↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/44

第12話 村の空気

 村へ通う道は、まだ完全には慣れない。


 それでも、前よりずっと歩きやすくなっていた。

 草をかき分ける回数も減ったし、どこで川沿いを外れるかも覚えてきた。

 人の気配が近づくと、森の匂いに少しだけ畑の土の匂いが混じる。


「スズキ」


 後ろを歩くマリが、小さく声を出した。


「なんだ」


「……きょうも、むら?」


「ああ。薬草を持っていく」


「うん」


 返事は短いが、もうだいぶ落ち着いている。

 最初に村へ行くと言ったときのような、強い緊張は見えない。

 ただ、村が人の集まる場所だということは分かっているらしく、足取りには少し慎重さが残っていた。


 拠点で乾かしておいた薬草は、昨日より少し増えていた。

 ハルキに教わったものを中心に、似た草と混ざらないように束ねてある。

 まだ量は多くないが、村へ持っていくには十分だ。


 村に着くと、まずハルキがいた。

 昨日と同じ作業小屋の近くで、別の村人と話している。

 俺たちを見ると、軽く手を上げた。


「来たか」


「来た」


「ちゃんと分けたか」


「一応な」


 ハルキは薬草の束を受け取り、すぐに中身を確かめた。

 乾き具合、葉の形、茎の太さ。

 昨日よりも少し厳しい目つきだった。


「悪くない。前よりいい」


「それはよかった」


「だが、こっちは少し湿ってる」


「……どれだ」


「これだ。日陰で乾かし直せば使える」


 ハルキは指先で束の一部を示した。

 俺はすぐに自分でも確認する。

 たしかに、中心のほうが少しだけしっとりしている。


「次から気をつける」


「そうしろ」


 そこへ、昨日包みを渡してきた年配の村人がやってきた。

 手には、小さな布袋がある。


「前に持っていった火起こし用の木片、使ったか」


「ああ。よく燃えた」


「なら十分だ。今日はこれを持っていけ」


 そう言って、布袋を差し出した。


「これは?」


「食料だ。多くはないが、薬草の見返りにはなる」


 俺は受け取り、中を覗いた。

 乾いた木の実のようなものと、固めた保存食らしきものが少し入っている。

 今の俺たちには、かなりありがたい。


「助かる」


「礼はいい。使えるものを持ってきたなら、使えるものを返す。それだけだ」


 年配の男はそう言って、マリの方を見た。


「この子も、少しは慣れてきたか」


「……少しはな」


「そうか」


 男は短く頷いた。

 それから、村の入口の方を顎で示す。


「今日は人が多い。あまり奥へは入るな。子ども連れなら、なおさらだ」


「分かってる」


 村の中心へ向かう道は、昨日より少しだけ賑やかだった。

 水を運ぶ人。

 木材を抱える人。

 子どもたちの走る足音。

 見慣れない俺たちを見て、何人かが立ち止まる。


 だが、完全に排除される感じではない。

 薬草を持ってきたことと、ハルキが間に入っていることで、最低限の信用はあるらしい。


「この前の草だね」


 ある女の村人が、薬草の束を見てそう言った。


「乾かし方が前よりいい。これなら使えそうだ」


「ハルキに教わった」


「なら少しは安心だね」


 その言葉に、俺は少しだけ肩の力が抜けた。


 村の人間が、こちらを完全な異物として見ていない。

 それだけで、かなり違う。


 マリは、俺の少し後ろで静かにしていた。

 人が多い場所では無理に前へ出ない。

 だが、逃げる様子もない。

 周囲の声や動きを、少しずつ目で追っている。


「見てるか」


「……うん」


「怖いか」


「ちょっと」


「なら、無理に慣れなくていい」


 そう言うと、マリは少しだけ俺の袖をつまんだ。

 このくらいの距離感が、今はいちばんいいらしい。


 作業小屋の前で、ハルキが今日持ってきた薬草を並べた。

 そこへ、別の村人が一人、慎重そうな顔で近づいてきた。

 年は若い。

 腰には細い袋。

 手には、小さな包みをいくつか持っている。


「ハルキ、それ、新しい草か」


「ああ。森の奥じゃない。あの辺りで採れた」


「ふうん」


 若い村人は俺をちらりと見た。

 そして、少し迷ったあとで口を開いた。


「森の奥まで行ってないなら、採りやすいだろ。こっちの採取場所でも似た草がある。けど、乾かす前に傷むやつも多い」


「この村では、こういうのをよく扱うのか」


「まあな。薬草は必需品だ。傷薬にするものもあるし、熱を下げるものもある」


 ハルキが横から補足する。


「村で使う分だけじゃない。余った分は別の集落に回すこともある」


「運ぶのか」


「ああ。森を抜ける道があるからな。ただ、無理はしない」


 その言葉を聞いて、俺は少しだけ考えた。


 薬草が、ただの採取物ではなく、行き来のある品物として扱われている。

 つまり、ちゃんと整えれば、今の俺たちでも何かしらの役に立てる。


「……記録に残してある草なら、もっと量を増やせるかもしれない」


 そう言うと、ハルキが俺を見た。


「焦るな。量より、まずは確実に分けられることだ」


「分かってる」


「分かってない顔だな」


「そう見えるか」


「見える」


 そこへ、年配の男が再び来た。

 今度は、木の器を二つ持っている。


「少し水を飲んでいけ」


「いいのか」


「村に来たなら、最低限のもてなしはする」


 器を受け取ると、ぬるい水が入っていた。

 川の水より、少し柔らかい気がする。

 マリも両手で受け取って、慎重に飲んだ。


「……おいしい」


 小さな声だったが、はっきり聞こえた。


 それを聞いて、村の男は少しだけ口元を緩めた。


「そりゃよかった」


 そのやり取りを見て、俺は気づいた。


 マリは、まだ人に慣れていない。

 でも、怖いから黙るだけではなくなっている。

 ちゃんと口に出して、反応を返している。

 それは大きい。


「この子、物怖じしないようになってきたな」


 ハルキがそう言うと、俺は少し笑った。


「最初のころよりはな」


「森で暮らしてるわりに、いい顔になった」


「それはどうも」


 村の空気は、まだ完全に気楽ではない。


 だが、昨日までの「警戒」から「様子見」へ。

 そして少しだけ、「受け入れてもいいかもしれない」へ変わっている。


 その変化が分かるだけでも、ここへ来た意味はあった。


 昼前、俺は薬草の束をもう一度整理した。


 量は少ないが、今日の分は受け取ってもらえた。

 見返りとしてもらった布袋の中身を確認すると、保存食のほかに、細い麻ひもが少し入っている。


「これは助かるな」


「使えるだろ」


 ハルキが言う。


「薬草を束ねるにも、何かを固定するにも必要だ」


「そうだな」


 マリは、その麻ひもをじっと見つめた。

 草履や魚罠の蔓とは違う、きれいに撚られた紐だ。


「触るか」


 俺が聞くと、マリは少し考えてから、そっと指先で触れた。


「……ほそい」


「でも、蔓より扱いやすそうだ」


「……うん」


 村を出るころ、空の色は少しだけ高くなっていた。

 すぐに暗くなる時間ではないが、長居しすぎるのもよくない。

 村の人間は最後まで俺たちを見送るわけではないが、完全に無視するわけでもない。

 その距離感が、今はちょうどいい。


「また来るのか」


 年配の男が聞いた。


「ああ。薬草を乾かして、また持ってくる」


「なら、次はもう少し種類を増やせるといい」


「やってみる」


「無理はするな」


 その言葉に、思わず口元が緩む。


 さっきまで「無理はするな」と言ったのはハルキで、今も村人が同じことを言った。

 この世界では、それがいちばん大事なのかもしれない。


 村を離れて森へ戻ると、空気がまた少し冷たく感じた。

 人の気配が減るだけで、森は急に広く見える。

 けれど、もう以前みたいな孤立感はなかった。


「スズキ」


「なんだ」


「……また、いける」


「ああ」


「わたしも、もってく」


「そうか」


 マリは少しだけ胸を張った。


 村へ行き、人に会い、言葉を交わしたことが、彼女の中に確かな感触として残っているようだった。


 拠点に戻ると、俺は受け取った麻ひもを火の近くではなく、岩陰の乾いた場所へ置いた。

 保存食はあとで少しずつ食べる。

 薬草の記録は、スマホに整理しておく。


 村とのやり取りは、ただ一回で終わるものじゃない。

 続けていくほど意味がある。


 焚き火の前で、マリが保存食を眺めていた。


「……これ、たべる?」


「あとでだ。固いかもしれない」


「……うん」


 その返事は、村へ行く前より少し落ち着いていた。


 人のいる場所へ行くことが、少しだけ「慣れたこと」になり始めている。


 この世界で生きるには、森だけでは足りない。


 村の空気を知ることも、道具を増やすことも、必要だ。


 そしてそれは、マリにとっても同じだった。


 小さな火のそばで、俺たちは村の匂いを持ち帰った。


 それはまだ、ほんの少しだけの変化だ。


 けれど、その少しが積み重なれば、暮らしはちゃんと前へ進む。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。