episode 027
「ここよ、アキ」
村山香代は、下りかけた階段から身を乗りだして言った。
数メートル下に歩道が有り、人々が忙しそうに行き来している。
丁度スクリーンの真下に位置する場所に、数個の花束と線香が供えられていた。
「変な言い方だけどさあ、飛び下りた直後は凄かったらしいよ」
黙ってそれを見つめている秋希に、香代は説明を始めた。
「一度2階の欄干にぶつかったから、二度の衝撃で身体の一部がバラけちゃったんだって。腕がバス停まで跳んだとかさぁ」
同学年だが、殆ど知らない人間なので、彼女は結構遠慮なく話を進めている。
秋希自身も、北野鐘子という女生徒に面識は全くなかった。
「じゃあ、そのあと大変だったんじゃない?」
「そうなんだけどさぁ、不思議なのよね」
香代は、少し真面目な顔をして言った。
「実は、アキにこの話をしたのは、私自身も少し引っ掛かった所があったからなんだ」
秋希は、次第に自分の心臓の音が高まっていくのを感じていた。
「その時、たまたまウチのお姉ちゃんが通りかかったんだけどさ」
何か恐ろしいものを口にする感じで、香代は暫く言葉を選んでいたが、やがて思いついたように言った。
「無かったんだって、ほとんど」
「無かったって、何が?」
既に全身鳥肌状態の秋希は、身を捩らせた。
「……血、よ」
香代は、補足しながら言葉を続ける。
「普通、飛び降りだったら多くの血が流れて当然じゃない? 身体の部位が欠損している訳だから、大量の出血があってもおかしくない」
「それが、無かったんだ」
「身体の下に若干滲んでいた程度で、伊勢丹のウインドウには一滴も飛んでいなかったらしいよ」
(これは、何を意味しているのか?
現代版吸血鬼の仕業か、新型ドラッグの副作用か?)
様々な可能性が消えた後、最後に残ったのはやはり、先日の事件だった。
(何かが繋がっている。でも、まだまだ分からない事が多すぎる)
頭上のスクリーンを見上げ、思考を巡らせていた秋希はふと、視線の端に不自然な映像を捉えた気がした。
何気なく、そちらの方に目を向ける。
2階通路、立川駅から伊勢丹へ向かって、一人の男が歩いて来るのが見えた。
階段途中に居た秋希達に一瞥をくれて、彼は伊勢丹のドアをくぐって行った。
「どうしたのアキ、早くケーキ食べに行こうよ」
近付いて来た香代は、彼女の様子がおかしい事に気がついた。
「ちょっと、顔真っ青じゃない。大丈夫?」
顔面が蒼白になっていた秋希は、乱れた心を落ち着けながら言った。
「大丈夫……ちょっと、貧血を起こしただけ」
「休む?」
「いい、じゃあケーキ屋さんに行こっか」
まだ心配そうな顔をしている香代の背中を押して、秋希は駅の方へと歩き始めた。




