、強く光る。


『いや――』


 声が、途切れた。


 門の向こうの映像が、白く塗りつぶされる。


 俺の指先は、何も掴めなかった。


 次の瞬間、スマホの画面に表示が出た。


『対象識別:ミナ』


『接続状態:不明』


『新規地点を検出』


 地図に、白い点が一つ浮かぶ。


 北の森でもない。


 東の山でもない。


 村の拠点でもない。


 画面には、この世界の地形とは違う、見覚えのある線がかすかに重なっていた。


 道路。


 四角い建物の並び。


 川沿いの橋。


 俺は、その線を知っている。


 かつて、俺が毎日のように通っていた街の形だった。


「……日本」


 声が、喉の奥から漏れた。


 白い点は、俺が元の世界で暮らしていた街の近くを示していた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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