第36話 村へ続く道
『代替経路候補を検出:村側』
スマホの画面に浮かんだ文字を、俺は見つめた。
村側。
マリとナギがいる場所。
サヨがいて、ハルキたちが帰る場所。
薬草を乾かし、火を起こし、少しずつ「暮らし」を作ってきた場所。
そこへ続く道が、あるという。
「AI」
「はい」
「村のどこだ」
「現時点では特定できません。複数の反応源が重なっているため、位置を確定できません」
「複数?」
「地下施設、北の森の門、東の山の祠、村近傍にある反応が、同じ系統で接続されている可能性があります」
「村の中に、門があるのか」
「門そのものとは断定できません。ただし、代替経路となる構造、媒介、または接続装置が存在する可能性があります」
仮面の男が、初めてはっきり動揺した。
「村側?」
白い仮面の下から、低い声が漏れる。
「あり得ない」
「何があり得ない」
俺は聞く。
「村の近くに、何がある」
「あなたには関係ありません」
「今さらそれは通らないだろ」
子どもたちの首元で、白い石が光っている。
ユウは苦しそうに胸元を押さえ、鉄格子のそばに座り込んでいた。
「スズキ」
「いる」
「……いたい」
「分かってる」
俺は画面へ目を落とす。
接続対象の解除。
その文字に触れれば、子どもたちの首飾りへの反応がさらに強くなるかもしれない。
でも、何もしなければ、ここで一人だけ選ばされる。
「AI」
「はい」
「子どもたちの首飾りを、完全に止めなくていい。少しだけ反応を弱くできるか」
「一時的な干渉は可能性があります。ただし、白い石状の装置が接続維持に使用されている場合、対象者の意識や身体状態への影響を予測できません」
「要するに、やるなら危ない」
「はい」
「でも、何もしないよりはましだ」
仮面の男が一歩前へ出る。
「やめなさい」
「お前に命令される理由はない」
「候補たちの接続を乱せば、記憶と身体機能に回復不能な影響が出ます」
「それを今までやってきたのは誰だ」
「我々は維持している」
「閉じ込めて、怖がらせて、選ばせてか」
仮面の男は答えなかった。
その沈黙で、俺は決めた。
「AI」
「はい」
「一番弱い干渉でいい。まず、ユウだけ」
「対象識別:ユウを優先します。最小出力で試行します」
「ユウ」
俺は鉄格子の前へ寄る。
「少しだけ我慢できるか」
「……こわい」
「俺も怖い」
「でも、する?」
「ここから出る方法を作るために」
ユウは涙を浮かべたまま、少しだけ頷いた。
「……うん」
「実行します」
スマホの画面が、淡い青色に変わった。
ユウの首飾りが、一度だけ強く光る。
「うっ」
ユウが目を閉じる。
「ユウ!」
「……だいじょうぶ」
白い石の光が、少しだけ弱まった。
同時に、壁に浮かんでいた図形の一部が消える。
鉄格子の中央に埋め込まれていた白い留め具も、明滅を始めた。
「留め具の反応が低下しています」
AIが言う。
「物理的な解除が可能になるかもしれません」
「ハルキ!」
俺は地上へ続く石段の方へ叫んだ。
「聞こえるか!」
返事はすぐにはなかった。
代わりに、上の方で何かが倒れる音がする。
がんっ。
「スズキ!」
ハルキの声。
「無事か!」
「こっちにいる!」
「白い連中を押し返した! 今から降りる!」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「レオもいる!」
「いるぞ!」
レオの声が続く。
「だが、後ろからまだ来る!」
石段の上で、白い光が揺れた。
白い服の人間たちが、追ってきているのかもしれない。
「急げ!」
俺が叫ぶ。
仮面の男が、初めて声を荒げた。
「鍵を確保しろ!」
鉄格子の奥にいた白い服の者たちが動く。
それまで壁際に立っていただけだった二人が、こちらへ近づいてくる。
子どもたちの前に立ち、ユウを後ろへ下げようとする。
「触るな!」
俺は鉄格子を掴んだ。
白い留め具は、まだ完全には消えていない。
でも、さっきよりも光が弱い。
「AI、留め具を開けるには」
「白い石の内部に、可動部らしき構造があります。右側へ押し込み、同時に下へ動かすと解除される可能性があります」
「普通に開けられるようになってるじゃないか」
「一時的な反応低下によるものと思われます」
俺は指を鉄格子の隙間へ入れる。
留め具は冷たかった。
石のように見えるが、触ると少しだけ柔らかい。
「右へ、下」
力を入れる。
動かない。
「もっとだ」
俺は歯を食いしばる。
白い服の男が、格子の向こうからこちらへ手を伸ばす。
「やめろ」
「嫌だ」
「候補を移送する」
「だから嫌だって言ってる」
もう一度、留め具を押す。
がちっ。
小さな音がした。
白い石が、右へずれた。
「外れた!」
鉄格子が少しだけ揺れる。
「ユウ、下がってろ!」
「うん!」
俺は格子を引いた。
ぎい、と鈍い音。
鉄格子が、ほんの少し開く。
でも、人が通るには狭い。
「ハルキ!」
「来た!」
石段を駆け下りてきたハルキが、俺の横へ滑り込む。
後ろにはレオ。
「何をしてる」
「子どもを出す」
「見れば分かる!」
ハルキは格子へ手をかけた。
「レオ、後ろを頼む!」
「任せろ!」
レオが石段側へ向き、投石袋を握る。
ハルキと俺が同時に格子を引く。
ぎぎぎ、と音がする。
あと少し。
白い服の男が、格子の奥で子どもたちへ手を伸ばす。
「候補を確保しろ!」
「ユウ!」
俺が叫ぶ。
「こっちへ来い!」
ユウが、震えながら走ってくる。
開いた隙間は、子ども一人なら通れそうだった。
「スズキ!」
ユウが格子の前に来る。
「手を出せ!」
ユウが小さな手を伸ばす。
俺は、その手を掴んだ。
その瞬間。
地下全体が、大きく揺れた。
ごおおおおおんっ。
壁の模様が、一斉に白く光る。
「まずい!」
AIの声が、少しだけ歪んだ。
「接続網全体で異常反応。村側の代替経路候補が活性化しています」
「村?」
「はい。東の山の施設と村近傍の反応が同期を開始」
白い壁の図形が変わる。
北の森。
東の山。
そして、村側。
村に近い位置にある印が、急速に明るくなる。
「何があるんだ」
俺が言うと、仮面の男が後ずさった。
「まさか……」
「知ってるのか!」
「それは、封鎖された経路だ」
「どこだ!」
「村の中心ではない」
仮面の男が、白い壁を見つめたまま言う。
「村の外れ。水の流れる場所。古い石が沈んだ場所」
俺の頭に、ひとつの場所が浮かんだ。
川。
最初に魚を取った川。
マリと歩いた川。
水を汲み、罠を仕掛け、薬草を探した場所。
「川か」
「川そのものではない」
仮面の男が言う。
「川の上流。岩と倒木の近く――」
息が止まった。
俺たちの拠点。
最初に目を覚ました場所。
焚き火を起こした岩陰。
マリを拾った、あの場所。
「……拠点」
俺が呟いた瞬間。
スマホの画面が大きく震えた。
『代替経路候補:活性化』
『接続地点:岩と倒木の拠点』
『接続開始まで:00:09:59』
九分五十九秒。
村から東の山まで、今から戻って間に合う距離じゃない。
ユウの手を掴んだまま、俺は画面を見つめた。
十分後。
俺たちが最初に暮らし始めた場所で、何かが開く。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
ChatGPT




