第39話 案内人の待つ門
「見事です、鈴木」
案内人は、ゆっくり手を叩いていた。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
北の森の石の門の前。
白い光の柱。
倒れている子どもたち。
その間を、冷たい拍手だけが響いている。
「あなたは自ら、北の門へ戻ってきた」
「来たくて来たわけじゃない」
俺は答えた。
「子どもたちを取り戻しに来た」
「結果として、門の前に立った」
案内人は、布の奥で笑ったようだった。
「目的と結果は、必ずしも同じではありません」
「うるさい」
ハルキが俺の前へ出る。
「子どもに何をした」
「何もしていません」
「光の中へ飛ばして、倒れさせてるのを何もしてないと言うのか」
「移送です」
「言い方を変えるな」
案内人は答えず、石の門へ視線を向けた。
門の周囲には、白い光の柱が六本立っている。
その中に、子どもたちが倒れていた。
一人は泣いている。
一人は目を閉じたまま動かない。
別の子は、首元を押さえて震えている。
「スズキ」
かすかな声が聞こえた。
ユウではない。
白い服を着た、小さな女の子がこちらへ手を伸ばしている。
「……いたい」
「待ってろ」
俺は、光の柱へ近づこうとした。
その瞬間、案内人が片手を上げた。
「触れない方がいい」
「何だと」
「現在、門は不安定です。柱を壊せば、その子どもは接続の隙間へ落ちます」
「接続の隙間?」
「戻れない場所です」
「脅してるのか」
「説明です」
仮面の男と同じ言葉。
胸の奥が、また熱くなる。
「お前らは、みんな同じことを言うな」
「同じ管理体系に属しているからです」
案内人は、あっさり言った。
「東の山の施設。白い場所。北の門。村側の封鎖経路。すべては接続を維持するための設備です」
「子どもを使ってか」
「候補を利用しています」
「名前で呼べ」
「必要ありません」
「俺にはある」
俺は、光の柱の中にいる子どもを見る。
「お前、名前は」
女の子は、少しだけ目を開けた。
「……ヒナ」
「ヒナ」
俺は繰り返した。
「聞こえるか。今すぐ出せないけど、ここにいる」
ヒナの指が、わずかに動いた。
「……うん」
「何をしても無駄です」
案内人が言った。
「門の調整が終わるまで、彼らは柱から出せません」
「いつ終わる」
「あなたが、正しい選択をすれば」
「またそれか」
「はい」
案内人は、石の門の中央を指した。
そこには、以前よりはっきりした白い輪が浮かんでいた。
輪の内側には、何も映っていない。
けれど、見ているだけで吸い込まれそうな深さがある。
「帰還経路を再起動してください」
「断る」
「今度は、一人だけとは言いません」
その言葉に、俺は動きを止めた。
「何だって」
「あなたが北の門へ戻り、東の施設の経路が村側とつながった。接続網は再編されつつあります」
「だから何だ」
「条件を満たせば、複数の通過が可能になります」
ハルキが、俺を見る。
「条件って何だ」
俺は聞いた。
「あなたが接続対象として、こちら側に残ることです」
空気が止まった。
「俺が残る?」
「はい」
「子どもたちは出せるのか」
「門を通し、あなたのいた世界へ戻せる可能性があります」
「俺の世界へ?」
「接続先は、あなたの帰還候補と同じです」
元の世界。
コンビニの明かり。
冷蔵庫。
雨の日でも濡れない部屋。
そこへ、子どもたちを連れて帰れるかもしれない。
マリも。
ナギも。
ユウも。
ヒナも。
「何人だ」
「門の安定性が確保されれば、候補たち全員です」
「じゃあ、俺が残れば」
「あなたは、世界の外側に留まることになります」
「死ぬのか」
「死とは異なります」
「じゃあ何だ」
「接続対象として、門を維持する」
案内人の声は、淡々としていた。
「あなたが存在する限り、通過は可能です。あなたは門を開く判断を行い、帰還者を選び、接続を監視する」
「つまり、一生ここに閉じ込めるってことだろ」
「保護です」
「管理の間違いだ」
ハルキが、低く吐き捨てる。
「鈴木を置いて、子どもたちだけを向こうへ送る。そんな話を飲むと思ってるのか」
「あなたの意思は、接続に不要です」
案内人は、ハルキを見なかった。
「接続対象の同意だけが必要です」
「俺が同意しなければ」
「子どもたちは柱の中に残ります」
ヒナが、小さく泣いた。
「……やだ」
俺は拳を握る。
相手は、最初から同じやり方だ。
一人を選べ。
誰かを残せ。
今決めろ。
子どもがどうなってもいいのか。
「スズキ」
ハルキが、俺の肩を叩いた。
「向こうの言う通りにするな」
「でも、子どもが」
「分かってる」
「じゃあどうする」
「考える」
「考えてる時間があるのか」
「あるかどうかじゃない」
ハルキは、石の門を見た。
「ないなら作る」
その言葉に、少しだけ息が戻った。
以前、俺が仮面の男へ言った言葉だ。
ないなら作る。
「AI」
「はい」
「子どもたちの柱と、門のつながりを見られるか」
「解析します」
画面に、細い線が表示される。
石の門。
六本の光の柱。
そして、地面の下へ伸びる線。
「柱は、門の中央ではなく、地下の複数箇所へ接続されています」
「地下?」
「北の森の門の下に、補助構造が存在する可能性があります」
「さっきの東の山みたいなものか」
「類似しています。ただし、規模は小さいと推定されます」
「案内人」
俺は言った。
「門の下に何がある」
案内人は答えない。
その沈黙が答えだった。
「あるんだな」
「あなたが知る必要はありません」
「子どもを出すために必要かもしれない」
「不可能です」
「お前が不可能って言うこと、だいたい都合が悪いだけだろ」
案内人の布が、わずかに揺れた。
「接続対象は、管理者の指示に従うべきです」
「誰が管理者だ」
「門を維持する者です」
「お前か」
「違います」
案内人は、初めてはっきり言った。
「私は案内するだけです」
「じゃあ、本当の管理者は誰だ」
案内人は石の門を見る。
「あなたより先に、鍵となった者です」
背中が冷えた。
俺より先に、この世界と別の世界をつないだ人間がいる。
「その人はどこにいる」
「門の向こうです」
白い輪の内側に、かすかな影が浮かんだ。
長い髪。
白い服。
こちらに背を向けている、小さな人影。
「……マリ?」
声が漏れた。
でも、違う。
マリは村にいる。
影は、ゆっくり振り返った。
見覚えのない少女だった。
けれど、その顔には、マリやナギと同じような、記憶を失った子どもの目があった。
少女は、門の向こうから唇を動かす。
音は聞こえない。
なのに、スマホの画面には文字が浮かんだ。
『助けて』
案内人が、静かに言った。
「彼女が、最初の鍵です」
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
ChatGPT




