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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第27話 北の光

 北の森に、子どもがいる。


 スマホの画面に映った小さな影を、俺は何度も見直した。


 白い光。

 複数の人影。

 そして、その中央にいる小さな影。


「……マリじゃない」


 口に出すと、胸の奥が少しだけ痛んだ。


「服装の色、体格、立ち位置から、マリ氏とは別人である可能性が高いです」


 AIが答える。


「子ども、いる?」


 作業小屋の入口から、マリの声がした。


 いつの間にか、サヨと一緒に来ていた。

 俺の顔を見て、画面を見る。


 そこにいる影の意味を、すぐに察したらしい。


「……ひとり?」


「たぶんな」


「こわい?」


「ああ。たぶん怖い」


 マリは、少しだけ唇を噛んだ。


「たすける?」


 その問いに、誰もすぐには答えなかった。


 助けたい。


 でも、北の森には複数の人影がいる。

 相手が何者なのかも、どれだけ危険なのかも分からない。


 俺たちが行けば、相手の望みどおりになる可能性が高い。


「行くかどうかは、すぐに決めない」


 ゴウダが言った。


「子どもがいるなら放ってはおけん。だが、飛び込めば、次はこっちが捕まる」


「見に行く」


 ハルキが短く言う。


「村の北側から、光が見えた場所まで。近づかず、相手の数と動きを確かめる」


「俺も行く」


 俺は言った。


「鈴木」


 ハルキが眉を寄せる。


「お前が行けば、相手が欲しがってるものを連れていくことになる」


「でも、光の記録や、場所の確認にスマホがいる」


「それはそうだが」


「それに」


 俺は言葉を切った。


 マリが、俺を見ている。


 助ける。

 助けない。


 そのどちらも、今の俺には簡単に選べない。


「俺も、あの子を見て見捨てることはできない」


 ハルキはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく息を吐く。


「いい。ただし、前に出るな」


「分かってる」


「本当に?」


「今回は本当に分かってる」


「その言葉、もう信用しにくい」


 サヨが少しだけ笑った。


 でも、すぐに表情を引き締める。


「マリは村に残る」


「……わたしも」


「だめ」


 俺は先に言った。


 マリの目が揺れる。


「でも、ひと、いる」


「だからこそだ」


「わたし、わかるかも」


「何が」


「こわい、わかる」


 その言葉に、胸が詰まった。


 マリは、あの画面の中の子どもが、自分と同じように怖がっているかもしれないと考えている。

 だから行きたい。


「マリ」


 俺はしゃがむ。


「怖いことが分かるなら、今は村にいてほしい。もし俺たちが戻らなかったら、村の人に知らせる。マリにしか頼めない」


「……しらせる?」


「ああ。村にいる人のことを覚えてるだろ」


「ハルキ。サヨ。ゴウダ」


「そう。その人たちに、何があったか伝える」


 マリは黙った。


 行きたい。

 でも、自分に任された仕事を考えている。


 やがて、ゆっくり頷いた。


「……わかった」


「ありがとう」


「でも」


「ん?」


「もどる」


「ああ」


「やくそく」


「約束する」


 マリは少しだけ俺の手を握った。


 その手は小さい。

 でも、前よりずっと強かった。


 出る前に、村の中で簡単な準備をした。


 ハルキ。

 俺。

 そして、若い村人のレオという男。


 レオは見張りをしていた男で、森の道にも慣れているらしい。

 腰に短い刃物を下げ、弓の代わりに投石用の袋を持っていた。


「戦うためじゃない」


 ゴウダは、三人の前で言った。


「相手を見つけたら、数を確かめて戻れ。子どもが危険でも、正面から近づくな。村へ知らせ、助けを集める」


「分かってる」


 俺が答える。


「子どもを助けるなら、まずこっちが捕まらないことだ」


 ハルキが続けた。


「相手が待ち伏せしてる可能性もある。光は、俺たちを誘うための餌かもしれない」


「でも、子どもも餌かもしれない」


 俺は言った。


「そうだ」


 ハルキは否定しない。


「だから余計に、急ぐな」


 俺は腰の内側にスマホを隠し、その上から布を巻いた。


 画面は見えない。

 取り出すのにも少し時間がかかる。


「AI」


「はい」


「できるだけ音を出すな」


「了解しました。通知音を抑制します」


「光も最低限」


「画面輝度を低下させます」


 頼りになる。


 それでも、これを狙われている事実は消えない。


 村を出る直前、マリが走ってきた。


「スズキ」


「どうした」


 マリは、小さな布袋を差し出した。


 中には、乾いた香り草が入っている。


「これ」


「虫除けのやつか」


「……におい、わかる」


「俺たちが迷わないように?」


「うん」


 マリなりの助け方だった。


 俺は袋を受け取った。


「ありがとう。持っていく」


「なくさない?」


「なくさない」


「……ほんと?」


「本当」


 マリは少しだけ笑った。


 それを見て、俺は森の方を向いた。


 北の森へ入ると、空気が変わった。


 村側の森より、木が密集している。

 下草も深い。


 人が歩いた跡はあるが、道と呼べるほどではない。


「足跡は」


 俺が小声で尋ねる。


「ある」


 レオがしゃがみ込んだ。


「新しい。何人か通ってる」


「昨日の連中か」


「分からない。ただ、村の者の足跡じゃない」


 ハルキは、地面の泥を指で触れた。


「荷車は通ってない。人が荷を背負って動いてる」


「子どもを連れてる可能性は」


「ある」


 その言葉に、足が少し速くなりそうになる。


 でも、ハルキが振り返った。


「急ぐな」


「分かってる」


「足音が大きくなってる」


 俺は止まった。


 自分でも、気づかないうちに呼吸が荒くなっていた。


「……悪い」


「気持ちは分かる」


 ハルキはそれだけ言って、また前を向いた。


 しばらく進むと、森の中に不自然なものが増えてきた。


 木の幹に結ばれた細い布。

 草が踏み倒された場所。

 枝に引っかかった縄。


「印か」


 俺が言うと、レオが頷いた。


「道を覚えるためのものだろうな」


「村の者は使わない」


 ハルキが低く言った。


「つまり、相手の道だ」


 進むほどに、白い光が見えてくる。


 木々の間で、何度も瞬く。


 火ではない。

 普通の灯りでもない。


「AI」


「はい」


「光まで、どのくらいだ」


「歩行記録と音の減衰からの推定では、百メートル以上先です。ただし、木々の反射により誤差があります」


「人影は」


「複数。木々の遮蔽により正確な人数は不明です」


 俺たちは大きな岩の陰に身を寄せた。


 その先は、少し開けている。


 崩れた石がいくつも見える。

 まるで、昔の建物が森に飲まれたみたいだった。


「石の門」


 ハルキが呟く。


 円形に並んだ石。

 中央には、黒く沈んだ穴のようなものがある。


 そして、その前に白い光が置かれていた。


 光の正体は、石の上に乗せられた小さな透明な玉だった。


 中で淡い光が揺れている。


「魔道具か」


 レオが言った。


「俺たちの村にはない」


「近づくな」


 ハルキが止める。


 石の周りには、男たちがいた。


 木の影に隠れている者も含めれば、八人近くはいる。


 その中央に、小さな影。


 子どもだ。


 木の杭のそばに座らされている。

 手は縛られていないように見える。

 でも、逃げられない位置にいる。


「……いる」


 俺の口から、声が漏れた。


 その子どもは、マリより少し大きいかもしれない。


 髪は短く、顔は下を向いている。

 服は汚れている。


「助けられるか」


 俺が言うと、ハルキはすぐに首を振った。


「今は無理だ。人数が多すぎる」


「でも」


「見ろ」


 ハルキが石の中央を指した。


 穴のように見えた場所の周囲には、細い縄が何本も張られている。


 下草に隠されているが、足を踏み入れれば何かが鳴るか、引っかかる。


「罠だ」


「子どもの周りにも?」


「たぶんな」


 レオは、奥の木の上を見た。


「見張りが二人いる」


 逃げ道も、近づく道も、相手に押さえられている。


 俺たちがここへ来ることを、向こうは予想していた。


 そのときだった。


 白い玉の光が、一度だけ強く明滅した。


 森の空気が、びり、と震える。


「何だ」


 俺が息をのむ。


 石の中央。

 黒い穴のような場所に、細い光の線が浮かんだ。


 円の内側に、見たことのない模様が走る。


 文字なのか。

 記号なのか。


 腰の内側で、スマホが震えた。


「スズキ」


「静かに」


「重大な反応を検知しました」


「何だ」


「周囲の光ではありません。石の中央部から、端末内部の通信記録と類似する波形を検出しています」


 俺は、息を止めた。


 類似する波形。


 この世界に、スマホと似た何かがある。


 その直後、石の門の前に立っていた男が、こちらの岩場をまっすぐ見た。


 顔は、布で覆われている。


 だが、声ははっきり届いた。


「そこにいるのは分かっている」


 ハルキが、俺の腕をつかんだ。


「動くな」


 布の男は、白い光の玉を持ち上げる。


「鍵を連れてきたな、鈴木」


 どうして名前を知っている。


 俺が固まっていると、男のそばにいた子どもが、ゆっくり顔を上げた。


 その子は、かすれた声で言った。


「……スズキ?」


 マリと同じように。


 初めて名前を覚えた人間が、それを確かめるように呼ぶ声で。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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