第24話 念願の制服ピクニック! だけど生足はモンペによって完全防衛されました
前方約三メートル。
そこには、おそろいの「制服」を身に纏った愛らしい少女が二人、仲良く並んで歩いている。
白を基調とした、清潔感と可憐さを兼ね備えたデザイン。
ポイントカラーとして、ユキホの制服には鮮やかな水色が、カヨの制服には温かみのある黄色があしらわれている。
キャラクターによってイメージカラーが異なっているあたり、なんとも「分かっている」作りだ。
さらに嬉しいのは、靴や靴下といった足元からヘッドアクセまでがセットになっている点。
それぞれのカラーのリボンや、愛らしい黒の革靴が組み合わさることで、完璧なトータルコーディネートが完成する。
以前、ユキホが着ていたあの安っぽいコスプレ用の「レプリカ」とは、布地の質感からして比べ物にならない。
肌に馴染むリアルな仕立てというか、コスプレでは絶対に感じられない、ガチの「本物感」がそこにはある。
ふわりと広がるプリーツスカート。その丈はもちろん、元のゲーム通りにかなり短め――なのだが。
非常に残念なことに、二人の生足は今、無骨な「モンペ」によってすっぽりと覆われていた。
「宝探しに行くなんて、そんな剥き出しの素足じゃ危ないでしょ。虫に刺されたり茨でケガしたりしたらどうするの!」
と、今朝、出発前の二人の格好を見たサトさんから、有無を言わさぬ勢いで支給されてしまったのだ。
(うん。確かにサトさんの言うとおりなんだけどね。ほんと、サトさんは気が利くよな……。ついでに持たせてくれた水筒とお弁当も、めちゃくちゃありがたいし)
頭では理解しつつも、男の悲しい性として、制服からスラリと伸びる美少女たちの生足を拝めなかったことに対する、一抹の寂しさは拭えない。
まあ、それでも「制服×モンペ」という、この世界でしかあり得ないカオスかつシュールなミスマッチ感が、一周回って新鮮で可愛いからよしとしよう。
二人はしっかりと手を繋ぎ、まるでお互いの距離を確かめ合うように歩いている。
その姿は、本物の姉妹のようだ。
実年齢で言えばユキホの方が上なのだが、見た目の雰囲気としては、カヨの方が少しだけお姉さんに見える。
このデコボコな姉妹感も、実に眼福だった。
今日の目的は、もちろんこの微笑ましい光景を特等席で眺めること。
そして、もう一つ――「お宝」の収集である。
俺は歩きながら、視界をシステム画面へと切り替えた。
あの「ピンク色の熱源(アイテムの反応)」が周囲にないか、周りを確かめながら歩を進める。
「あっ! 見つけたー。カヨ、あっちあっち」
「えっ? どこどこー?」
突然、ユキホが声を弾ませてカヨの手を引いた。
そして、道端の先にある鬱蒼とした藪の中へ、なんの躊躇もなく突っ込んでいく。
(うお、すごいな……。藪漕ぎに慣れている俺ですら、あの草むらに入るのは結構な思い切りが必要なんだけど)
「ちょっと待って、先に行かないでー!」
慌てて声をかけたが、二人の足取りは軽い。
モンペの防護性能を盾に、ガサゴソと草をかき分け、どんどん奥へと進んでいってしまう。
俺は置いていかれないよう、慌てて足を早めた。
「見つけたー!」
ユキホの嬉しそうな声が藪の奥から響く。
それとほぼ同時に、前方の草木に囲まれた一画が、一瞬だけふわっと淡い光を放った。
それと連動するように、俺のシステム画面に表示されている【アイテム】アイコンの隅に、赤いドットが点灯する。
やっとのことで草むらをかき分け、二人のもとに追いつくと、ユキホとカヨが手を合わせてキャッキャと飛び跳ね、大喜びしている。
そして、ユキホの両手には、お馴染みのアルミ缶――エナドリが握られていた。
(すでに実体化させてる……。ちょっと自由が過ぎやしませんかね、ユキホさん)
「はい、これ」
ユキホは振り返り、片方のエナドリを俺に、もう片方をカヨに手際よく手渡してきた。
「お、ありがとう。……あれ? ユキホは自分の分はいいの?」
不思議に思って尋ねると、ユキホは腰にぶら下げている竹筒――サトさんから支給された、お茶の入った水筒をポンポンと叩いてみせた。
「私はいいわ。今日はこっちにするから」
「ふーん。良い心がけだねえ」
その殊勝な態度に感心しかけたが、ふと、ある仮説が頭をよぎった。
――あ。なるほど。そういうことか。
俺はニヤリと意地悪な笑みを浮かべ、ユキホの耳元でささやく。
「さてはユキホ。エナドリが『ものすごく太りやすい飲み物』だってこと、ちゃんと学習した?」
その瞬間、ユキホの顔がカッと真っ赤に染まる。
彼女は俺をキッと鋭い目つきで睨みつけ、早口で言い返してきた。
「そ、そんなんじゃないわよ! 今日はただ、あんまり炭酸を飲みたくない気分なだけ!!」
そして、そっぽを向くと、何やらぶつぶつと小声で言い訳を並べ始めた。
「……飲み過ぎが良くないってことくらい、私だってわかってるのよ。タナカさんにも、糖分の摂りすぎは体に毒だって散々言われたし……」
あっ、また出た。謎の「タナカさん」。
ユキホの口からその名が出るたびに、彼女がどれほど「タナカさん」にお世話になり、影響を受けたのかがうかがい知れる。
いやはや、本当にうちのユキホがご迷惑をおかけしました……。
とはいえ、今朝のユキホの「密食」を、俺は知っている。
部屋の隅に、エナドリの空き缶が五本近く転がっていたのだ。
それだけガブ飲みしていれば、そりゃあ今はもういらないってなるだろうよ……。
――ん?
待てよ。まさかユキホのやつ、自分は竹筒のお茶でカロリーを控えつつ、カヨにだけエナドリを与え続けて――カヨを「ふっくら同盟」に引きずり込もうと画策しているんじゃなかろうな?
カヨがふっくらしていく様子を微笑ましそうに眺める、ユキホの姿が容易に想像できてしまう……。
「私、すでにこの村の周りは結構探したんだけど……」
ユキホは気を取り直したように、真面目な顔で話を切り出した。
「やっぱり『至高のショート』と『エナドリ』以外は全然出ないのよね。ひょっとすると、探す場所を変えないと、別のアイテムは出現しないんじゃないかしら?」
「うーん、その可能性はあるかもな。ゲームでも、エリアによってドロップするアイテムが変わるってよくあるし。――あっちの山の方って探したことある?」
俺は、川を挟んだ先に見える、青々とした山を指差した。
俺がここ最近、毎日開墾作業を行っているエリアのさらに奥。
そこには、鬱蒼とした山林へと続く細い道がある。
「あっち? そこはまだ行ったことないわね。よし、行ってみましょう」
ユキホがカヨの手を引いて歩き出す。
俺たち三人は、例の掛け直した木製の橋を渡り、開墾エリア奥の細い道へと向かった。




