第27話 なんというコミュ力…… 〜日暮れの山奥で警戒心ゼロの突撃をかます相棒〜
さらに山林の奥へと進み続ける。
相変わらず頭上の葉が光を遮っているが、木々の隙間から差し込むわずかな日差しの角度が、目に見えて傾いてきた。
周囲の薄暗さが一段と増し、気温も少し下がってきたように感じる。
「ねえー、二人とも。そろそろ暗くなりそうだから、引き返さないか? これ以上奥に行くと迷うぞ」
俺が提案すると、ユキホは返答の代わりに、ある方向を指さして声を弾ませた。
「あ、見て! 家があるわ!」
「えっ、うそ!? ……あ、本当だ! でも、なんでこんな山奥に……」
ユキホが指差した先を見ると、確かに生い茂る木々の向こうに、ひっそりと佇む建物が見えた。
家――というか、かなり粗末な掘立て小屋だ。
今にも崩れそうなほどではあるが、ちゃんと屋根があり、人の手が加わっている形跡がある。
よく見ると、板張りの隙間から、うっすらと白い煙が立ち上っていた。
「ねえ、ちょっと歩き疲れたから、あそこで休憩させてもらいましょうよ!」
ユキホはそう言うなり、カヨの手を引いて掘立て小屋の方へ走り出した。
「おい、ちょっと! 勝手に行くなって!」
俺の制止も虚しく、ユキホは小屋の前にたどり着く。
「こんにちはー! 誰かいますかー?」
(なんというコミュ力……。警戒心ゼロかよ。俺には死んでも真似できないぞ)
俺が心臓をバクバクさせながら追いつくのとほぼ同時に、ガタッ、ガタタッと建付けの悪そうな扉が開いた。
中から出てきたのは、一人の女性だ。
すらりとした、と言えば聞こえはいいが、かなり痩せ細っているように見える。
身にまとっている衣服も、上宿の女性たちが着ているものよりさらに粗末で、あちこちに継ぎはぎがあった。
女性は最初、突然の訪問者に「誰だ……?」と言いたげな、非常に訝しげな表情を浮かべていた。
しかし、目の前にいるユキホとカヨの姿を捉えた瞬間、驚いたように目を見開き、そして一瞬にしてその表情を優しく崩した。
やはり、愛らしい子供の姿というのは、それだけで警戒心を解く強力なパスポートになるらしい。
が、ユキホに促されるようにして、女性の視線が後ろにいる俺へと向けられた瞬間、女性の表情が再び強張る。
あからさまに警戒するような、冷ややかな怪訝顔に戻ってしまった。
(うっ……やっぱり怪しいもんな、この状況)
俺は胃の痛むような思いで、一歩前に進み出た。
「あの……いきなり押しかけてしまって、すみません」
できるだけ無害そうな笑みを浮かべて頭を下げる。
「いえ……。このような山奥まで、一体どうなされたのですか?」
女性の声は静かで、少し怯えを含んでいるようにも聞こえた。
「えっと、その……」
と、俺がどう説明をしようかと頭を回転させていると、隣からユキホが、無邪気な声で割り込んだ。
「あのね。 私たち、宝探しをしてたんだけど、疲れちゃったの。だから、少しだけここで休ませてほしいの」
くりくりの瞳で、一切の邪気を感じさせない完璧な笑顔。
それを見た女性は、ふっと張り詰めていた肩の力を抜き、今度は笑みを浮かべた。
「ふふ、宝探しですか。それは大変でしたね。――さあ、どうぞ。大したおもてなしはできませんが、中でお休みください」
「わーい! ありがとう!」
ユキホとカヨは、女性にお礼を言って、招かれるまま家の中へ入っていった。
おいおい……。二人の格好、制服(Ver.ドキドキJSL)だぞ。
サトさんの時みたいに「異国の奇天烈な服」としてスルーしてくれたのか?
それとも、下半身を覆っているモンペが、いい感じに怪しさを中和してくれたのか……。
何はともあれ、一歩間違えれば通報(この時代なら即座に武器を持った村人に囲まれるレベル)されてもおかしくないシチュエーションだ。
それを、こうもあっさりと突破してしまうとは。
さすが、【魅力:A】×【魅力:B】のコンビ……。
出会い頭でも相手の懐に滑り込める、天性の愛され力。
(でも、待てよ。俺もステータス画面上は【魅力:A】なんだよな。――いや、深く考えるのはやめよう……)
俺は小さくため息をつき、お邪魔します、と頭を下げて、薄暗い掘立て小屋の中へと足を踏み入れた。




