第31話 「お湯を入れて、百八十秒でできあがるわ!」 〜驚愕する夫婦と、ドヤ顔の我が娘(仮)
「ん? 助けるって、どうやってさ」
俺が言いながら振り返ると、ユキホは両手の親指と人差し指で「輪っか」の形を作り、バチンと完璧なウインクを決めてみせた。
(うわ、何そのアイドルみたいな可愛い仕草……。あ、そうか。お得意の『光の輪(アイテム出現エフェクト)』のことね)
「朝秀さん、志乃さん。ちょっとまた後ろを向いてもらっていいですか?」
俺がインベントリを開こうとすると、ユキホが俺の隣にちょこんと座り、呆れたように言った。
「もういいわよ、それ(後ろを向かせるの)。今回は私がやるわ」
「えっ?」
ユキホがフッと微笑むと、彼女の大きな黒目がさらに一回り大きくなる。
目の前に小さな光の輪が出現し、数え切れないほどの「発泡スチロールのカップ」が山積みになって具現化した。
――これって、間違いなく某超有名カップ麺じゃん……。
しかも、醤油、シーフード、カレー、チリトマトまである……。
朝秀さんと志乃さんは、あまりの怪奇現象に完全に言葉を失い、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔で目を丸くしている。
「これは『カップラーメン』っていうのよ」
ユキホは山積みの容器をペシペシと叩きながら、得意げに説明を始める。
「中にお湯を入れて、大体そうね……百八十秒、心の中で百八十まで数えればできあがるわ。すっごく美味しいんだから!」
(ユキホ……お前、カップラーメンも体験済みだったのか。タナカさんめ……)
唖然とする俺だったが、すぐに気を取り直して朝秀さんたちに補足を入れる。
「ええと……これは先ほどの食料とは違って、かなり塩分や刺激が強いので、当面の間は織之助君には与えないでください。ご両親やツムギちゃんが食べる分には問題ありませんが、あまりこればかり食べすぎるのも体に良くないので、あくまで緊急の食料として使ってください」
朝秀さんは、恐る恐るその容器を手に取り、信じられないものを見る目で凝視した。
「これが……食物、なのか……?」
「そうですね。お腹は確実に膨れます」
「本当にかたじけない……。なんとお礼を言えばよいか……」
朝秀さんと志乃さんは、神の奇跡でも目撃したかのような顔で、再び深々と頭を下げた。
「あー。だったらさ、この人たちにも『あれ』を手伝ってもらいましょうよ」
山積みのカップラーメンを満足げに眺めていたユキホが、名案を思いついたように手をポンと叩いた。
「ん? 『あれ』って何を?」
「あなた、ほんとダメねぇ……。人手が足りないって言ってたじゃない」
(あ、また俺のこと『あなた』って言った……)
「あっ、そのことね。でも……」
俺が躊躇しているのを完全にスルーして、ユキホは朝秀さんたちに向き直り、テキパキと説明を始めた。
「あのね。この山を下りてすぐのところに、広い土地があるの。いま、ここにいる平太が責任者になって畑を作ろうとしているんだけど、とにかく人手が足りなくて困ってるの。だから、あなたたちにそれを手伝ってほしいんだ」
(おいおいおい、ユキホよ……)
俺は慌ててユキホの袖を引っ張った。いくらなんでも話が急すぎる。
この人たちは、村の連中から見れば「盗みを働く山の賊」なんだぞ。
そんな彼らをいきなりの開墾現場に連れて行ったら、村の男たちがどんな顔をするか。――血の雨が降りかねない。
だが、俺の心配を他所に、朝秀さんの目がカッと見開いた。
「そんなことであれば! 喜んで手伝わせていただく! いや、ぜひとも手伝わせていただきたい!」
朝秀さんだけでなく、志乃さんまでもが、何度も頭を下げる。
もう頭を床に叩きつける勢いだ。
「じゃあ、決まりね! 明後日から来てもらうのがちょうどいいんだっけ?」
ユキホは「わたし、すっごく良い仕事したでしょ?」と言わんばかりのドヤ顔を俺に向けてくる。
「あはは……。そうだね、じゃあ明後日の朝、現場でお待ちしています……」
俺は苦笑いするしかなかった。
まあ、人手不足なのはガチだし……。
なんだか胃が痛いが、決まってしまったものは仕方ないし、俺にこの空気を壊すのは無理だ……。
気が付くと、小屋の隙間から見える景色は、さっきよりも一段と薄暗くなっていた。
朝秀さんたちに見送られながら、俺はユキホとカヨの手を引き、急ぎ足で山道を下りた。




