第25話 「人手くらい、私がいくらでも用意してあげるわよ」 肩をすくめる責任者と、相棒の頼もしすぎるリクルート宣言
途中、ちょうど開墾現場を通りかかる。
今日は下宿チームも休みにしたのか、岩松たちの姿はなく、あたりは静まり返っていた。
その現場の様子を見たユキホが、足を止めて不思議そうにつぶやいた。
「ここが、平太が開墾をしてる場所よね? ――ねえ、こっち側とあっち側で、ずいぶん進み具合が違うみたいだけど。これ、どういうことなのかしら?」
ユキホが言う通り、現在歩いている中央の道を挟んで、右と左で状況が全く異なっている。
右側は、岩松たち「下宿チーム」が担当して進めているエリアだ。
土がグチャグチャに掘り返されているが、ただそれだけ。いろいろなものが放置され、作業が停滞しているのが一目でわかる。
一方、左側は、俺たち「上宿チーム」が担当しているエリアなのだが……。
こちらは掘り返されてすらいない。
何もやっていないよりは……と感じる程度で、右側に比べると遥かに遅れているように見える。
すなわち、両方とも中途半端。
ユキホが「どういう進め方をしてるの?」と疑問を抱くのも当然だ。
「あー、それね。あっちが下宿で、こっちが上宿。俺たちはちょっと作戦というか、アプローチの仕方が違うんだよ」
「ふーん。でも、こっち側が平太たちのエリアなんでしょ? あっちに比べて、だいぶ遅れてるじゃない」
ユキホは、半ば呆れたような、「あなた、サボって遊んでるんじゃないでしょうね?」と疑うようなジト目を俺に向けてくる。
「あはは、そう見えるよね。でも大丈夫、後半で一気に巻き返しができる想定だから……。まあ、多分」
「多分って何よ、頼りないわね」
「いや、理論上はうまくいくはずなんだけどさ。いかんせん、圧倒的に人手が足りなくてね。俺と久蔵、五助の三人じゃ、どうしても限界があるんだよ」
俺が肩をすくめてため息をつくと、ユキホはふっと不敵な笑みを浮かべ、胸を張った。
「ふん、そんなこと。人手くらい、私がいくらでも用意してあげるわよ」
「えっ!? 本当に!? それはめちゃくちゃ助かるけど……」
驚きつつも、俺の脳裏には、特定の顔ぶれが浮かんでいた。
――うん、絶対にあの「吉崎太郎」とその一味に違いない。
だが、子どもの細腕であろうが、今の俺たちにとっては喉から手が出るほど欲しい労働リソースだ。
岩松たちのように「力任せに開墾する」というアプローチであれば、子供の体力では厳しかっただろう。しかし、俺たちの作戦は異なる。
俺たちの作戦は、まずは水を張り、地盤をあらかじめ緩めてから、というものだ。
いわば、あらかじめ土を柔らかくしておくことで、非力な者でも簡単に作業ができるようにする作戦である。
昨日の午後、すでに手前のエリアにテストとして水路から水を引き入れ始めている。
五助の見立てでは、二日ほど放置すれば、十分に次の作業が開始できる柔らかさになるらしい。
この作戦であれば、子供の体力でも十分に戦力になる。
というか、そもそも俺、久蔵、五助の基礎体力は子供たちと大して変わらないのだ。
子供が戦力にならないようでは、この作戦自体が最初から破綻していることになる。
「マジで助かるよ。明日はまだ水を張って地盤を緩めてる途中だから、明後日以降ならいつでも大歓迎だ」
「わかったわ。いつまでもこんなところで畑仕事なんかしてる場合じゃないもの。さっさと終わらせて、次のステップに進まなきゃね」
頼もしく言い切るユキホの横顔を見つめ、俺は心の中で感心していた。
俺たちの当面の目標は、「駿河国と友好関係を築け」だ。
ユキホは一見、ただ自由に生きているように見えて、その実、やるべきことはちゃんと理解している。
そもそも、最終目的である「信濃国を守れ」は、ユキホ自身の都合なのだから、彼女が一番焦っているのかもしれない。
それにしても――吉崎太郎とその一味よ。
まさか、惚れた弱み(と、エナドリの魔力)によって、大の大人が音を上げるレベルの過酷な労働に駆り出されることになるとは。
まあ、あの吉崎太郎のステータスに刻まれた【信頼/忠誠:10】の数値を見る限り、彼らは文句を言うどころか、むしろ「ユキホちゃん(とカヨちゃん)のために働ける!」と、喜んで泥まみれになりに来るのだろう。
(いやはや……ユキホよ。君は相当なやり手だな。その年で男を転がす術を心得てやがる……)




