第15話 村の外の仕事
村へ通う道は、もう「行けるかどうか」ではなくなっていた。
問題は、何を持っていくかだ。
今日は薬草だけじゃない。
ハルキから、村の外れにある空き小屋を少し見ておくように言われていた。
雨しのぎにもなるし、今後の荷の受け渡しにも使えるかもしれない。
「スズキ」
後ろを歩くマリが、小さく声を出した。
「なんだ」
「……きょう、どこ」
「村の外れだ。ハルキが言ってた空き小屋を見に行く」
「こや?」
「ああ。物置みたいな場所だな」
「……うん」
村へ着くと、まずハルキが来た。
作業小屋の前で、すでにいくつかの薬草束を並べている。
「今日はこれを運ぶ」
「全部か」
「全部じゃない。だが、量が増えたからな。村の外れの小屋に一時的に置ければ、雨でも少しは安心だ」
「なるほど」
ハルキは俺の反応を見て、それからマリへ目を向けた。
「この子も一緒か」
「そうだ」
「なら、無理はさせるな。小屋はすぐそこだが、道が少しぬかるんでる」
「分かった」
空き小屋は、村の端から少し外れた場所にあった。
木造で、屋根は一部だけ補修されている。
中は完全に空ではなく、古い木箱と、壊れかけの棚がいくつか残っていた。
「使えそうだな」
「雨をしのげるだけでも違う」
ハルキが壁を軽く叩く。
「薬草を村に入れる前に、ここで軽く選り分けられる。村の中へ毎回全部持ち込むよりは楽だ」
その言葉は、かなり実用的だった。
村の中にずっと入り込まずとも、外れで受け渡しができる。
マリにとっても、人混みを少し避けられるのは助かるはずだ。
「ここを使っていいのか」
「今すぐ好きに使え、とは言ってない」
ハルキは釘を刺すように言った。
「村の者にも話は通す。まずは、薬草を置く場所として使えるか試すだけだ」
「それでも助かる」
小屋の中をざっと見たあと、俺は一つ気づいた。
床が少し湿っている。
このままだと、薬草を置くには向かない。
「下に敷くものがいるな」
「そこは村で手配できる」
ハルキが答える。
「古い布や、藁をまとめたものがある。すぐには無理でも、次に来るときには少しは整えられる」
「それならありがたい」
そこへ、年配の村人が荷を持ってやってきた。
薄い木板が数枚と、古い麻布がある。
「これも使え」
「小屋の補修か」
「ああ。壁の隙間をふさげば少しはましになる。床に直接草を置くなよ」
男はそう言って、マリをちらりと見た。
「この子にも、ここなら少し落ち着くだろう」
「……まあな」
マリは、小屋の中を見回していた。
人の家とは言いにくい。
けれど、森の拠点とも違う。
村と森のあいだにある場所としては、ちょうどいいのかもしれない。
「スズキ」
「ん?」
「ここ、つかう?」
「ああ。少しずつ使えるようにする」
マリは小さく頷いた。
それだけで、かなり前向きな反応に見えた。
そのあと、俺はハルキと一緒に薬草の受け渡しをした。
今日は少しだけ扱いの難しい草も混じっている。
村の人間が、傷薬として使う前に乾き具合を見て、別に分けていた。
「これ、前よりいいな」
ハルキが束を見ながら言う。
「乾きが安定してる」
「拠点で風が通る場所を作った」
「それが効いたか」
少しずつだが、確実に良くなっている。
そう分かると、続ける意味がある。
作業の途中、サヨがやってきた。
手には、小さな布切れがいくつかある。
「昨日の香り草、ちゃんと役立ってる」
「そうか」
「寝床に入れると、虫が寄りにくい」
「……へえ」
マリがその話を聞いて、少し目を細めた。
虫除けの草が、ちゃんと生活に入っているのを知って、嬉しかったのかもしれない。
「子どもにも分かるようにしておくと、覚えやすい」
サヨはそう言いながら、マリに布切れをひとつ渡した。
「これ、要るか」
「……いいの?」
「端切れだ。手当てにも、包むのにも使える」
マリは俺を見る。
俺が頷くと、そっと受け取った。
「……ありがとう」
「礼が言えるなら十分」
サヨは相変わらず少し厳しいが、前よりはずっと柔らかい。
昼前には、空き小屋の使い方がだいたい決まった。
次に来るとき、村から藁と古布を少し出せる。
俺はその代わりに、薬草の仕分けをもう少し手伝うことになった。
「完全に村の仕事を任せるわけじゃない」
ハルキはそう言う。
「だが、外れで乾燥や整理ができれば、こちらも楽だ。お前らも村の中に入りすぎずに済む」
「それは助かる」
「あと、村の中に入るときは、サヨにも声をかけろ。薬草の出入りを見てるからな」
「分かった」
サヨは俺の返事を聞くと、腕を組んだ。
「次からは、持ってくる前に種類を分けておいて。混ざってると仕分けが面倒」
「努力する」
「努力じゃなくて、やる」
「……はい」
そのやり取りに、ハルキが少しだけ笑った。
空き小屋を出るころには、空の色が少し明るかった。
帰り際、ハルキが俺を呼び止める。
「おい」
「なんだ」
「今日の場所、悪くない。次から、雨が来そうなら、入口で声をかけてからあそこへ運べ」
「勝手に置くな、だな」
「そうだ。分かってるならいい」
「了解」
ハルキは頷いて、それから少し声を落とした。
「この先、村の中でお前らをどう扱うかは、まだ決まってない。だが、少なくとも“迷惑なよそ者”ではなくなってきてる」
その言葉は、かなり大きかった。
完全に受け入れられたわけではない。
だが、存在を認められつつある。
それだけで、十分な進歩だ。
森へ戻る道で、マリが小さな布切れを見ながら言った。
「……こや、つかえる?」
「ああ。整えればな」
「わたしも、いく?」
「行くか?」
「……うん」
即答ではない。
けれど、怖さよりも「役に立ちたい」が少し上回っているように見えた。
「じゃあ、次は一緒に古い布を敷く」
「……わかった」
拠点へ戻ると、俺は受け取った端切れを広げた。
小屋に置いてきた木板のことを思い出す。
あれで床や壁の隙間を少しでも直せば、薬草の扱いがかなり楽になる。
村への持ち込みも、もっと安定するだろう。
それはつまり、食べ物や道具との交換が続けやすくなるということだ。
「スズキ」
「なんだ」
「また、いそがしい?」
「しばらくはな」
「……でも、だいじょうぶ?」
「ああ。前よりはだいぶな」
マリは少しだけ安心したように頷いた。
村と森を行き来する暮らしは、まだ始まったばかりだ。
だが、もう「ただ森で生き延びる」だけではない。
村の外れの小屋。
薬草の受け渡し。
仕分けの仕事。
マリが覚えていく村の空気。
そのどれもが、少しずつ生活を前へ押している。
火のそばで端切れを畳みながら、俺は思った。
この世界での仕事は、派手じゃなくていい。
小さくても、続けば意味がある。
そして今の俺たちには、その小さな続きが必要だった。
原案・構想
無職のおっさん
物語構成・本文作成
Perplexity
校正・文体調整
ChatGPT




