第23話 俺の魅力がまさかの『A』!? 暴かれた救世主のステータスと相棒のジト目
――まあ、過ぎてしまったことは仕方がない。
エナジードリンクという未来の超常アイテムが、すでにこの時代の子供たちの胃袋と心をガッチリ掴んでしまっているという事実は、ひとまず脇に置いておこう。
それよりも、俺は今、さっき見た「吉崎太郎」のステータス画面について、改めて思考を巡らせていた。
【信頼/忠誠:10】
あれは明らかに、俺に向けられた数値ではない。
しかし、この数値がこの世界において意味を成すためには、何かしら合理的な理由があるはずだ。
太郎をはじめとするクソガキどもは、全員カヨちゃんかユキホちゃん(もしくはその両方)に惚れている。
「惚れている」という感情に、さらに「エナドリ」という圧倒的な物質的恩恵が合わさった結果、【信頼/忠誠】が爆発的に跳ね上がったと考えるのが最も自然だ。
ということは、【信頼/忠誠】のパラメータは、俺個人に対してだけではなく、カヨちゃんかユキホちゃんに対するもので──それはおそらくユキホちゃんのほうだ。
【信頼/忠誠】は俺の行動だけでなく、ユキホちゃんの行動によっても変化し、そしてシステム上に反映される。
実際に反映されているのだから、これは間違いのない事実だろう。
そして、もう一つ。
「なぜ、吉崎太郎のパラメータは見えたのか」という疑問だ。
以前、岩松、久蔵、五助の三人で試したときは、パラメータは表示されなかった。
だが、カヨちゃんは見えた。そして今回、吉崎太郎のパラメータも見ることができた。
この境界線は、やはり【信頼/忠誠】の数値にあるのではないか。
太郎の【信頼/忠誠】は「10」。
カヨちゃんは「7」。
岩松たちの数値がいくつだったのかはわからないが、おそらくカヨちゃんの「7」より下なのだろう。
つまり、このシステムにおける【信頼/忠誠】が一定の基準値を満たさないと、その人物の能力や詳細データは開示されない仕様になっているのではないか。
要するに、「一定以上仲良くならないと、その人がどんな人なのかはわかりませんよ」ということだ。
そう考えてみると、なんだか普通の人間関係と変わらないな。
こんなところでもプライバシーってやつなのかねえ……。
ちなみに、ユキホちゃんのステータスには、【信頼/忠誠】の項目自体が存在しなかった。
うーん……。
基本的には『戦プリ』と同じようなシステム画面なのだが、ところどころというか、中身は結構違っている。
そもそも原作のゲームには、プレイヤーキャラクターは存在しない。
画面の向こう側の存在という概念だけで、ゲーム内に直接干渉するキャラクターとしての「俺」はいないのだ。
そう考えると、【信頼/忠誠】の数値に、俺自身の存在が直接関係していなくても不思議ではない。
そもそも、俺から見えるシステム画面には、俺自身のステータスなんてどこにも表示されていないのだから。
「……じーっ」
ふと、正面から強い視線を感じて思考が中断された。
ユキホちゃんが、小首をかしげて怪訝そうな顔で俺を見上げている。
「な、何かな? ユキホちゃん」
「そういえばあなた、昨日カヨを『所有』したでしょ」
「えっ……!?」
俺は思わず息を呑んだ。
「うん、まあ、確かに所有したけど……。もしかしてユキホちゃん、アイテム以外も見えてるってこと?」
「そうね。あなたに何が見えているかわからないけど、一通り見えていると思うわ」
(なんですって……!?)
「いや、あのさ。ステータス画面の下に『所有する』ってボタンが出現してたからさ……。どんな機能なのかなって、試しにポチッと押してみたって感じなんだけど……」
なぜか気まずさを感じながら言い訳する俺に、ユキホちゃんは腕を組んで、ジト目を向けてくる。
「ふーん。まあ、カヨは私的にも大賛成だからいいんだけど。でも、以降は事前に相談してほしいわ」
「あ、はい……。善処します」
(おおう……)
自分の趣味嗜好や性癖に基づく行動までリアルタイムで監視されているような、なんとも言えない気恥ずかしさと違和感。
しかもその監視者が愛らしい美少女なのだから、精神的なプレッシャーは測り知れない……。
今後むやみやたらに美少女をコレクションするような真似は、完全にやりにくくなってしまった。
「……ねえ、ユキホちゃんの画面から見える『所有キャラクター』って、今は誰が登録されているの?」
気を取り直して尋ねてみる。
「そうねえ……。私の方からは、『あなた』と『カヨ』の二人が登録されているわね」
なるほど、予測通りだ。
「じゃあさ、俺のステータスって見えたりする?」
「うーんと、そうねえ。ちょっと待って……」
そう言うと、ユキホちゃんの瞳のピントがずれ、黒目が少し大きくなる。
なるほど、俺も外からはこういう感じに見えていたわけか。
客観的に見ると、少し間の抜けた顔に見えなくもない。
「……見えたわ」
ユキホちゃんは、空間に浮かぶ文字をなぞるように、俺のステータスを読み上げ始めた。
─────
名前:佐藤平太
年齢:38歳
属性:救世主
体力:C
武力:E
技術力:D
知略:D
魅力:A
スキル:---
─────
「こんな感じね」
俺は、ユキホちゃんが読み上げた「俺のパラメータ」と、俺のシステム画面から見える「ユキホちゃんのパラメータ」を見比べる。
名前、年齢、属性。
その三つの情報以外――体力、武力、技術力、知略、魅力、スキルの項目は、完全に一致していた。
――やっぱり、そうか。
これではっきりした。
俺とユキホちゃんの能力値は、共通なのだ。いや、「共有」されている。
どちらか片方が体を動かして体力を鍛えれば、二人同時に【体力】の数値が上がる。
どちらか片方が頭を捻って経験を積めば、同時に【知略】が育つ。
お互いのあらゆる行動が、共通のステータスに影響を及ぼし、成長の成果を完全に共有できるのだ。
この過酷な異世界において、チート能力を与えられたのは、俺ではなく俺たち。
その本質は、まさにこの「能力値の共有」だったわけだ。
「ちょっと、ぼーっとして何考えてるのよ」
ユキホちゃんが退屈そうに俺の顔の前で手をひらひらと振った。
「いや、ごめん。俺たちの能力について、かなり重要な部分がわかった気がしてさ」
「ふーん。まあ、そんな小難しいことはどうでもいいわ。それより――あなたが今、頭の中で考えていること、当ててあげようか?」
「えっ? もしかしてユキホちゃん、もう気付いてた?」
まさか、と身構える俺に、ユキホちゃんはにやりと、いたずらっぽく笑みを浮かべた。
「昨日手に入れた、あの『制服』。今日、私たち二人に着せるつもりでしょう」
「うぐっ……」
方向性は違うが、図星ではある。
「いいわよ。着てあげるからちょっと待ってなさい」
「お、おお……! 楽しみにしてるよ! あ、そうだ、あとさ、ユキホちゃん」
「なぁに?」
「その――『あなた』って呼ぶのやめてくれないかな? 一応、周囲には親子って設定で通してるわけだし……」
俺の提案に、ユキホちゃんは少し眉をひそめて、うーんと唸りながら顎に手を当てた。
「そう言われてもねえ……。『お父様』って呼ぶのは、やっぱり違和感が凄いのよね……。――じゃあ、『平太』でどうかしら?」
「平太! いいね。うん、それでお願いします! じゃあ、もう一個。俺もユキホちゃんのことを、『ユキホ』って呼んでいいかな?」
ややダメ元含みでそう問いかけると、ユキホちゃんは一瞬、おや、というように目を丸くした。
そして、照れ隠しをするようにぷいっと横を向いた。
「まあ、わかったわよ……。だったら、カヨのこともこれからは『カヨ』って呼びなさい。『所有』したんだから、もう私たちの仲間でしょ」
それだけ言い放つと、くるりと背を向けて、トトトッと小走りで母屋へと戻っていった。
ぶっきらぼうに言い捨てて去っていった割には、その背中はどことなく嬉しそうで、足取りも軽やかだ。
去りゆく彼女の背中を見送りながら、俺はふっと口元を緩める。
(ユキホ……。ひょっとして、自分が一番あの制服を着てはしゃぎたかったんじゃないのか?)
そんな可愛い相棒の様子に胸を温めながら、俺は待ち切れない気持ちで、ひとりソワソワと納屋に戻った。




