第32話 『カヨ・ユキホ親衛隊』爆誕! 〜惚れた弱みとエナドリの魔力でギラつく少年たち
爽やかな朝の光が降り注ぐ中、俺はため息を噛み殺しながら開墾地へと向かって歩いている。
俺のすぐ横には、お揃いの制服にモンペ姿のユキホとカヨ。ここまでは、最高に眼福で平和な朝の風景だ。
問題は、俺たちの後ろをゾロゾロとついてくる、吉崎太郎とその仲間たち――総勢七名のクソガキどもである。
(ほんとに連れてきやがったな、ユキホのやつ……)
人手不足の現場において、労働リソースが増えるのは間違いなく助かる。
助かるのだが……何だろう、この言葉にできない気の重さは。
理由は明白、彼らとのエンカウントの瞬間にあった。
「おい平太! 今日はお前に協力してやるが、それはカヨとユキホに頼まれたからだ! 勘違いすんなよ!」
開口一番これである。一応俺、そこのユキホの父親設定なんだけどな……。
さらに、後ろのその他一味どもがフンスと鼻を鳴らしながら、揃ってビシッと俺を指さしてきた。
「俺たちは新たなる組織を結成した! その名も『カヨ・ユキホ親衛隊』だ! カヨとユキホに害をなす野郎は、たとえお前であっても絶対に許さないからな、覚悟しておけ!!」
……出たよ、親衛隊……。
中身は【知略:F】のクソガキのくせに、一丁前にそんな組織を作りやがって。
というか、どこの時代、どこの世界に行っても男のやることは変わらないんだな……。
親衛隊なんてものを結成した時点で、カヨとユキホは「自分たちには到底手の届かない聖域の存在」であると、暗に認めてしまったようなものなんだぞ。
(まあ、二人に最も手が届かないのは、三十八歳ロリコンおじさんの俺なんだけどな……)
心の中で虚しいセルフツッコミを入れつつ、朝一からカロリーの異常に高いコミュニケーションをぶつけられたせいで、俺の午前中のエネルギーはすでに使い果たされていた。
歩いているだけで、すでに精神的過労死寸前である。
今日は、山奥の小屋で出会った「山の賊」、大井朝秀さんも手伝いに来てくれることになっている。
(はあ……。人が多いってだけで気が重いな。一応上宿の代表者として、俺が諸々指示を出さないといけないんだろ……)
胃がキリキリと痛む。
そういえば、バニラアイスで劇的な回復を見せた織之助君の調子は、その後どうだろうか?
やがて、橋にさし掛かったところで、俺は思わず足を止めた。
開墾地の入り口あたりに、ものすごい人だかりができているのが見える。
「……おいおい、マジかよ」
遠目から見ても、かなりの人数だ。ざっと数十人はいるんじゃないだろうか。
おいおい朝秀さん、君たちの「仲間」って一体何人いるんだ?
これだけの人数が、あの薄暗い森の中に潜んで生活していたというのか……。
そんな賑やかな人だかりの輪から、あからさまに距離を置き、所在なさげにポツンと立ち尽くしている二人の影があった。
我が上宿のインドア文化系コンビ、久蔵と五助である。
本当に君たちはブレないというか、キャラが分かりやすくて最高だな。
驚いたことに、朝秀さんが連れてきてくれた人たちの中には、男性だけでなく、女性や小さな子供の姿も混じっていた。
まさに一族総出、コミュニティ丸ごとの大移動といった雰囲気だ。
本当にありがたい助っ人なのだが、さて、この混沌とした大所帯の作業割り振りをどうしたものか。
俺が頭を抱えそうになっていると、こちらに気づいた朝秀さんが、実直そうな顔をほころばせて駆け寄ってきた。
「おはようございます、佐藤殿。本日は全力で当たらせていただく故、何卒よろしく申す!」
「あ、おはようございます、朝秀さん。わざわざありがとうございます。それにしても……ものすごい人数ですね。本当に助かります」
「いや何、皆、佐藤殿に一度お会いしたい、礼をしたいと申しておりましてな。ただ……見ての通り女や子供も混じってしまっており、足手まといにならねばよいのだが……」
恐縮する朝秀さんに、俺は首を横に振って微笑んだ。
「いやいや、とんでもない。こちら側の本日の助っ人も、彼らですから」
そう言って、俺の後ろでフンスフンスと鼻息を荒くしている吉崎太郎一行、改め『カヨ・ユキホ親衛隊』を親指でさし示す。
カヨとユキホの前で良い格好をしたい一心で、無駄にギラギラとした気合いを漲らせている少年たちの顔を見て、朝秀さんは「あははは! 何とも心強い!」と豪快に笑った。
「そういえば、佐藤殿。先日お願いされた『あれ』ですが……持ってきております。あとでお渡しいたしますので」
「お、本当ですか! 助かります」
朝秀さんの言う「あれ」。
それは、先日俺たちが置いていったカップラーメンやゼリードリンクの空き容器、いわゆる「現代のゴミ」だ。
システムから獲得した便利なアイテムなのだが、残念ながら、その残骸がファンタジーのように自然消滅してくれるわけではない。
以前お蘭ちゃんに渡したケーキの空きトレイなどは、とりあえず納屋の隅に隠していたのだが、実はある重大な機能を発見していたのだ。
なんと、そういったゴミをシステム内に格納(回収)できるのである。
やり方はアイテムを出す時と似たような要領だ。
システムウィンドウを開き、視界のピントを現実にあるゴミに合わせると、光の輪っかが出現してシュウウゥ……とゴミを吸い込んでいく。
吸い込まれたゴミは、インベントリ内に出現した見慣れたアイコン「ゴミ箱」の中に格納される仕様だ。
はじめは『異世界に来てまでコンプラかよ!』って思ったけど……。
不法投棄でこの世界の生態系や歴史を狂わせないための配慮なのかもしれないが、機能として存在する以上、後々何か意味が出てくる可能性もある。
ちなみに、ユキホとカヨが日常的に消費するアイテムのゴミは、見つけ次第俺がこの機能で処理している。
ユキホには「食べた後のゴミはほったらかしにしないでね」と何度もお願いしているのだが、今のところ彼女がそれを守ってくれている気配は微塵もない。
本当に手のかかる相棒である……。
「あの、朝秀さん。今日皆さんに何をやっていただくかは、あそこにいる仲間と少し相談してから指示しますので、少々お待ちいただいてよろしいですか?」
「承知いたしました。我らは何でもやります故、気兼ねなくお申し付けくだされ!」
朝秀さんが快く頷いたのを確認し、俺は陰のオーラを放っている久蔵と五助のもとへと足を向けた。
同じタイミングで、ユキホとカヨは人だかりの中にツムギちゃんの姿を見つけたらしく、「ツムギちゃーーん!」と嬉しそうに手を振って駆け出していった。
当然、背後からは、親衛隊の野郎どもが血相を変えてそれを追いかけていく。
実に騒がしい……。




