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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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20/52

第20話 森の外れの相談

 翌朝、村からの呼び出しは、思ったより早かった。


 火を起こして、水を温める。


 いつもの朝の手順を終える前に、村の方から若い村人が一人、森の道を歩いてきた。


「ハルキが呼んでる」


「今からか」


「ああ。村の外れで話をする。昨日のことがあったからな」


 そりゃそうだ。


 小屋を見られた。


 村の薬草採りの場所も、たぶん狙われている。


 今までみたいに「採って、乾かして、持っていく」だけでは済まなくなった。


「マリはどうする」


 俺が尋ねると、マリは草履の紐を結びながら顔を上げた。


「……いく」


「話は難しいぞ」


「こや、だいじ」


「それはそうだけど」


「スズキも、いく」


「俺は行く」


「なら、わたしも」


 そこまで言われると、置いていく理由も弱い。


 俺は小さく息を吐いた。


「分かった。ただし、無理だと思ったらすぐ言え」


「……うん」


 スマホを胸ポケットへ入れ、俺たちは村へ向かった。


 朝の森は静かだった。


 静かすぎて、逆に昨日の夜のことが頭をよぎる。


 木々の隙間。


 足音。


 小屋の前で聞いた、知らない男たちの声。


「スズキ」


「なんだ」


「また、くる?」


「来るかもしれない」


「……こわい」


「怖いなら、気をつける」


「けいかい」


「そう。怖がるだけじゃなくて、周りを見る」


 マリは小さく頷いた。


 以前なら、怖いとだけ言って俺の服をつかんでいた。


 今は、その先の言葉を覚えようとしている。


 村の外れに着くと、空き小屋の前にはすでに人が集まっていた。


 ハルキ。


 サヨ。


 年配の男。


 それに、見たことのない中年の男が一人いる。


 男は短い杖を地面につき、こちらを見るなり口を開いた。


「こいつが森で暮らしているスズキか」


「そうだ」


 ハルキが答える。


「村のまとめ役をしてる、ゴウダだ」


「鈴木です」


「知ってる。変わった名だとも聞いた」


「それもよく言われます」


 ゴウダは笑わなかった。


 だが、敵意を向けているわけでもない。


 今はただ、村の外れで起きていることを整理したいのだろう。


「昨日の連中について、分かっていることを話してくれ」


 俺は、森で見つけた焚き火跡のことを話した。


 罠にかかっていたウサギ。


 薬草の生える場所を探っていたこと。


 小屋の周りへ来た二人組。


 そして、スマホに残っていた声。


「録音を再生します」


 スマホから、断片的な人声が流れる。


 焚き火の音と風の音が混じっていて、言葉ははっきりしない。


 それでも、AIが音を拾い直す。


「解析上、『場所』『小屋』『次』に近い音が含まれています。ただし、完全な発話内容としては確定できません」


 静かな朝の空気に、その不明瞭な声は嫌に生々しく響いた。


 ゴウダは腕を組み、目を閉じた。


「小屋を見ていたのは間違いなさそうだな」


「知ってるのか、ああいう連中を」


 俺が聞くと、ゴウダはゆっくり目を開けた。


「顔までは知らん。だが、森の向こうには小さな集落がいくつかある。薬草や獣皮を勝手に取って、別の町へ流す連中もいる」


「盗賊ってことか」


「そこまで大げさな連中とは限らん。だが、村の者が手入れしている採取場を狙うなら、放ってはおけん」


 ハルキが地面へ棒を突き立てた。


「昨日の二人だけじゃないかもしれない」


「そうだな」


 サヨが短く言った。


「小屋を見に来たなら、次は薬草を盗むか、壊すか。それか、私たちがどう動くか見ている」


 その言葉に、背中が冷たくなる。


 俺たちは昨夜、小屋を守った。


 でも相手からすれば、守る人間の数や動き方を確かめただけかもしれない。


「じゃあ、どうする」


 俺が尋ねると、ゴウダは杖の先で地面に三つの線を引いた。


「一つ。小屋を閉める」


 一本目を指す。


「薬草を村の中だけで扱う。外れの小屋は使わない」


「それだと、雨の日の作業が減る」


 サヨが言った。


「乾かす量も落ちる。村の薬草が足りなくなるかもしれない」


「分かっている」


 ゴウダは次の線を指した。


「二つ。見張りを増やし、小屋をこのまま使う」


「村の人手が減るな」


 ハルキが言う。


「畑も、薪も、薬草もある。毎晩人を出すのは難しい」


 そして三本目の線を指した。


「三つ。相手の場所を探る」


 空気が、少しだけ固くなった。


「森を見て回り、どこから来ているかを確認する。人数も、使っている道もだ」


「危ないだろ」


 俺はすぐに言った。


「危ない」


 ゴウダは否定しなかった。


「だが、何も知らずに守るだけでは、いつか後手に回る」


 誰もすぐには答えなかった。


 正論だ。


 でも、森へ入って知らない連中を探すなんて、俺にはできれば避けたい。


「スズキ」


 マリが、俺の袖を引いた。


「……さがす?」


「まだ決まってない」


「こわい」


「ああ」


「でも、しらないと、もっとこわい?」


 その言葉に、俺は少しだけ驚いた。


 怖いから目を背けるだけじゃなく、知らないことも怖いと分かっている。


「そうだな」


 ハルキがマリを見る。


 それから、少しだけ口元を緩めた。


「その通りだ」


 ゴウダは杖を地面から抜いた。


「村から二人出す。森を知っている者がいい」


「俺が行く」


 ハルキがすぐに言った。


「お前は薬草の場所も知ってる。相手が何を狙ってるか見分けられる」


「一人はだめだ」


 サヨが言う。


「相手が二人以上なら、少なくとも二人で動くべき」


「なら俺も行く」


 俺の口から、思ったより早く言葉が出た。


「スズキ」


 マリが不安そうに見上げる。


「昨日、俺たちはあの連中を見た。足跡も、焚き火跡も、罠も。何か見つけたら、俺のスマホで記録できる」


「危険だ」


 ゴウダが言う。


「お前は森に慣れているわけじゃない」


「分かってる。でも、相手の声を記録したのも俺だ」


 ハルキが、俺をじっと見た。


「昨日、逃げる判断は遅くなかった」


「褒めてるのか」


「半分はな」


「また半分か」


 サヨが小さく笑った。


 だが、ゴウダの顔はまだ硬い。


「子どもはどうする」


 その言葉に、全員の視線がマリへ集まった。


「わたしも」


 マリはすぐに言った。


「だめだ」


 俺とハルキの声が重なった。


 マリは一瞬だけ目を見開いた。


 それから、唇をきゅっと結ぶ。


「……でも」


「森を探るのは、薬草を採るのとは違う」


 俺はしゃがみ、マリと目の高さを合わせた。


「怖いものを探しに行く。何かあったら走る。隠れる。そういうことになる」


「わたしも、できる」


「できるかもしれない。でも、危ない」


「……スズキ、ひとり?」


「ハルキと行く。村の人も一人つく」


 マリは黙った。


 怒っているというより、置いていかれることが怖い顔だった。


 そのとき、サヨがマリの前にしゃがんだ。


「マリ。あなたには別の仕事がある」


「……しごと?」


「そう。ここで、乾かしている薬草を守る。もし誰かが来たら、村の人に知らせる」


 マリは少しだけ首をかしげた。


「まもる?」


「大事な仕事よ」


 サヨは小屋を指した。


「薬草は、スズキたちが森で採って、あなたも一緒に覚えてきたものでしょう。ここが壊されたら困る」


 マリは小屋の中を見る。


 高い場所に置かれた薬草。


 風を通すために開けられた入口。


 自分が「乾かす場所」と呼んでいた木板。


「……わたし、ここ」


「ああ」


 俺が言う。


「マリには、ここを守ってほしい」


 長い沈黙のあと、マリは小さく頷いた。


「……わかった」


 その返事に、胸の奥が少し痛んだ。


 無理をさせているかもしれない。


 でも、ただ置いていかれるのではなく、任せるものがあると分かれば、この子は前を向ける。


 話は決まった。


 明日の朝、ハルキと俺、それに村の若い男が一人、森の北側を見に行く。


 目的は戦うことじゃない。


 相手の人数と通り道を知ること。


 危険なら、すぐ戻ること。


「戦うな」


 ゴウダは念を押した。


「見つけたら逃げろ。小屋や村へ戻って知らせろ。それが一番大事だ」


「分かった」


「本当に分かったのか」


「今回は本当に分かってます」


「その言い方は信用ならん」


 ハルキが肩を揺らし、サヨが吹き出した。


 緊張していた空気が、ほんの少しだけゆるむ。


 そのときだった。


 村の入口の方で、誰かが大きな声を上げた。


「ゴウダさん!」


 全員が振り返る。


 見張りの村人が、息を切らして走ってきた。


 手には、泥で汚れた小さな布袋が握られていた。


「川沿いで見つけました。小屋の方から流れてきたみたいです」


 ゴウダが受け取り、袋の口を開く。


 中に入っていたのは、乾いた薬草だった。


 村で扱っているものと同じ種類。


 ただし、束ね方が雑だ。


 それだけではない。


 薬草の下から、薄い木片が一枚、滑り落ちた。


 表面には、刃物か炭のようなもので、乱暴な文字が刻まれている。


 この世界の文字は俺には読めない。


 だが、ゴウダの顔色が変わったことで、内容が穏やかではないと分かった。


「何て書いてある」


 ハルキが低く問う。


 ゴウダは、しばらく答えなかった。


 木片を握る手に、ゆっくり力が入る。


「……薬草を寄越せ、と書いてある」


「それだけか」


「違う」


 ゴウダは顔を上げた。


「三日後までに、村の外れの小屋へ持ってこい。従わなければ――」


 そこで、ゴウダの視線がマリへ向いた。


 ほんの一瞬だった。


 だが、それだけで、俺の心臓は嫌な音を立てた。


「森にいる子どもを連れていく、と」


 空気が止まった。


 俺の横で、マリが小さく息をのんだ。


 誰が、マリのことを知っている。


 いつから見ていた。


 森の連中は、小屋だけじゃない。


 俺たちの拠点も。


 マリも。


 もう、見つけられている。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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