第26話 戦国異世界をどんどん濁らせる現代の利器
山林へと繋がる道の前に辿り着いた俺たちは、そこで足を止めた。
「うわ……これ、マジで入るのか?」
いつか調査がてら行ってみようと思っていた道だが、いざ目の前にすると少し躊躇してしまう。
それくらい、この先の森は鬱蒼としていた。
昼間だというのに、生い茂る木々が陽の光をほとんど遮り、薄暗い緑のトンネルを作っている。
だが、俺の躊躇などお構いなしと言わんばかりに、ユキホとカヨはなんの迷いもなく森の奥へ歩き出した。
「平太、早く来ないと置いてっちゃうわよ!」
「平太さん、早くー!」
手を繋いだ二人が、トトロの森に迷い込む子供のような無邪気さで、薄暗い森の奥へと吸い込まれていく。
「おいおい、ちょっと待ってくれって!」
慌てて追いかけるが、とにかく子供の足は早い。
緩やかではあるが登り坂。整備の行き届いていない道だというのに、二人は軽快な足取りでどんどん進んでいく。
対する俺は、呼吸を乱しながら小走りに追いかけなければ追いつかない。
「ちょっと待ってよー! 迷子になったら本当に大変だから!」
そう声を張り上げても、ユキホは振り返りもせず、ずんずん進んでいく。
けれど、カヨの方は「ついて来てるかな?」と、たまにこちらを振り返り、俺が追いつくのを待つように歩みを緩めてくれた。
(優しい子だな、カヨは。それに比べて、うちのリーダーは本当に容赦がない……)
そんな感じで歩くことしばらく。
道すがら、俺はシステム画面のレーダーに神経を集中させていた。
実はここまで歩く中で、いくつか熱源を見つけ、そのたびにお宝を獲得していたのだが……。
「また『至高のショート』と『エナドリ』かよ……」
今のところ、手に入ったものはすべて初期エリアで見つかるものと同じだった。
やはり、もう少し奥まで行かないとダメなのか。
半分諦めかけていたその時、視界の端に見慣れない熱源が灯った。
今までとは色が違う。
これまでの赤系とは明らかに異なる、「青」の熱源だ。
「ユキホ、あれ。あそこ見て!」
俺が指を差すと、ユキホが振り返ってその方向を見た。
「あっ……青い! もしかして、今までとは違うアイテムなんじゃない!?」
「俺もそう思う。よし、ここは慎重に……」
言い切るより早く、二人は青い熱源に向かって一目散に走り出す。
「って、おい! だから待てって!!」
もう、本当にこの二人ときたら……。
ブツブツと文句を言いながら、俺も慌てて後を追う。
二人が茂みに消えて数秒後。
彼女たちが向かったあたりから、ふわっと淡い光が溢れた。
「きゃー! 何これ! 可愛いーーーー!!」
静かな森に、二人の絶叫に近い、黄色い悲鳴が響き渡る。
どうやら、今までとは違う、何か嬉しいものを引き当てたらしい。
息を切らしながら、ようやく二人のもとに追いつく。
そこで俺の目に飛び込んできたのは、見たこともないほど満面の笑みを浮かべ、茶色くてモコモコした物体を、これでもかと抱きしめて大はしゃぎしている二人の姿だった。
――熊のぬいぐるみ……。
「ユキホちゃん! すごく可愛い! これなんなの!?」
カヨが目をキラキラさせて、ぬいぐるみの柔らかい手足を触りながら尋ねる。
「これは『ぬいぐるみ』っていうのよ。私がこの間までいた世界の女の子は、みんなこれが大好きなの!」
ユキホは自慢げに胸を張りつつも、カヨの嬉しそうな様子を見て、どこか満足げだ。
「ねえ……これ、カヨがもらってもいいの?」
カヨが上目遣いで、恐る恐るユキホに尋ねる。
この時代の子供にとって、こんなに愛らしくて柔らかい玩具など、想像を超えた存在なのだろう。
抱きしめる手にも、壊さないようにという緊張が見える。
「もちろんよ。これはカヨのぬいぐるみよ」
「やったー! ユキホちゃん、本当にありがとう!! 一生大事にするね!」
ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、頬ずりをするカヨ。
その横で、嬉しそうに微笑むユキホ。
(うーん、実によい光景だ。制服×モンペ姿の二人が、この時代には存在しない物体を抱きしめている姿はシュールだけど、尊いからオールオッケーだ)
「やっぱり、エリアを変えたら別のアイテムが出たね」
俺がそう声をかけると、ユキホはこちらを振り返り、さらに目を輝かせた。
「そうね! がぜんやる気が出てきたわ! どんどん探すわよ!」
現金なものである。
でも、このモチベーションの高さはありがたい。
それから、俺たちはさらに山林の奥へと進み、いくつかの熱源を見つけ、宝箱を回収していった。
どうやら、この熱源にはルールがあるらしい。
しばらく収集を続けて判明したのは、「青の熱源は『物(日用品や道具)』」、「ピンクの熱源は『食べ物』」というカテゴリ分けがされているということだ。
今回、青の熱源からは「ぬいぐるみ」のほかに、以下のものが獲得できた。
「風邪薬」:まさかの現代医療品。この時代、風邪は命取りになりかねないので、これはガチで命の綱になる。
「技術書」:表紙には難しそうな数式や図解が載っている。
一方、ピンクの熱源からは以下の食べ物が出現した。
「カップラーメン」:お湯さえあれば数分でごちそうが完成する、現代の奇跡。
「バニラアイス」:この時代には絶対に存在しない、冷たくて甘い至高のスイーツ。
「ゼリードリンク」:忙しい時の栄養補給。
――種類が増えるほど、この時代が濁っていく感じがするなあ……。
それにしても、この「技術書」って何の本だ?
まあ、システム的に考えれば、読んだら【知略】のステータスが上がるとか、何か特別な【スキル】が身につくといった効果があるアイテムなのだろう。
幸いなことに二冊手に入ったので、試しに久蔵と五助にでも渡してみるか。
ふと見ると、ユキホとカヨの手には当然のように「バニラアイス」が握られている。
木の匙で器用にすくい、冷たさに身を震わせながら「おいしい!」と頬を緩めている。
(……あれ? ユキホさん。朝、あんなに『ふっくら脱却』について熱く(?)言い訳してたのに、アイスは別腹ですか?)
突っ込みたい気持ちをグッと堪え、俺は彼女たちのモグモグタイムをしばらく見守った。




