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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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37/51

第37話 十分後の拠点

『接続開始まで:00:09:59』


 画面の数字が、容赦なく減っていく。


 九分。

 八分。


 村から東の山の地下まで、今から走っても間に合う距離じゃない。


 そして、村から岩と倒木の拠点までは、ハルキたちがいなければ誰が向かうのかも分からない。


「スズキ」


 ユウの小さな手が、俺の手を握っていた。


「……どうする?」


 俺にも分からない。


 でも、分からないと答えれば、ユウはまた怖がる。


「村に知らせる」


 俺はスマホを見た。


「AI。村へ連絡できるか」


「通常の通信機能は利用できません」


「分かってる」


「ただし、接続網の反応を利用した短文信号の送信を試みることは可能です」


「村側に届く?」


「成功は保証できません」


「最近、そればっかりだな」


「保証できないことを保証することはできません」


「……やってくれ」


「了解しました」


 スマホの画面に、村側の地図らしいものが浮かぶ。


 その上に、細い白い線が伸びた。


 岩と倒木の拠点。

 村。

 東の山の地下。


 三つの場所を、白い線がつないでいく。


「送信内容を指定してください」


「ハルキ、ゴウダ、サヨ。誰でもいい」


「内容は」


「拠点で門が開く。危ない。マリとナギを近づけるな」


 言ってから、少し迷う。


 マリに「近づくな」と言っても、聞くとは限らない。


「……いや」


「訂正しますか」


「マリとナギを、一人にするな。拠点に光が出たら、村の人を集めろ」


「了解しました」


 白い線が、画面から消えた。


「送信完了。受信確認はできません」


「確認できないのか」


「はい」


 それでも、やるしかない。


 その間にも、仮面の男は後ずさりしていた。


 白い壁に浮かぶ図形を見つめ、何かを計算しているように見える。


「封鎖経路が開く」


 仮面の男が呟いた。


「不可能なはずだ」


「お前らが封鎖したんだろ」


 俺は言う。


「なら、開け方も知ってるはずだ」


「知らない」


 男の声が、初めてわずかに揺れた。


「封鎖は、閉じるためのものではない。接続対象を切り離すためのものだ」


「何を言ってる」


「村側の経路が開けば、候補たちの反応が引かれる」


 子どもたちの首元の石が、また淡く光る。


 ユウが怯えたように俺の手を強く握る。


「……また、いたい?」


「分からない」


「やだ」


「やらせない」


 俺は仮面の男を睨んだ。


「候補って呼ぶな。名前がある」


「名前は接続に関係ありません」


「俺には関係ある」


 鉄格子の奥で、別の子どもが泣き始めた。


 その声に反応するように、白い石がいくつも明滅する。


「AI」


「はい」


「この子たちが村側へ引かれるって、どういうことだ」


「推定ですが、村側の経路が新たな接続点として認識された場合、既存の接続対象が移動、または転送される可能性があります」


「子どもたちが拠点に出る?」


「可能性があります」


「それなら、いいじゃないか」


「制御されていない転送の場合、到着地点、人数、身体状態は保証できません」


「また保証なしか」


「はい」


 つまり、子どもたちが助かる可能性もある。


 でも、岩にぶつかるかもしれない。

 川へ落ちるかもしれない。

 白い側の人間まで一緒に出てくるかもしれない。


 拠点は、村のすぐ中じゃない。


 マリたちが光を見て駆けつけたら、危ない。


「ハルキ」


 俺は格子を引きながら言った。


「ユウを先に出す」


「ああ」


「そのあと、子どもたち全員を出せるか」


「今は無理だ」


 ハルキは、格子の奥を見る。


「一人ずつ引き抜くならできるかもしれん。だが、白い連中が邪魔をする」


「だったら、時間を作る」


 レオが石段の方を見たまま言った。


「上から、また来るぞ」


 白い服の人間が、石段を下りてくる。


 先ほど追い返した三人だけじゃない。

 その後ろにも、白い影が見える。


「何人いる」


「数える余裕がない」


「それは困る」


「困ってる場合か」


 レオの声は鋭い。


 でも、足は退いていない。


 ハルキが、俺の横で格子を引く。


「鈴木。ユウを引っ張れ」


「分かった」


「レオ、石段を塞げ」


「了解」


「俺は、格子を開ける」


 ぎぎぎ、と鉄格子がさらに開く。


 子ども一人が通れるくらいの隙間。


「ユウ!」


「うん!」


 ユウは、格子の奥から這うように近づいた。


 白い服の者が、その背中を掴もうとする。


「候補を戻せ」


「嫌だ!」


 ユウが、初めて大きな声を出した。


「スズキ、いる!」


「いる!」


 俺は腕を伸ばす。


 ユウの手が、俺の手に触れる。


 その瞬間、地下の壁が大きく揺れた。


 ごおおおおんっ。


 白い光が、壁の模様を走る。


 子どもたちの首飾りが、いっせいに反応した。


「接続開始まで、残り六分」


 AIが言う。


「村側の経路の出力が上昇しています」


「急に早くなってないか」


「接続が不安定化しています」


「それを最初に言え」


「現在、初めて確認しました」


 ユウの身体が、格子の隙間へ半分出た。


「もう少し!」


 俺とハルキで引く。


 そのとき、仮面の男が手を上げた。


「接続を固定しろ」


 白い服の人間たちが、壁際の装置らしき石柱へ向かう。


 石柱には、子どもたちの首飾りと同じ印が刻まれている。


「何してる」


「村側の経路へ候補を流す気か」


 仮面の男が言う。


「なら、こちらで制御する」


「子どもたちを勝手に送るな!」


「あなたが選択を拒否した結果です」


 石柱が、眩しく光る。


 白い光が、鉄格子の奥へ広がっていく。


「ユウ!」


 ユウの身体が、俺の手の中で軽くなる。


「スズキ!」


「離すな!」


 ユウの首飾りが、熱を持ったように白く輝く。


 このままでは、ユウまでどこかへ飛ばされる。


「AI!」


「はい」


「ユウの首飾りを弱めろ!」


「最小干渉を開始します」


 スマホの画面が青く光る。


 ユウの首飾りの光が、一瞬だけ揺らぐ。


 その隙に、ハルキがユウの腕を掴んだ。


「引け!」


 俺たちは同時に力を入れた。


 ユウが、格子の外へ転がり出る。


「出た!」


 ユウは地面に倒れた。


 でも、息をしている。


「ユウ!」


 俺が抱き起こす。


「……スズキ」


「いる」


「外?」


「ああ。外だ」


 ユウは、震える手で鉄格子の向こうを指した。


「みんな」


「分かってる」


 でも、そのとき。


 子どもたちの足元に、白い円が浮かび始めた。


 一人。


 二人。


 何人もの子どもの下に。


 仮面の男が、低く言う。


「転送を開始します」


「やめろ!」


 俺は格子へ駆け寄る。


 でも、白い服の人間が内側から格子を押さえる。


 さっき開けた隙間を、再び閉じようとしている。


「ハルキ!」


「分かってる!」


 ハルキが格子へ手をかける。


 レオは石段の上へ石を投げ、白い人間の動きを止めようとしている。


 それでも、光は広がる。


「残り三分」


 AIの声が言う。


「村側の接続反応が、対象者の位置情報と同期しています」


「子どもたちが拠点に出るのか」


「可能性があります」


「可能性じゃ困る!」


「確定はできません」


 今度はAIの声も、少しだけ強くなった。


 そのとき。


 スマホの画面に、村側からの反応が入った。


『短距離信号:受信』


『送信元推定:サヨ』


 俺の手が止まる。


「届いた」


「断片的な信号です。表示します」


 画面に短い文字が出た。


『光が出た。マリとナギは止めている。ゴウダたちは拠点へ向かった』


 少しだけ、息が戻る。


 村側は動いている。


 マリもナギも、今はサヨが守っている。


「サヨに返せるか」


「短い応答なら可能です」


「子どもたちが拠点に出るかもしれない。白い服の連中も来る可能性がある。絶対に一人で近づくな」


「送信します」


 その直後。


 鉄格子の奥で、最初の子どもが光に包まれた。


「いや!」


 小さな悲鳴。


 白い光が、その子の足元から全身へ広がる。


「止めろ!」


 俺は格子を叩く。


 仮面の男は、こちらを見ない。


「接続は始まりました」


「子どもたちをどこへ送る」


「村側の経路です」


「何人だ」


「不明です」


「白い連中は」


 仮面の男が、少しだけ沈黙した。


「対象外です」


 その言葉に、ほんの少しだけ希望が生まれる。


 子どもたちだけが、拠点へ出る。


 なら、村が受け止められれば助かる。


 だが。


 白い光に包まれた子どもが、消える直前。


 首飾りの石が砕けた。


 ぱきんっ。


 光の中で、子どもが泣き叫ぶ。


「いたい!」


 画面の村側の地図が、激しく明滅する。


「AI!」


「接続状態が変化!」


「何だ!」


「村側の出力が急激に低下しています」


「低下?」


「子どもたちの転送先が、拠点ではありません」


 背中が冷たくなる。


「じゃあ、どこだ」


 スマホの画面に、白い線が一本だけ伸びる。


 村。

 拠点。

 東の山。


 そのどこにも重ならない。


 白い線は、村の北側を抜け――。


 北の森の石の門へ向かっていた。


「接続先が変更されました」


 AIが言う。


「対象者たちは、北の森の門へ移動している可能性があります」


 あの石の門。


 俺が帰還を拒否した場所。


 案内人が待っていた場所。


 そして、その門には。


 まだ、布の男たちがいるかもしれない。


 鉄格子の奥で、二人目の子どもが光に包まれた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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