第15話 視界に広がるゲームUI。初期パラメータが低めのふっくら美少女
「とにかく。あなたには役割を果たしてもらうわ、聞いてない?」
「役割って何? 聞いてないって誰に?」
「役割は、私の国を救うってことよ」
あ、『誰に?』のほうはスルーされたな……。
「救うって、俺が? どうやって?」
「やり方はわかんないわよ。あれよあれ、なんか特別な力が与えられるって、父上が言ってたわ。それを使って国を救うのよ」
特別な力ってあれか、ケーキを出せるやつ。
なんともファンシーな能力。
……待てよ。
特別な力でユキホちゃんが出現したのだとしたら、もしかしてこの能力を極めれば、美少女をポンポンと召喚できるってことか?
となると、俺だけの美少女パラダイス──って、んなわけあるか!
「その特別な力って、もしかして……ケーキを出せるやつかな?」
「ケーキ! あなた、ケーキが出せるの!?」
ユキホちゃんの目が、これ以上ないほどキラキラと輝く。
「うん。試しにやってみるね」
俺はいつものように、頭の中で鮮明にケーキの姿を思い描き、念じる。
空間にゆらりと陽炎のような光の輪が現れ、コトリと透明なパッケージに包まれたケーキが落ちた。
それを拾い上げ、ユキホちゃんに差し出す。
「ほら、出たでしょ」
「すごい! ほんとだ! ──って、これ『至高の苺ショート』じゃない。もう食べ飽きたわよ」
一瞬でがっかりした表情に変わるユキホちゃん。
しかし文句を言いつつも、ペリペリと慣れた手つきでパッケージを剥がすと、躊躇なく食べ始める。
あー、コンビニケーキはもう飽き飽きってことね……。って、こらこら。食べていいなんて一言も言ってないぞ。
「でもさ。このケーキを出す能力だけで『国を救え』って言われても、正直どうしていいかわからないんだけど……」
「ううん、ケーキ以外も出せるわよ」
ユキホちゃんは小さな指についた生クリームをぺろりと舐めながら、事もなげに言った。
こら、お行儀が悪いぞ。
「そっか。さっきユキホちゃんを出せたのも、その能力の一部ってことなのかな」
その時、急に軽い目眩が俺を襲った。
さっき飲んだお酒のせいか、それともユキホちゃんに勢いよくお腹に乗っかられた衝撃のせいか、妙に気持ち悪くなってきた気がする。
視界が急にぼやけ、全体の明度が一段階落ちたような、奇妙な感覚。
──ん?
気のせいだろうか。
ぼやけた視界の隅に、小さなアイコンのようなボタンが浮かんでいる。
何これ……?
そのうちの一つ、小さな「×」のマークに意識を集中させてみる。
すると、カチリと音がしたような感覚とともにボタンが「●」に変わり、一瞬で視界が元のクリアな状態に戻った。
もう一度「●」に意識を合わせると、再び画面が暗転し、ぼやけた視界に切り替わる。
これって……もしかしてAR(拡張現実)ってやつか?
俺、スマートグラスとかつけてないけど。
「何ぼーっとしてるのよ。あなたは私の国を救わなきゃいけないの。わかった?」
「うん。でもちょっと待ってね。いま調べてるから」
「×」以外にも、下端に五つのボタンが並んでいる。
一番左のボタンに視線(意識)を合わせる。
ふわりと、視界の中央に半透明のウィンドウが広がった。
【ミッション:信濃国を守れ】
概要:北の海より脅威が襲来。あなたは戦力を集めて、信濃国を守り抜いてください
[達成期限:残り1003日]
タスク:駿河国と友好関係を築け。
……って、1003日!?
長いような短いような……微妙な日数だな。
いや、国を救うための猶予と考えたら圧倒的に短いのか?
しかも「北の海より脅威」って何だ? ロシア人か何かか?
嫌な予感と興奮が混ざり合うのを感じながら、次に二番目のボタンに焦点を合わせる。
今度は、見覚えのあるデザインの「キャラクターカード」がポップアップした。
そこにあるのは、目の前で今もケーキを頬張っているユキホちゃんのカードが一枚のみ。
【キャラクター:雪穂】
彼女のステータス詳細を覗き込んでみる。
─────
名前:神代雪穂
年齢:11歳
属性:巫女
体力:D
武力:E
技術力:D
知略:E
魅力:A
スキル:――-
─────
……あれ?
初期パラメータは普通、っていうか少し低め。
全体的に平均……それよりちょっと下くらい。
おいおい、リセマラしちゃうぞ……。
でも【魅力:A】だけは飛び抜けて良いな。
三番目のボタンを選択。
こちらは【スキルカード】の欄のようだが、中身は真っ白で何も保有してなかった。
そして四番目のボタン。【アイテム】。
現在所持しているアイテムは──「至高の苺ショート」×2
やっぱりケーキのみ! しかもあと二個しかないじゃん!
最後に、五番目のボタンに焦点を合わせる。
視界に展開したのは【マップ】画面だった。
古風な和紙の質感を模した日本地図が広がり、その中の一箇所、太平洋に面した地域が青くピンポイントで明滅している。
現在地……駿河国。あ、俺、今駿河国にいるんだ。
クエストのミッションが「駿河国と友好関係を築け」だった。
ということは、俺は今まさに、ミッションのスタート地点に立っていることになる。
しかし、この特徴的なUI、そして「信濃国」「駿河国」「夷狄」といった絶妙に和風ファンタジーなワードセンス。
間違いない。
これはいわゆる、あのゲームだ。
俺が元の世界で、狂ったように課金し、愛し、愛し抜き、愛するが故のストーキング行為的聖地巡礼にまで至ったスマホゲーム──通称『戦プリ』こと『戦国乙女☆プリンセス』の世界だ。
つまり、俺は『戦プリ』の世界にプレイヤーとして転移してしまった……ということ? らしい。
普通ならここで頭を抱えて大混乱するところなのだろうが、ぶっちゃけ、この世界に来てからすでに三ヶ月ほどサバイバル生活じみた日々を過ごしてしまっている。
なんだか今さら感があり、「なるほど、そういうことね」と、驚くほどすんなり腑に落ちてしまった。
「うん。だいたいわかったよ。そういうことね」
「何がわかったのよ?」
「いや、アイテムのこととか、これからどうすればいいのかとか、色々とね」
「へえー。あっ、そういえば父上が、何かを出す以外にもできることがたくさんあるって言ってた気がするわ」
……なんか、そのお父上とやら、めちゃくちゃ適当に伝言してないか?
「うん。まあ、そのあたりの細かいところは、実践しながら調べていくことにするよ」
正直、「国を救え」と言われたときはどうなることかと思った。
だが、ここが『戦プリ』の世界であり、自分がプレイヤーとして生身で放り込まれたのだとしたら、話は別だ。
目の前にある「ミッション」をクリアしていくことこそが、この世界における俺の最も自然な生き方であり、存在価値そのものになる。
さっきまで「これからどうやって生きていこうか」なんて、あてもなく黄昏れていたけれど、答えは最初から用意されていたわけだ。
おそらく、この先には「合戦」のような命がけの戦いも待っているのだろう。
正直なんか怖いが、絵空事すぎて、いまいち実感が湧かないというのが本音だ。
ゲームの仕様がそのままなら「プレイヤー(俺)は死なない(はず)」だし……。
「じーっ……」
ふと視線を感じて前を見ると、ユキホちゃんが不思議そうな顔をして俺を見上げていた。
口の周りに、これでもかというほど白い生クリームをつけたまま。
……うん。
【魅力:A】は間違いないな。




