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インベンションマン|Invention-Man  作者: 黒珈|くろこ


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120/121

episode 119

「結局、今回の事件は左と夏純のお手柄となった訳だ」

 技術準備室内、手元にあった新聞を広げた春都が、三面記事を指差して言った。

 そこには、女生徒連続殺人事件の犯人を追い詰め、返り討ちにした二人として、左尾冬流と成田夏純の写真が紹介されていた。


「まあ、いいんじゃないの」

 大して興味無さそうな蔵敷は、ナタリーを相手にコンピューター囲碁に興じている。

「ホントの事を言っても、皆んなは信じてくれないよ」

「それもそうだな」

 春都も納得した様子で、新聞をテーブルに放り出した。


「それよりも……集合を掛けたということは、何か掴んだな?」

 春都が催促する中、蔵敷は両手を上げて投了した。

 これで10戦10勝となり、得意顔を浮かべているナタリーから眼を外した彼は、ゆっくりと話し始めた。


「ああ、この間大谷さんが目撃した車が映っていたドライブレコーダーから、黒幕らしきトコロを割り出した。一体どこだと思う?」

「お前が掴んだのなら……永田町関係か?」

「正解、なんと外務省だ」

 蔵敷は、声を潜めて囁いた。


「正確に言えば、動いていたのは外郭グループに属している非合法な戦闘集団らしいな。以前ほど派手じゃないが、あそこには使途不明の項目が紐付いた予算がゴロゴロしている。拝島のパトロンとなっていた奴も、多分その中からカネを拠出していたのだろう」


「なぜ外務省が、獣祠道なんて特殊なモノに目を付けたんだ?」

 春都の疑問に、蔵敷は真顔になって答えた。

「前に言っただろう、軍需産業はカネになるんだよ」

「なるほど……人獣兵器の輸出か」

「世界では、未だに戦争や内紛が続いている国はごまんとある。膠着・泥沼化した戦いに終止符を打つ為には、今までに存在しない『新兵器』の投入は大歓迎されるのだろうな」


 それを聞いた春都は、軽い吐き気を覚えた。

 人間同志が殺し合う兵器を仲買する事で、旨い汁を啜ろうとする連中が居るのだ。

 その兵器により、何千何万もの人々の血が流れる事も考えずに。


「まあ、最近あそこも何か注目を集めているからな、表立った動きは当面出来ないと思うぜ」

 蔵敷は、やや沈みつつあった空気を変えようとした。

旭納会長オヤジの目も光っているしな。それに、獣祠道はまだまだ不完全なんだろう?」

「ああ」

 彼から問い掛けられた春都は、カワセミの丘で見た不死鳥の最後の姿を思い出した。


 獣祠道の集大成と言うべき怪鳥は、確かに強烈な破壊力を有していたが、身体の組織が全く安定しておらず、そのまま放置していても勝手に崩れてしまいそうな造りであった。

 獣祠道に一番精通していた拝島でさえ、ここまで手こずっていたのだ。

 彼が亡きあとは、更に苦戦していることは間違いない。


 少しだけ安堵した春都は、ここで話題を変える事にした。

「まあそれはいい、ところで……」

 彼と目が合ったナタリーは、慌てて顔を反らしたまま動かなくなった。

「……ナタリー」

『ナ……ナニカシラ?』

 務めて冷静に振る舞おうとしている彼女見た彼は、業を煮やして言った。

「とぼけるな、何だあの『プログラムゲンナイ』ってのは?!」

『シッ、シラナーイ』

「専属AIのお前が、知らない訳は無いだろ!」


 マウスのポインタを彼女の画像の上に動かした彼は、その場でカチカチと連続でクリックした。

『痛イ!痛イ!』

 ナタリーは堪らず画面上を逃げ回る。

「バッテリーが切れている状態で、あんな大技は普通使えると思うかっ!!」


「まあ待て、ケビン」

 マウスを握った春都の手を制した蔵敷が、画面に近付きながらそっと囁いた。

「先週の伊勢丹のチラシ……『イケてるティーンエイジャーのモテ水着特集』だったんだよなぁ」

 隅っこで蹲っていたナタリーの耳が、ピクリと動く。

「可愛い水着も沢山あったし、今回の件を教えてくれたら、ケビンが幾らでも画像を取り込むと言っているのだけれど」

 いつの間にか画面中央に戻っている彼女は、指を咥えながら物欲しそうな眼をしている。

 蔵敷は、もう一押しとばかりに春都の方を向いた。

「な、ケビン」

「あ、ああ」

『……ワカッタワ』

 遂に折れたナタリーは、覚悟を決めて話し始めた。


『トハイッテモ、私ハ人工ぷろぐらむダカラ、詳シイ事ハアマリ分カラナイ。タダ、コノ世界ニ送リ込マレタノハ、先生ノ意思ガアッテノ事』

「先生、って?」

『平賀・源内サマ』

 あっさりと、ナタリーは答えた。

『コノ時代ニ、遠縁デアル子孫ニ困ッタコトガ起コルダロウカラ、助ケテヤッテ欲シイト言ワレタノ』


 それを聞いた春都は、かなりの衝撃を受けた。

(彼は、こんな未来の出来事まで予測して、超科学と呼ぶに相応しいAIを自分宛てに寄越してきたのか……)

 しかも、電子メールである。

 彼には将来、自分が倒した獣祠道使い榊原燕鼠の血が再び復活し、邪悪な人獣交換が行われるであろう事が分かっていたのだ。


「宿命……か」

 春都はふと、人間の姿だった頃の柚香の姿を思い浮かべた。

 いつも明るくて可愛いと評判だった彼女が、榊原燕鼠の血を継いだ継承者だとは、いったい誰が予想出来たのだろう。

 再びゲームを始めた蔵敷とナタリーを眺めながら、春都は先ほどから鼻先に付き纏っているほろ苦いものを、独りで堪えなければならなかった。

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