episode 097
さすがの怪物拝島も、炎の力には敵わなかったらしい。
やがて黒い塊となったそれは、力なく床にゴロンと転がった。
「あれは、ただの聖水じゃ無かったのですか?」
気絶してしまった絵理花を介抱しながら問い掛けた愛唯に、冬流はニッと笑って言った。
「正解、あれはガソリンさ」
「ああ、そうでしたか」
納得した彼女は、頭をスパッと切り換える。
「あっ、早く証拠写真を撮っておかないと、またガセネタとか言われちゃう!」
彼女は懐から愛用のカメラを取り出して、パシャパシャと撮影を始めた。
「証拠写真……か」
夏純は、その物体を凝視していた。
既に風化が始まっているのか、微妙に輪郭が縮まってきている。
「怪物も、燃えてしまえばただの灰ね」
「編集長、左尾さん。明日の見出しは『たまみらい相談室の最強コンビが連続殺人事件の犯人に大勝利!』というキャッチコピーでどうですか?」
愛唯の問い掛けにも答えずに、冬流は一点を見つめていた。
彼の中で、何かが引っ掛かっている。
厳重な警備の所為で食事を摂取出来ずに、体力が落ちていた事を差し引いても、今日の拝島は驚くほど弱かった。
前回の下着泥棒と同じ……いや、それ以下の力しか無かったのだ。
(まるで、脱け殻のよう……ん、抜け殻?!)
そのワードが浮かんだ冬流は、はたと思い至っていた。
(そうか……こいつは拝島であって、拝島ではないのだな)
彼の頭の中で、少しずつ謎が繋ぎ合わさっていく。
おそらく、脱け殻の拝島は獣祠道によって生み出された『失敗作』なのだろう。
そして、一連の吸血鬼事件は不完全な肉体を維持するために、被害者の血を摂取していたと考えれば辻褄が合ってくる。
そしてそれは、獣祠道本来の儀式とは全くの別モノだ。
「道理で、話がややこしくなる訳だ」
冬流は、ぐっと唇を噛んで言った。
「新聞やテレビでは、犯人死亡のまま事件は解決したと報じられるだろう。しかし、その裏では……」
(まだまだ、何も解決していない)
同時にそれは、冬流や夏純といった一介の高校生が出来る範囲はここまでだ、という事も示されている。
「悔しいけれど、仕方がない」
ゆっくりと身体を起こした彼は、夏純達に向かって歩き始めた。
(……頼んだぞ、発明家)




