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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第34話 降りる鍵

「鍵を、降ろせ」


 石台の下から聞こえた声は、子どものものではなかった。


 低くて、平らで、感情がない。

 けれど、命令だけははっきりしていた。


 白い光が、石台の割れ目から漏れ始める。


「ハルキ!」


「動くな!」


 ハルキは穴へ入れかけていた身体を止め、すぐに後ろへ引いた。


 その判断が遅れていたら、石台の下へ半分潜り込んだまま閉じ込められていたかもしれない。


 祠の外では、レオが笛を握ったまま木々の方を睨んでいる。


「白い布が見えた!」


「一人か!」


「分からない! でも、さっきの足跡は新しい!」


 白い服。

 白い仮面。

 ナギが話した、白い場所の人間。


 ここまで来ている。


「AI」


「はい」


「石台の下に、何がある」


「内部構造を完全には把握できません。ですが、地下空間に複数の反応を確認しています」


「子どもの反応か」


「ユウ氏に関連する反応とは異なります。ただし、白い場所と同系統の信号である可能性があります」


「つまり、分からない」


「はい」


 正直で助かる。


 でも、今はもう少し分かってほしい。


 石台の下から、また声がした。


「鈴木」


 今度は、俺の名前をはっきり呼んだ。


「降りろ」


「嫌だ」


「お前は戻りたくないのか」


 胸の奥が、わずかに揺れた。


 元の世界へ帰る道。


 北の森で一度だけ見えた、コンビニの光。

 白い壁。

 自動ドア。

 普通の生活。


 でも、俺はもう知っている。


 この声は、俺に選ばせるふりをしているだけだ。


「帰りたいと思ってる」


 俺は石台に向かって言った。


「でも、お前の言う通りにはしない」


 白い光が、少しだけ強くなる。


「なら、子どもを捨てるか」


 その言葉の直後。


 地下の奥から、かすかな泣き声が聞こえた。


「……たすけて」


 今度は、本当に子どもの声だった。


 マリやナギと同じくらいの、小さな声。


 俺の足が、思わず前へ出る。


「スズキ」


 ハルキが俺の肩をつかんだ。


「止まれ」


「聞こえただろ」


「聞こえた」


「子どもがいる」


「いるかもしれない」


「じゃあ」


「だから、急ぐな」


 ハルキの声は強かった。


「声を使って誘う奴らだ。俺たちは、それをもう見てきた」


 正しい。


 また正しい。


 それでも、地下から聞こえる泣き声は、本物にしか聞こえなかった。


 そのとき、祠の外で枝が折れた。


 ばきっ。


「来る!」


 レオが叫ぶ。


 木々の向こうから、白い布をまとった影が三人現れた。


 顔は布で覆われている。

 手には、長い杖のようなもの。


 村の北の森にいた男たちとは違う。


 動きが静かすぎる。


「白い人」


 ナギが言っていた言葉が、頭をよぎった。


「鍵を保護する」


 中央の一人が言った。


「鈴木。抵抗は不要です」


「保護って、子どもを縛ることか」


「管理です」


「同じだろ」


 白い人間は、少しも表情を変えない。


 顔が見えないから、そもそも変えようがない。


「鍵は、不安定です」


 中央の男が続ける。


「門の選択を拒否した。接続を破損させた。これ以上の自由行動は許可できません」


「許可されるつもりもない」


「その判断は、対象個体に委ねられていません」


 その言葉で、腹の奥が熱くなる。


 俺は誰かの道具じゃない。


 鍵でも、対象個体でもない。


「ハルキ」


 俺は小声で言った。


「レオと二人で、外へ出られるか」


「お前は」


「俺が時間を作る」


「馬鹿言うな」


「子どもの声が地下にある」


「だから、お前を置いて逃げろって?」


「違う。地下を確認する。その間、外の連中を止めてほしい」


 ハルキは、すぐに答えなかった。


 でも、白い人間たちは近づいてくる。


 祠の狭い入口。

 背後には石台。

 地下へ続く穴。


 逃げ道は少ない。


「AI」


「はい」


「石台の反応を乱せるか」


「端末からの発光、警報音、または門の反応に対する簡易応答が可能です」


「相手を混乱させられるか」


「可能性はあります。ただし、端末への影響は保証できません」


「お前が止まるかもしれないってことか」


「可能性があります」


 胸が少し痛んだ。


 この世界で、俺が最初から持っていた唯一のもの。


 火の起こし方も、薬草も、村の道も知らなかった俺を、ずっと支えてくれた。


「……悪いな」


「謝罪の理由が不明です」


「今から、無茶をさせる」


「状況から判断して、危険を減らす目的なら協力します」


 いつもの声だった。


 それが、妙にありがたかった。


「鈴木」


 白い人間が、もう一度言う。


「同行してください」


「断る」


「拒否は記録済みです」


「じゃあ、また記録しとけ」


 俺はスマホを石台へ向けた。


「AI、やれ」


「実行します」


 画面が、強く白く光った。


 その瞬間、石台の下から漏れていた光が、一気に跳ね上がる。


 ごおおおお……。


 祠全体が低く震えた。


「何をした!」


 白い人間の一人が、初めて声を荒げた。


「接続反応が乱れています!」


「鍵を確保しろ!」


 三人が同時に動く。


「レオ!」


 ハルキが叫んだ。


 レオは、入口の脇に置いていた石を拾い、白い人間の足元へ投げた。


 石が地面に当たり、乾いた音が響く。


 一人の足が止まる。


 ハルキは、その隙に俺の前へ出た。


 長い杖を横から弾く。


 木と木がぶつかる音。


「鈴木、行くなら今だ!」


「地下を見る!」


「見るだけで戻れ!」


「分かってる!」


「本当だな!」


「たぶん!」


「そこは本当って言え!」


 返事をする余裕はなかった。


 地下からまた子どもの声がした。


「……たすけて」


 今度は、はっきり聞こえた。


 石台の割れ目の奥。


 そこには、下へ続く石段があった。


 細い。

 暗い。


 でも、誰かが通った跡がある。


 俺はスマホの光を下へ向ける。


「AI」


「現在の反応強度では、地下空間への進入は危険です」


「分かってる」


「単独での侵入は推奨しません」


「ハルキは来られるか」


 背後で、白い人間とハルキたちがぶつかる音がする。


「現状では困難です」


「じゃあ、入口だけ確認する」


「推奨しません」


「でも行く」


「……了解しました」


 俺は石段を一段、下りた。


 その瞬間。


 祠の上で、何かが大きく割れる音がした。


 ばきんっ。


 白い光が、地下から溢れ出す。


 石段の壁に、あの記号がいくつも浮かび上がった。


 北の森の門。

 ユウの石。

 白い場所の壁。


 全部と同じ模様。


「スズキ!」


 今度の声は、ハルキではない。


 地下の奥から、子どもの声がした。


「ここ!」


 光の向こう。


 鉄格子のようなものが見える。


 その奥に、白い服を着た子どもたちがいた。


 一人。

 二人。


 いや。


 何人も。


「……十五」


 スマホが小さく言った。


「複数の対象反応を確認。東の山で検出した反応と一致します」


 子どもたちは、白い壁際に座らされていた。


 全員が、こちらを見ている。


 その中に。


 ユウがいた。


「ユウ!」


 ユウが、ゆっくり顔を上げる。


「……スズキ」


 その声に、少しだけ安心が混じった。


 でも、次の瞬間。


 白い服の子どもたちの後ろに、大きな影が立ち上がった。


 鉄格子の奥。


 白い仮面。


「歓迎します」


 低い声が、地下に響く。


「鍵よ。ようやく、こちら側へ来ましたね」

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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