第34話 お蘭ちゃんコンサルで勝ち取った【信頼/忠誠:8】の絶対パワー
「あっ、権左衛門さん。お疲れ様です」
振り返ると、権左衛門は、腕を組んだまま、泥まみれの子供たちを眺めていた。
「ああ、お疲れ様。いやはや、今回は下宿の完敗ってところかな。さすがは平太殿だ」
「いやいや、勝ちとか負けとかじゃありませんよ。それより、お蘭ちゃんまで泥遊びに巻き込んでしまったみたいで。本当にすみません」
恐縮する俺に、権左衛門は首を横に振った。
その目元は、驚くほど優しく細められている。
「あんなお蘭の姿……。『コンサル』を受けさせていただいて以来、かなり前向きに変わってはいたのだが……。泥にまみれてあんなに声を上げて笑うなど、今までのあの子からは想像もつかん。親として、これ以上嬉しいことはない。改めて礼を言う」
そう言って、一村の長たる男が、俺に向かって深々と頭を下げた。
「やめてください。前にも言いましたが、あの明るい姿こそが、お蘭ちゃんの本来の姿なんですから」
今日の作業はもう終わりに近づいているというのに、夕日が薄く伸び始めた開墾地では、子供たちがまだ元気いっぱいに走り回っている。
俺と権左衛門は、その微笑ましい光景を眺めながら、自然と満足そうな微笑みを交わした。
だが、そんな温かい空気は、権左衛門の次の一言によって一瞬で吹き飛んだ。
「ところで、平太殿。少々聞きたいことがあるのだが――今日手伝いに来ておるあの者たちは、一体何者かね? 見たところ、上宿の人間ではないようなのだが」
(やっべ……! 早速突っ込まれた……)
背中に冷たい汗が伝う。
そりゃそうだ、この時代のコミュニティの繋がりは信じられないほど密なのだ。
顔を見れば、どこの誰だか一発でわかり、知らない奴は自動的に不審者だ。
何か適当な嘘で誤魔化そうと脳細胞をフル回転させたが、良い言い訳が全く思い浮かばない。
何てったって、彼らの正体は「山の賊」なのだ。
その場しのぎの嘘で目先を乗り切ったとしても、後々バレた時のリスクがデカすぎる。
俺は一呼吸置き、視界をシステム画面へと切り替えた。
正面に立つ権左衛門にピントを合わせる。
─────
名前:赤池権左衛門
年齢:56歳
属性:名主
体力:C
武力:C
技術力:E
知略:B
魅力:C
信頼/忠誠:8
スキル:---
─────
(おー……! パラメーターが見えるじゃん!)
ふむふむ、とデータを凝視する。
そして、最下部にある数値に目が釘付けになった。
【信頼/忠誠:8】
……待て、これってカヨの「7」よりも高いじゃないか(なんだか少し複雑な気分だが)。
ゲームの基準で言えば、「8」という数値はもう絶対的な信頼を置いているレベルだ。
うーん、一か八か、生半可な嘘を重ねるくらいなら、この【信頼/忠誠:8】のパワーに賭けてみるしかない。
「あの、権左衛門さん……。実は、彼らのことで、お話ししなければならないことがあります」
俺は覚悟を決め、朝秀さんから聞いた彼らの身の上話から、一昨日小屋へ迷い込んで出会ったことまで、隠さずすべてを正直に話した。
もちろん、彼らが村を騒がせている「山の賊」の正体であること。
そして、飢えた家族を生かすためにそうせざるを得なかったという理由も、すべて。
俺の話を聞き終えた権左衛門は、ふう、と深くため息をつき、渋い顔で口を開いた。
「そうなのか……。賊の被害は下宿でも出ておる。お主の言う通り、生きていくためとはいえ――簡単な話ではないぞ」
「はい、それは重々分かっています。でも――俺は、開墾が終わったら、彼らにこの土地を任せたいんです」
権左衛門はしばらく黙って、遠くで大汗を流しながら鍬を振るう朝秀たちの姿を見つめていた。
やがて、何か大きな覚悟を決めたように、力強く頷いた。
「平太殿の気持ちはよく分かった。今日見ている限り、彼らが決して根っからの悪人ではないことは、わしにも肌で感じ取れる。『野盗』にならねばならなかった理由も、十分に理解できた」
権左衛門は俺の肩をポンと叩くと、名主としての威厳に満ちた顔で不敵に笑ってみせた。
「よし、わしに任せろ。上宿の名主には、わしから上手く話をつけておこう」
「えっ……本当に、いいんですか?」
「お蘭を救ってくれた平太殿の頼みだ。これくらいはお安い御用よ」
そう言い残すと、権左衛門はどっしりとした足取りで去っていった。
彼の背中が遠くなると、俺は全身の力が一気に抜けたように、その場へへたり込んでしまった。
(強力な援軍なんてレベルじゃねえぞ……。上宿と下宿のパワーバランスの中で、これ以上の味方はいないだろ……)
これが【信頼/忠誠:8】のパワーか。
俺のパラメータは基本ユキホと共有されているが、権左衛門のこの高い数値は、お蘭ちゃんへのコンサルを通して、自分の力で勝ち取ったものだ。
ここには、もっと自信を持ってもいいはずだ。
あっ、でも、そもそも【魅力:A】はユキホベースの補正のおかげだったな……。
まあ、そこは「二人の力が合わさったハイブリッドな結果」ということで。




