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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第31話 鍵を返して

「……『鍵を返して』です!」


 村の入口から届いた声に、部屋の空気が凍った。


 鍵。


 また、その言葉だ。


 北の森の門。

 白い場所。

 俺を連れてこいと言った男たち。

 そして今、村の入口に現れた子ども。


「子どもが、一人で来たのか」


 ゴウダが低く聞く。


「はい!」


 外の村人が答える。


「でも、近づこうとしません! ずっと北の森の方を向いたままです!」


「連れてこられたんじゃないのか」


 ハルキが言う。


「誰かが近くにいる可能性がある」


「見張りを増やせ」


 ゴウダはすぐに命じた。


「村の外へは出るな。入口の柵も開けるな。子どもへ水を渡せるか確認しろ」


「分かりました!」


 男が走っていく。


 ナギが、寝具の上で震え始めた。


「……あの子」


「知ってるのか」


 俺が尋ねる。


 ナギは、すぐには答えられなかった。


 唇を動かす。

 でも、声が出ない。


「ナギ」


 マリが、そっとナギの手を握る。


「こわい?」


 ナギは小さく頷いた。


「……しろいところ」


「白い場所にいた子?」


「うん」


「名前、分かる?」


 ナギは目を閉じる。


 記憶の底から、何かを掴もうとしている。


「……ユウ」


 やっと、そう言った。


「ユウ?」


「ちいさい。いつも、ないてた」


 マリの顔が曇る。


「今も、ないてる?」


「たぶん」


 ナギの声は震えていた。


「でも、あの子……ひとりじゃ、こない」


 その言葉で、全員が顔を上げた。


「どういう意味だ」


 ハルキが聞く。


「白いひとは、いつも見てた」


「白い服の奴らか」


 ナギは頷く。


「ユウが歩くときも、眠るときも。ずっと」


「なら、入口にいる子どもは、誰かに使われている」


 サヨが言った。


「言葉だけ繰り返させて、村の反応を見ているのかもしれない」


「鍵を返せ、か」


 ゴウダが俺を見る。


「鈴木を渡せと言っている可能性が高い」


「俺のことだろうな」


「行くな」


 ハルキが即座に言った。


「分かってる」


「本当に?」


「今は分かってる」


 ハルキは何か言い返しかけたが、やめた。


 俺も、正面から村の入口へ出ていくつもりはない。


 それが相手の望みなら、なおさらだ。


「でも、ユウはどうする」


 マリが言った。


「こわいよ」


「分かってる」


「たすける?」


 俺は答えに詰まった。


 ナギを助けたばかりだ。


 今度は、別の子どもが村の外にいる。


 助けない、と言うことはできない。


 でも、助けるために俺が出れば、相手はまた門へ連れていこうとする。


「ユウに近づかず、村に入れる方法を考える」


 ゴウダが言った。


「まず、北の森側に誰がいるかを見なければならん」


「俺が見てくる」


 ハルキが言う。


「一人ではだめよ」


 サヨがすぐに止める。


「今は、村の中を空けるべきじゃない」


「でも、入口に子どもがいる」


「村の見張りと、柵の上から見ればいい。相手が近くにいれば、動きがあるはず」


 ゴウダは頷いた。


「鈴木は、入口へ行くな」


「……分かった」


「マリもナギも、家から出すな」


 マリが少しだけ不満そうに唇を結ぶ。


「でも」


「マリ」


 俺が呼ぶ。


「今は、ここにいてくれ」


「……しらせる、しごと?」


「ああ。何か聞こえたら、サヨに言う」


「うん」


 自分の役目を思い出したのか、マリは小さく頷いた。


 俺、ハルキ、ゴウダ、サヨは、サヨの家から少し離れた見張り台へ向かった。


 正確には、村の入口近くに組まれた木の足場だ。


 大人が二人ほど登れば、柵の外を見渡せる。


 俺は足場の下に立ち、スマホを布の内側から取り出した。


「AI」


「はい」


「入口の外を見られるか」


「映像記録を開始します」


 画面には、薄暗い村の外れが映った。


 木柵の外。


 少し離れた地面に、小さな子どもが立っている。


 ナギよりも小さい。

 マリよりも小さいかもしれない。


 薄い白い服。

 泥で汚れた裸足。

 髪は短く、顔は俯いている。


「ユウ」


 ナギが言っていた名前を、俺は小さく繰り返した。


 ユウは、村の入口を見ている。


 でも、助けを求めているわけではない。


 唇が、一定の間隔で動いていた。


「……鍵を返して」


 聞こえないほど小さな声。


 でも、スマホの記録には残る。


「……鍵を返して」


 同じ言葉。


 同じ声。


 何度も。


「誰かに言わされてるな」


 ハルキが、足場の上から言う。


「周りは」


「見える範囲に人影はない」


 ゴウダが答える。


「だが、森の中までは見えん」


「AI」


「周辺音声を解析中です」


 数秒後、スマホが答えた。


「子どもの背後、北側の木立に、複数の微小音を確認しています」


「人数は」


「正確には不明です。少なくとも複数人、または複数の音源が存在する可能性があります」


「金属音はあるか」


「断続的に硬質音を検出しています。刃物、金具、または罠に用いる器具の接触音である可能性があります」


 ハルキの顔が固くなる。


「子どもの後ろに人を隠してる」


「村の門を開けさせるためか」


 ゴウダが言う。


「あるいは、こちらがユウへ近づくのを待っている」


「どっちにしても、柵は開けられない」


 だが、ユウは外にいる。


 小さな身体で、村へ入れてもらえないまま立っている。


「水を渡せないか」


 俺が言う。


「柵の隙間から、器を滑らせるとか」


「罠なら」


 ゴウダが言った。


「水を取りに来た子を引っ張るかもしれん」


「でも」


「分かっている」


 ゴウダの声も苦しそうだった。


「子どもを見捨てたいわけではない」


 そのとき。


 ユウが、急に顔を上げた。


 目が、村の見張り台ではなく、俺のいる方向を見た。


 正確には。


 俺の手の中のスマホを。


「……鍵」


 ユウが、はっきり言った。


「鍵、いる」


 心臓が強く鳴る。


 俺は反射的に、スマホを布の中へ隠した。


「スズキ」


 AIの声が聞こえる。


「対象児童の視線は、端末位置と一致しています」


「見えてるのか」


「不明です。ただし、端末からの微弱な反応を感知している可能性があります」


「子どもが?」


「あるいは、対象児童に付与された装置、印、または外部干渉の媒介が存在する可能性があります」


 ユウの首元に、何かが見えた。


 白い服の下。


 細い革紐。


 そこに、小さな石の欠片のようなものが下がっている。


 北の森の石の門にあった模様と、同じ形。


「首のやつだ」


 俺が言う。


「門の印かもしれない」


 そのとき、ユウがふらりと前へ歩いた。


「止まれ!」


 見張りの男が叫ぶ。


 でも、ユウは止まらない。


 木柵の前まで歩き、両手をそっと柵へ置いた。


「鍵を返して」


 その声が、少しだけ変わった。


 子どもの声ではない。


 低い。

 平らだ。


 誰か別の人間が、ユウの口を使って話しているような声。


「鈴木。門を閉じた責任を取れ」


 周囲の村人たちが、息をのんだ。


 ユウの目は開いている。


 でも、焦点が合っていない。


「鍵を返せ。さもなくば、次の子どもを送る」


「ふざけるな」


 俺は思わず言った。


 ハルキが、俺を見る。


「出るな」


「出ない」


 俺は柵の内側から、ユウへ言った。


「子どもを使うな。話があるなら、お前が出てこい」


 ユウの首が、ゆっくり傾いた。


「話す資格はない」


 低い声。


「お前は帰還を拒否した」


「誰か一人だけ選べって言われたからな」


「条件は守られるためにある」


「誰を守る条件だ」


 返事はない。


 代わりに、ユウの首元の石が淡く光った。


「AI」


「異常な反応を検知。首元の装置から、門と類似する信号が出ています」


「ユウ自身が、門につながれてる」


「可能性が高いです」


 ユウの身体が、少しだけ震えた。


「……やだ」


 今度は、子どもの声だった。


「こわい」


 首元の石を押さえ、ユウがうずくまる。


「やだ、いたい」


「ユウ!」


 ナギの声が、背後からした。


 止められていたはずのナギが、サヨの家の方から走ってきていた。


 マリもその後ろにいる。


 さらに遅れて、サヨの家に残っていた村人が追ってくる。


「ナギ!」


 ハルキが叫ぶ。


「来るな!」


 でも、ナギは止まらない。


 村の入口まで走り、柵の内側からユウを見る。


「ユウ!」


 ユウが、顔を上げる。


 首元の石が光る。


 その瞬間、森の北側で笛のような高い音が鳴った。


 ユウの足元の地面が、白く光り始める。


「まずい!」


 AIの声が切迫した。


「対象児童の周辺に、門と同系統の転移反応を検出!」


「転移?」


 ユウの身体が、白い光に包まれる。


「ユウ!」


 ナギが柵へしがみつく。


 ユウは、泣きそうな顔でこちらを見た。


「……マリ」


 マリが、震える声で答える。


「いる!」


「ナギ」


「いる!」


 ユウが、最後に俺を見る。


「スズキ」


「ああ」


「……たすけて」


 その言葉と同時に、白い光が爆ぜた。


 村の入口が、一瞬だけ昼間のように明るくなる。


 目を開けたとき。


 柵の外に、ユウの姿はなかった。


 残っていたのは、首に下がっていた小さな石の欠片だけだった。


 そして、スマホの画面には、新しい表示が出ていた。


『接続先を更新しました』


『対象識別:ユウ』


『位置情報:取得可能』


 地図の上に、白い点が一つ浮かぶ。


 北の森ではない。


 村から、さらに東。


 誰も行ったことがないと言われる、深い山の方角だった。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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