episode 093
「もう、いいかげんにして!」
石川絵理花は、ついに堪忍袋の緒が切れた。
彼女の隣に並び、澄まし顔で手を洗っている愛唯の胸ぐらを掴み上げる。
「なぜ、トイレまで一緒に入ろうとするのよ」
「一人になる個室が、一番危険なのですよ」
全く動じていない愛唯の態度が気にくわなかったのか、絵理花はますます態度を硬化させる。
「危険で結構!」
まだ何か言おうとした愛唯の手を払いのけて、彼女は駆け出していった。
(あーっもう、イライラする!何故わたしがこんな目に合わなきゃいけないの!)
一気に屋上まで駆け上がった絵理花は、ここ数日間鬱積していたものを吐き出した。
少しだけ気が晴れた感じがして、ふうっと息を吐く。
その時、彼女の周りが一瞬陰ったような気がした。
「……?」
何気なく振り返った彼女の目線の先……給水塔の上に、一人の中年男が立っていた。
全身を白いスーツに身を固めた彼は、何やら思案している感じだった。
「だ、誰?!」
恐る恐る尋ねる絵理花を、彼は品定めをするようにじいっと見て、独り言のように呟いた。
「まだ早い、熟すのはおそらく明日だろう」
一瞬の跳躍によって、彼はスタンと床に降り立った。
「だが、明日斯様な機会が訪れるとは限らない。やや早熟だが、ここは我慢するとしよう」
「ひっ!」
彼の言葉から、本能的な危機感を覚えた彼女は慌てて後退った。
「逃がさないよ」
流れる様な動きを見せた男は、彼女との距離を一気に詰める。
口元からは、ダラダラといやらしい涎がこぼれ落ちていた。




