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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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第16話 雨と小屋

 朝から、空が重かった。


 雲は低く、風も少しだけ湿っている。

 村へ行くかどうか迷うほどではないが、長居すると降りそうな気配がある。


「スズキ」


 火のそばで、マリが空を見上げた。


「なんだ」


「……あめ?」


「たぶん、来る」


「やだ」


 正直な反応だった。


 マリは雨そのものより、濡れて寒くなるのを嫌っている。

 セーターが乾きにくいことも、もう知っているからだ。


「今日は、空き小屋を見に行く」


「こや?」


「ああ。村の外れにあるやつだ。雨が来ても、少しはしのげるかもしれない」


「……うん」


 拠点を出るころには、風が少し強くなっていた。


 村へ向かう途中、木の葉がざわざわ鳴る。

 川の匂いも、いつもより湿っている。


 村に着くと、ハルキがすでに空き小屋の前にいた。


 今日は彼ひとりではなく、年配の村人とサヨも一緒だ。


「来たか」


「来た」


「雨が来る前に、少しだけ中を見ておけ」


 空き小屋は、昨日よりわずかに整って見えた。


 床には薄い藁が敷かれ、壁の隙間には古布が詰められている。

 補修はまだ半分だが、雨しのぎとしてはかなり良くなっていた。


「これなら、薬草を一時的に置くには前よりましだな」


「だろう」


 ハルキが胸を張るでもなく言う。


「村で余ってたものを寄せただけだ。完全じゃないが、何もないよりはいい」


 サヨは作業の手を止めずに言った。


「湿気がこもるから、置きっぱなしにはしないで。少しは風を通すこと」


「分かった」


「それと、床に直接置かない。藁だけだと湿気を吸う」


「藁だけじゃだめか」


「すぐに傷む。薬草も、藁も」


 その言葉に、俺は木の板と古布を交互に見た。


 やはり、まだ完全な保管場所とは言えない。

 だが、使える段階には近い。


 マリは小屋の入口で立ち止まっていた。


 外の雨気と、中のこもった匂いを比べているようだった。


「入るか」


「……うん」


 小屋の中へ入ると、マリはまず壁を見た。


 古布の隙間。

 木板の継ぎ目。

 床の藁。


 人の手で少しずつ整えられている空間だと分かるのだろう。


「ここ、つかえる?」


「使えるようにする」


 俺がそう言うと、マリは静かに頷いた。


 そのとき、外でぽつりと音がした。


 続けて、もう一つ。


 雨が落ち始めた。


「早いな」


 ハルキが空を見上げる。


「今日は一気に来るかもしれない」


「じゃあ、無理に移動しない方がいい」


 年配の男がそう言って、外の様子を見に行った。


 地面に水が溜まりやすい場所や、荷物を置く位置を確かめている。


「薬草は全部中に入れるな」


 サヨが俺に言う。


「湿気を吸いやすい束は、雨が強くなる前に持ち帰った方がいい。残すなら高い場所へ上げる」


「分かった」


 俺は小屋の中に置いていた薬草束をいくつか抱え、草袋へ移した。


 ただ、全部は持ち帰れない。

 残りは古い棚の上へ上げ、下に布を敷いておく。


「こういうとき、村の人間は手早いな」


 俺がそう言うと、ハルキが肩をすくめた。


「慣れてるだけだ。雨はいつでも面倒だからな」


 サヨが古布を少し持ち上げながら笑う。


「森暮らしのほうが不便でしょ」


「不便というか、手が足りない」


「それはそう」


 短いやり取りだったが、少しだけ空気が和らいだ。


 雨は、想像より早く強くなった。


 屋根を打つ音が、さっきまでの静けさをすぐに押し流す。

 小屋の中はまだ大丈夫だが、外へ出ると一瞬で濡れそうだった。


「今日はここで少し待つか」


 ハルキが言った。


「無理に帰ると、薬草も人も濡れる」


「それは困るな」


「だろ」


 小屋の奥で、サヨが火種の入った小さな器を持ってきた。


 雨の日に使う、簡単な火起こし用のものらしい。


「少しだけ火を使う」


「いいのか」


「戸口近くでな。煙がこもると面倒だから、長くは使わない」


 古い木片と乾いた繊維を使って、小さな火が起こる。


 焚き火ほどではない。

 戸口近くの火皿に、頼りない炎が揺れているだけだ。


 それでも、冷えた手を温めるには十分だった。


 マリは火のそばで、両手をかざしている。

 雨音を気にしながらも、少し安心した顔だった。


「寒いか」


「……ちょっと」


「こっち来い」


 そう言うと、マリは俺の近くへ寄った。


 小屋の中の火は弱い。

 それでも、雨の音が強い分、余計にありがたく感じる。


 しばらくして、年配の男が外から戻ってきた。


「道がぬかるんでる。今日は村の中を歩かせない方がいいな」


「じゃあ、この小屋で少し待ってから戻る」


「それがいい」


 男はそう言って、村の入口から少し離れた泥だまりを指した。


「このあたりは雨が来るとすぐに崩れる。荷を置くなら壁際、歩くなら板の上だ」


「覚えた」


「お前ら、覚えた顔はしてるがな」


「言われ慣れてる」


 それを聞いて、サヨがくすりと笑った。


 雨が一段落するまでのあいだ、俺たちは小屋の整備を少しだけ手伝った。


 床の藁を重ね直し、古布の隙間を埋め、薬草を置く高さを調整する。


 マリも、軽い木板を一枚運ぶのを手伝った。


「重くないか」


「……だいじょうぶ」


「無理すんなよ」


「してない」


 少しむくれたような返事だったが、声は明るい。


 こういう小さな作業でも、役に立てるのが嬉しいのかもしれない。


 やがて雨は少し弱まった。


 空はまだ暗いが、これ以上ひどくはならなそうだ。


「帰るなら今だな」


 ハルキが言う。


「完全に止むまで待つと、今度は暗くなる」


「分かった」


 村の外へ出るころには、地面はもうかなりぬかるんでいた。


 マリの草履では、少し歩きにくい。

 俺は何度か足を止め、ぬかるみの少ない場所を選んで進んだ。


 だが、空き小屋に荷を置ける目処が立っただけで、次からの動き方が変わる。


 森へ戻る道で、マリが何度か足元を気にした。


「泥、いや?」


「……うん」


「まあな。けど、こればかりは仕方ない」


「……こや、ある」


「そうだな」


「雨でも、だいじょぶ?」


「前よりは大丈夫になる」


 マリはその言葉を聞いて、少しだけ安心したように頷いた。


 拠点に戻ると、雨はまだ続いていた。


 焚き火を起こし直し、濡れた草履を火から少し離した場所へ置く。

 近づけすぎると傷みそうだから、ゆっくり乾かすしかない。


 薬草の袋も、火の熱が直接当たらない岩陰へ広げた。


「今日は、行ってよかったな」


「……うん」


「空き小屋があると、かなり違う」


「つかえる?」


「ああ。次からは、雨の日でも少しは動ける」


 マリは、火を見つめながら黙った。


 たぶん、雨の日の不安がひとつ減ったことを、自分なりに確かめている。


 その静けさの中で、俺は考えた。


 村の外れに小屋がある。

 そこへ薬草を一時的に置ける。

 雨の日でも、少しなら作業できる。


 それはただの便利さじゃない。


 森と村をつなぐ、細いが確かな足場だった。


「スズキ」


「ん?」


「また、あめ?」


「来るだろうな」


「……でも、だいじょうぶ?」


「たぶん、前よりは」


 マリは、ほんの少しだけ口元をゆるめた。


 その顔を見て、俺も少しだけ安心する。


 雨はまだ降っていた。


 だが、森だけで閉じていた暮らしは、もうこの雨で終わるほど弱くはない。


 村の外れにできた小屋が、次の一歩を支える。


 そんな予感が、静かな雨音の向こうで確かにしていた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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