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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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33/51

第33話 祠に残る声

 東の山へ入ってから、半日が過ぎていた。


 村の近くにある森とは、木の生え方が違う。


 枝は高く、地面には岩が多い。

 谷沿いを進んでいるはずなのに、水の音さえ遠い。


「足元を見ろ」


 先を歩くハルキが言った。


「ここの岩は濡れてなくても滑る」


「分かってる」


「本当にか」


「今のところ転んでない」


「まだな」


 レオが後ろから小さく笑った。


 村を出てすぐのころは、俺も少し焦っていた。


 スマホの地図には、東の山の奥に白い点が増え続けている。


 ユウに関連する反応。

 それに似た、複数の反応。


 急がなければならない。


 でも、急げば迷う。


 結局、村で言われた通りだった。


「AI」


「はい」


「ユウの反応は」


「対象識別:ユウに関連する反応は、現在も維持されています」


「動いてるか」


「大きな移動は検出されていません。直近一時間では、東北東方向へわずかに変化している可能性があります」


「わずか、か」


「位置情報は推定です。山地の地形、遮蔽物、門由来の信号干渉により誤差が拡大しています」


「つまり、あまり当てにするなってことだな」


「完全に当てにしないことは推奨しません」


「そこは否定するのか」


「記録は存在します」


 ハルキが振り返る。


「何か分かったか」


「ユウの反応は、まだ消えてない。ただ、山のせいで誤差が大きいらしい」


「生きてるかどうかは」


「分からない」


 その答えに、誰も何も言わなかった。


 谷沿いの獣道を、さらに進む。


 途中で、木の幹に古い傷を見つけた。


 斜めに三本。

 そして、その下に丸い印。


「これ」


 俺が立ち止まると、レオが近づいてきた。


「獣の爪痕じゃないな」


「人がつけたのか」


「たぶん」


 スマホを近づける。


「AI、記録して」


「画像を保存します」


 画面に映った印を見て、俺は息を止めた。


 北の森の石の門。

 白い場所の記憶。

 ユウの首元に下がっていた石。


 それらにあったものと、似た形だった。


「同一の記号か」


 ハルキが聞く。


「完全には同じじゃない。でも、同じ系統に見える」


「案内の印かもしれないな」


 レオが言った。


「この山に入った人間が、迷わないようにつけた」


「でも、普通の山道なら矢印とかにしないか」


「普通の人間じゃないんだろ」


 ハルキの言葉に、少しだけ寒気がした。


 少し進むと、木々の向こうに石段が見えた。


 苔むして、半分ほど土に埋もれている。


 人が歩くためのものだったはずなのに、今は森に飲まれかけていた。


「祠か」


 ハルキが呟く。


 石段の上には、小さな建物がある。


 屋根は傾き、壁も一部崩れている。

 でも、完全な廃墟ではない。


 入口には、古い縄が残っていた。


「村で聞いた祠の跡だな」


 レオが周囲を見回す。


「ここまでは来られる、って言ってた場所」


 俺はスマホを見る。


「AI、ユウの反応は」


「祠の東側、推定八百メートル前後です」


「近いな」


「直線距離です。実際の移動距離は地形により変化します」


「それでも、さっきよりは近い」


 ハルキは、祠の入口で止まった。


「休むならここだ」


「中に入るのか」


「入る前に、周りを見ろ」


 言われて、俺は石段の端へ目を向けた。


 泥の上に、足跡があった。


 小さな足跡。


 裸足のようにも見える。


 その周りには、大人の足跡がいくつも重なっている。


「子どもがいる」


 俺が言う。


「いた、かもしれん」


 ハルキはしゃがみ込む。


「新しくはない。雨の前の跡だ」


「どれくらい前だ」


「分からん。だが、数日前よりは前かもしれない」


「ユウじゃない?」


「可能性はある」


 レオは、祠の裏手へ回った。


「こっちにもある」


 そこには、引きずったような跡が残っていた。


 荷物か。

 それとも、人か。


「嫌な跡だな」


 俺が言うと、ハルキは答えなかった。


 祠の中は暗かった。


 光が入る隙間は少ない。

 中央には、崩れた石の台がある。


 その表面に、あの記号が刻まれていた。


 丸い形。

 線が伸びている。


 石の門にあったものと、似ている。


「まただ」


 俺は近づき、スマホを取り出した。


「AI、これも」


「記録します」


 画面に石の模様を映した、その瞬間。


 スマホが小さく震えた。


「スズキ」


「何だ」


「石台の内部、または下部から、微弱な同系統反応を検出しました」


「中?」


「はい。石台の下、または奥に空間が存在する可能性があります」


 レオが、石台の周囲を見た。


「隙間がある」


 台の横に、細い割れ目がある。


 手を入れるほどではないが、下へ続く暗い空間が見えた。


「地下か」


 ハルキが言う。


「昔の貯蔵穴かもしれん」


「入るのか」


「まだだ」


 ハルキは即答した。


「先に出口を確認する。中へ入って、後ろを塞がれたら終わりだ」


 その慎重さに、俺も頷いた。


 祠の外へ出て、周囲を回る。


 裏手には、崩れた石垣があった。

 その向こうに、細い道が続いている。


 でも、道の先には何も見えない。


「ここから東へ行けば、ユウの反応に近づく」


 俺が言う。


「ただ、祠の下にも反応がある」


「二つあるなら、どっちが本物だ」


 レオが言った。


「片方は罠かもしれない」


「門の連中なら、どっちも罠にできる」


 ハルキの声は低かった。


 そのとき。


 祠の中から、かすかな音が聞こえた。


 こつ。


 石を叩くような、小さな音。


 全員が動きを止める。


「風か」


 レオが小声で言う。


「地下から風が抜けてるのかもしれない」


 こつ。


 もう一度。


 今度は、はっきり聞こえた。


「誰かいる」


 俺は祠の入口を見る。


「子どもかもしれん」


 ハルキが、短い刃物を抜く。


「近づくな。俺が見る」


「一人で行くな」


「入口までだ」


 ハルキが祠へ入る。


 レオは外で周囲を警戒する。


 俺は石段の下を見張る。


 数秒後。


 ハルキの声が、祠の中からした。


「鈴木」


「どうした」


「聞こえるか」


 耳を澄ます。


 最初は、何も聞こえなかった。


 風が木を揺らす音。

 鳥の声。

 遠くで石が転がる音。


 その下に。


「……マリ」


 小さな声がした。


 俺の呼吸が止まる。


「……マリ?」


 子どもの声だった。


 でも、マリは村にいる。


 ナギも、村にいる。


 俺は祠の入口へ駆け寄った。


「待て!」


 ハルキの声が飛ぶ。


 でも、石台の下から、もう一度声がした。


「……マリ、いる?」


 その声は、震えていた。


 助けを求める声だった。


「AI」


 俺はスマホを握る。


「声の方向は」


「石台下部からの反響音が強く検出されています。地下空間の可能性が高いです」


「子どもの声か」


「年齢推定は困難です。ただし、小児の声質に近いと判断します」


 ハルキが石台の横にしゃがみ込む。


「鈴木。ここは狭い」


「分かってる」


「俺が先に入る」


「でも、声はマリを知ってる」


「だから罠かもしれん」


「本当に子どもだったら」


「助ける」


 ハルキは、俺をまっすぐ見た。


「だが、全員で罠に落ちるのは助けることじゃない」


 その言葉で、俺は止まった。


 助けたい。


 今すぐ石をどけて、下へ行きたい。


 でも、子どもの声を使う相手がいることを、俺たちはもう知っている。


「レオ」


 ハルキが言う。


「外を見てろ。何か来たら笛を吹け」


「分かった」


「鈴木、お前は入口で光を使え。俺が下へ入る」


「スマホの光は狙われる」


「今は必要だ」


 俺は頷いた。


 画面の明るさを少し上げる。


 石台の割れ目へ向けると、地下へ続く細い穴が見えた。


 人一人が、這って入れるかどうか。


 中は暗い。


「行くぞ」


 ハルキが穴へ身体を入れかける。


 そのとき。


 祠の外から、レオの短い笛が鳴った。


 ぴいっ。


「何だ」


 ハルキが止まる。


 レオの声が、外から飛んできた。


「足跡がある!」


「誰のだ」


「新しい! 祠の裏から、こっちへ向かってる!」


 俺たちは、同時に振り返った。


 石段の上。

 木々の間。


 誰もいないはずの場所に、白い布が一瞬だけ揺れた。


 その直後、地下から聞こえていた声が、急に変わった。


 子どもの声ではない。


 低く、平らな声。


「鍵を、降ろせ」


 石台の下から、白い光が漏れ始めた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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